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ジャニーズ性加害告発のカウアン・オカモトさんが語った「自分は個人戦で」の思い

篠田博之月刊『創』編集長
カウアン・オカモトさん(筆者撮影)

 元ジャニーズJr.の告発が続き、まさに#MeTooとなっているが、その中でも先駆的役割を果たしたのがカウアン・オカモトさんだ。このカウアンさんが「ジャニーズ性加害問題当事者の会」に参加しないことや、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子前社長がカウアンさんらに会って謝罪したのに「当事者の会」にはまだそうしてないことなどをネットでおおげさに取り上げている向きもあるので、カウアンさんにそのあたりのことを聞いたインタビューを公開しておこう。

 もともとは、8月にカウアンさんが上梓した『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』をめぐってインタビューしたものだ。インタビューしたのは8月25日でそこから1カ月余たっており、当時語っていたジャニー喜多川氏への思いなどその後多少変わっている可能性はあるのだが、とりあえずそのまま掲載する。

          カウアンさんの著書
          カウアンさんの著書

 一連のジャニーズ性加害問題の展開でカウアンさんの果たした役割は大きい。2022年11月にガーシーさんのYouTube配信でジャニーズ事務所にいた時の「性加害」について告白し、今年4月には『週刊文春』に顔と名前を出して登場、さらに4月12日には外国特派員協会で会見を行い、その後署名活動を展開……。性加害問題が3月のBBCの放送を背景に大きな問題になったことは知られているが、実際にはその放送の後も日本のメディアは、『週刊文春』を除いてその問題を報じることに及び腰だった。

 誰かが実名で会見を開くとか、ジャニーズ事務所が正式に性加害を認めるとか、そういうきっかけがないと動こうとしないことが、まさにこの問題が何十年も封印されてきたことと関わっているのだが、その構造は今回も当初は同じだった。

 逆に言えば、9月7日に正式にジャニーズ事務所が会見を開いて謝罪したとたん、雪崩を打ったように告発が始まるという在り方も相当に危ういのだが、カウアンさんら告発した側にはある意味でそういう同調圧力にとらわれない面があった。「当事者の会」もよく見て見ると、参加した個々人によってかなり自由に発言を行っている。さて、これまでのところまさに「個人戦」で発言を続けてきたカウアンさんに聞いた話を以下、紹介しよう。

 

キンプリの話に反応、大きな反響が…

――ジャニーズ事務所「性加害」告発の動きの中でカウアンさんは大きな役割を果たしていますが、どういう思いで取り組んできたのか、まずはそのあたりのお気持ちからお話いただけないでしょうか。

カウアン 自分の人生の転機と思えたのが昨年7月あたりでした。パニック障害になったり落ち込んだり、人間関係とかでいろんなことがあって人間不信になったりもしました。

 でも、他人のせいにするんじゃなくて自分にも何か反省することはないのかと思った時に、自分も素直になってなかったんじゃないかなと思ったんです。相手に嫌なところを感じても直接言わずに目をつぶって仕事をしてたり、その人を僕のプライベートゾーンに入れてしまったりして、信頼しすぎた。いやそれは信頼じゃなくて単に嫌われたくなかっただけじゃないか、と考えました。

 そういうふうになったのはもしかしたら自分が蒔いた種なんじゃないかなとも思いました。人生の中で、もっと素直になりたいなと思ったのです。嫌いなことは嫌い、僕はこういう人間だってちゃんと言って、そのうえで波長が合う人と一緒にいたいな、と考えたのです。

 ちょうどその頃、11月に、キンプリ(King&Prince)のうちの3人の脱退が発表されました。キンプリは同期でもあったので僕はさらに考えさせられ、今までの人生が走馬灯のようによみがえりました。自分は2016年にジャニーズ事務所をやめてからもキンプリが同期で活躍しているジャニーズのトップで、超える目標として常に考えていたので、彼らがごそっといなくなることになった時に、もう今後、ジャニーズのことについて話す機会はないかもしれないと思いました。

 僕が事務所を辞めた経緯とか話して来なかったし、今さら言いづらいじゃないですか。ジャニーズ事務所で起きたことは、どこへ行っても伏せてたんですね。性加害のことについて訊かれても「別にないよ。わかんないよ」って答えてました。

 だけどキンプリの話が出た時に、初めてツイッターで反応したんです。辞めてから7年間、ジャニーズ事務所のニュースとかに反応したことはなかったんですが、その時、ジョークのつもりで「また俺と組む? 懐かしく四人でいこうぜ」と書き込みました。

ガーシーさんの配信で性被害を告白

カウアン そしたらすごい反響があって、僕のツイートに300万くらいアクセスがあったんです。すごく注目されました。退所したメンバーがどこに行くのか、みんな何が起きてるのかわかっていませんでした。僕も退所した当時は、辞めてもっとやりたいことがあるとか、同じような気持ちだった。そういうのがわかる気持ちがあるし、ジャニーズ事務所がどんなところなのかもわかる。それは自分の人生にも関わってくる問題だから話す機会があれば話したいなと思っていました。そしたら当時、ガーシーさんが配信で、キンプリの脱退について意見を募集していたのです。

 それを見て、じゃあ話す場としてはガーシーさんのところがいいんじゃないかと思って、僕から連絡をさせていただいたんです。そして僕のYouTubeと彼のサロンをつないでライブ配信をしたんですね。そしたらライブ配信中にガーシーさんから、性加害について「あったの?」と訊かれたんです。

 そこで「ありましたよ」と即答し、さらけ出したことで、自分が生まれ変わったというか、すごい反響がありました。応援したいとか、負けないでと言ってくれた方がほとんどでしたが、逆にアンチの声もありました。ジャニーズファンの方々が、そういうことを言うとジャニーズの印象が悪くなるからやめてほしいとか、がんばってるメンバーがかわいそうだとか、言われました。

 僕はその時は、この件について話すのはいいことないし、やめようかなと思って沈黙したんです。そしたらガーシーさんの配信が終わった後、すぐに『週刊文春』から取材依頼が来ました。ただ、その時は「もういいや、この件は」と思ったんです。これ以上やったら変なふうに広がっていくし、もういいや、今後は音楽やろうかなーみたいな感じでした。

『週刊文春』の取材、そして記者会見

カウアン そしたら3月にBBCの番組が放送されました。すごい奇跡的なタイミングでした。そこから僕の意識が変わっていったのです。数カ月前にガーシーさんと話していたから、当然、ネットで話題になりました。でもニュースでは取り上げない、憶測が飛び交ってる中で、じゃあちゃんと覚悟を決めて、もう一回正式にやるしかないのかなと思い、『週刊文春』の取材を受けることにしたのです。

 そして発売後、記者会見を提案されました。僕はびっくりしたんですけど、当時すごい反響だと聞いて、もうここまで広まっているならちゃんとやらないとと思ったんです。どこをゴールにするのか難しかったけれど、いったん説明しようというので記者会見を開いたという感じですね。

――その後、5月14日にジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が動画を公開するのですが、カウアンさんはその前にジュリーさんに呼ばれて会っているわけですね。そして立憲民主党のヒアリングに呼ばれ、その過程でカウアンさんの後に告発を行った橋田康さんと出会い、一緒に署名運動を行うわけですね。

カウアン そうです。今の児童虐待防止法では規制できないので法律を変えようという話になり、橋田さんが積極的に動いていたので、僕もいいじゃないかと思い、その後、国会へ足を運んだりすることになりました。

 通常国会が閉じたので法律改正の話は次の国会に持ち越しになったのですが、また秋に挑戦しようということになっています。

 それと僕としてはもうひとつ、法律を変えるだけでなく、性加害は絶対ダメというのを学校で教えるべきだと提案しています。いま学校で薬物については「ダメ。ゼッタイ。」と教えていますが、性加害についても学校で教えたほうがいいんじゃないかなと思います。

 わかりやすく子どもたちに「こういうことがあったら性加害だよ」と教える。アメリカの学校では結構あるらしくて、胸さわられたり股間さわられたりしたらそこはレッドゾーン、普通じゃないよって教えるらしいんです。日本でも子どもでもわかるような形で教えられないか。僕は性加害を受けた時15歳でしたけれど、そういう教育をどうにか組み込めないかな、法律改正とそれをダブルでできたらいいのではと思っているんです。

「グループでなく個人戦」思いは変わらない

――その後、いろいろな人が次々と自分の受けた性加害について告発の声をあげていきました。平本淳也さんを代表とした「ジャニーズ性加害問題当事者の会」も発足するわけですが、カウアンさんがそのグループに入ってないのはどうしてなのかと言われていますね。そのあたりはどういうお考えなのですか。

カウアン 僕は8月に『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋刊)という本を出して、それについてのYouTube番組で初めて言ったんですけれど、シンプルに僕は個人戦だと思ってるんです。それが一番大きいんじゃないんでしょうか。橋田さんとはたまたま国会で一緒になったんですけど、一緒に被害者の会を作るという発想はなくて、あくまでも橋田さんは橋田さんで、僕は僕。ほかの被害者たちが出てきても、グループで動くというのとは僕は考え方が違うと思っています。それが一番大きいかなあ。

 ただ「当事者の会」の人たちも、自分たちは個人でやってる人たちを否定しないとコメントを出していました。一人じゃできないこともあるので一緒にやっていると言っていたので、お互いわかり合ってるのかなと思います。

――告発をしている人たちも、ジャニーズ事務所に対してはそれぞれいろいろな思いがあると思います。カウアンさんは、性加害は受けたけれどジャニー喜多川さんには感謝もしていますとおっしゃっていますが、そういう気持ちは、この数カ月で変わってないんですか。自分は「感謝します」とは言えないという人もいますよね。

カウアン その気持ちは変わらないですね。そんなにころころ変わるものではないし、僕の性格から言ってもそうですね。ジャニーズ事務所を潰したいという気持ちでやっているわけじゃないし、憎しみを持ってやっていませんから。それよりも事務所が反省して、いい方向にいってほしいなと思っています。

 僕はジャニーズ事務所にいたのが7年前で、僕の青春時代を全部そこで過ごしてるんです。性加害の部分は嫌な思い出ですが、切磋琢磨して仲間たちと頑張った場所でもあります。高校生活も通信制にして全てをその活動に捧げてたので、それを全否定することはできないですね。

 ジャニーさんに対しては、まだ生きていたら複雑な思いはあるかもしれないけれど、亡くなってしまったので、今は生きている人たち、未来の子どもたちのことを考えて出来ることをやっていきたい。音楽を真剣にやりたいし、音楽をやるために事務所を辞めたのだからそうしないと辞めた意味もありません。

 ただジャニーズ事務所を辞めたら、音楽活動をするにも、ジャニーズコンプライアンスにひっかかってテレビ局などがビビって勝手に忖度をしてしまう現実があるので、そういうのはなくなったらいいなと思います。今でも暗黙のルールがある気がします。そういう日本の芸能界のあり方も、変わらなくてはいけない時だと思います。

活動はブラジルと日本の両方で

――『ユー。』にも、性加害について以前、お母さんに打ち明けた時のことが書かれていますが、その後この件について話したことはあるのですか。今の状況をお母さんはどう思っているのでしょうか。

カウアン 本人に任せる、という感じですかね。2回くらいしか話してないですよ。以前、さらっと話したのと、今回のことで向こうから電話がかかってきて、説明しました。でもお母さんは普段ポルトガル語を使っていて日本語がわからないし、いま何が起きてるのか正確にはわかってないかもしれません。

 もちろん僕の顔も名前も出ているので、周りの人たちからいろいろ言われたりして結構大変だったみたいです。ただお母さんは、自分も昔セクハラに遭っていたという話をしてくれて、それでも辛い経験だったのに、性加害なんて本当に許せないことだし、カウアンを信じて応援するしかないと言っていました。あなたが決めなさい、みたいな対応です。

 とにかく音楽をがんばってほしいと言ってます。あなたの夢は叶えてほしい、ブラジルと日本と、音楽活動を通して世界に羽ばたいてくれたらってずっと言い続けています。ジャニーズ事務所に入る前からそうでしたから。

――「The First」という新曲のミュージックビデオをYouTubeにあげてますが、性加害問題など、いろいろなことがあった中で作った曲ですね。ビデオのラストには「僕は1996年5月24日に生まれ 2023年5月24日に生まれ直した」で始まるメッセージが入っています。

カウアン 記者会見の前から曲自体は作っていましたが、最後のシーンは性加害問題の真っ最中で、喋りのナレーションをボイスレコーダーでとりました。

 そのミュージックビデオを一緒に作ったりするスタッフはいますが、僕は音楽活動もジャニーズ事務所を辞めてから7年間ずっと一人でやっています。一瞬だけ事務所に所属したんですけれど、ほとんどずっと自分一人でやってきました。

 もちろん日本だけじゃなくて世界的にも応援したいと言う人はいっぱいいるので、今後は、まず自分が会社化して、そこからマネージャーだったりチームを作って行くのかなという思いはあります。そのへんは模索中ですね。ただ、活動は間違いなくブラジルと日本と両方でしていきます。

 日本ではまださきほど話したジャニーズ事務所への忖度とかがありますので、性加害問題に何らかの決着がついた時点で、そのへんがどうなっていくのか。まだ先は読めません。

 ただいずれにせよ、僕は僕でがんばる、というのがスタンスです。今回、まだ性加害問題の真っ最中に僕が本を出したのは、性加害問題だけでなく僕の人生をわかってほしい、それをまとめて発表したいという理由です。それによって僕自身、自分に素直になれる。そして僕が音楽をやる意味がみんなに伝わるんじゃないか、そういう思いがありました。

――本についての周囲の反響はどうですか。

カウアン めちゃくちゃいいですね。コメント見ててもすごく反応がいいし。売り切れの書店もあるようです。

――お母さんも読んでるんですか。

カウアン 日本語読めないんで読んでないですね。でも弟が読んでて、お母さんに説明してるようです。本の中にもお母さんは結構登場しますからね。先日、お母さんは「表紙かっこいいね」と言ってました。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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