味噌煮込み販売数No.1。年間約150万食「サガミ」の実力
味噌煮込みうどんの有名ブランドをしのぎ最も食べられているのは…
名古屋めしの代表格・味噌煮込みうどん。土鍋からぐつぐつと味噌の香りがわき立ち、独特の打ち方をする専用麺は噛み応え抜群。個性派ぞろいの名古屋めしの中でも、他府県の人が食べた時のインパクトはトップクラスです。
味噌煮込みうどんといえば真っ先に名前が挙がるのが山本屋本店、山本屋総本家の2大ブランドです。それぞれ名古屋駅や百貨店など市内中心部に複数の店舗があるため観光客でも利用しやすく、この両店で初めて味噌煮込みうどんを食べたという人も少なくないでしょう。
両・山本屋はそれぞれ地元でも愛されている老舗の専門店ですが、実は両店をしのぐほど味噌煮込みうどんが食べられている店があります。名古屋を拠点とするサガミです。
「当社では2020年実績で146万食のみそ煮込を販売しています」とサガミ・広報の阿曽俊介さん。この数字は堂々レストラン(=外食)部門日本一です(以下、同社のメニュー表記にならって「みそ煮込」と表記)。
八丁味噌+自家製麺+バリエーションが人気の秘密
サガミは東海地方最大級の和食系外食企業でおよそ250店舗を展開。主力業態「和食麺処サガミ」は和食・麺料理のファミレスともいうべきブランドで、東海、関西、関東、北陸に合わせて118店舗。そのうち、おひざ元である愛知・岐阜・三重の東海3県での出店が81店舗を占めています(店舗数は2022年3月現在)。
「和食麺処サガミ」はほとんどの店舗が郊外のロードサイド型。車来店が中心の、すなわち地元の人をメインターゲットとした普段使いの業態です。ちなみにみそ煮込販売数レストラン部門2位は山本屋本店で、2018年実績で約141万食。15店舗での数なのでこれもスゴいですが、同店は観光客需要も高いため、やはり“名古屋人が食べているみそ煮込No. 1=サガミ”はゆるぎないといえるでしょう。
味噌は愛知県岡崎市・まるや製を使用。江戸時代からの伝統製法を守る正真正銘の八丁味噌です。これをベースに複数の味噌をブレンドし、奥深いコクやほのかな辛味や渋み、そしてまろやかさのある味噌つゆに仕上げています。麺は自社工場でつくるオリジナル。しっかり角の立った太麺は、煮込むほどにつゆに麺がなじんで食べ進むにしたがってどんどんおいしくなっていきます。
ベーシックなみそ煮込の安定感・安心感のあるおいしさに加え、バリエーションの豊富さも人気の理由です。メニューブックの巻頭を飾るその種類はセットなどを含めて実に17品(2021年冬季の中部エリアのグランドメニュー)。野菜たっぷりの田舎風みそ煮込、ピリ辛でクセになる四川風みそ煮込、スタミナ系の牛ホルモン旨辛みそ煮込。さらに夏は冷やしみそ煮込なる変わりダネも。他にもみそかつとのセットや大海老天のトッピングなどで選択肢を広げています。
冬はお客の3割がみそ煮込を注文。関東・関西の約10倍!
興味深いのは地域による注文構成比の違いです。「愛知、岐阜では冬場は注文全体の3割近く、27~28%をみそ煮込が占めます。三重県だと少し比率が下がり、一番よく出る店で22%。関東、関西では3~4%ですから大きく差があります」(サガミ・阿曽さん)。
地元での人気は、冬、そして店内飲食に限らないといいます。「夏でも各店舗に10台以上ある専用コンロがフル稼働することも珍しくありません。従業員に聞くと家でもみそ煮込を食べるという。私は関西出身なので、最初は驚きました」(阿曽さん)
みそ煮込以外でも、みそかつやきしめんといった名古屋めしは、売れ行きの地域差が大きいとのこと。
「みそかつ丼、みそかつ定食は東海地方で年間約20万食を提供していますが、その他のエリアでは店内提供をしていません。串かつは、東海地方では9割の方がソースではなく味噌を選択します。きしめんはうどん、そばと並ぶ麺の選択肢のひとつなので注文数のデータを出すのが難しいのですが、特に関西ではうどん文化が強いため敬遠されがち。メニューから外したこともあります。きしめん離れといわれたように名古屋でもかつて注文数が落ちていたのですが、2015年頃に麺の改良を図ったことで現在は持ち直しています」
ちなみに地域差がないのは手羽先で、全国どこの地域でもよく売れるとか。また、中部地区より関東、関西の方がよく売れるという名古屋めしも。それはうなぎのひつまぶし。サガミは地元以外ではややアッパーな和食レストランという位置づけで、そのためごちそう感が強く単価も高いひつまぶしがよく出るのだそう。逆にポピュラーな存在として親しまれている地元では、日常食ともいえるみそ煮込やみそかつの優先順位がグッと高くなるようです。
「名古屋めし」で外食不況を脱却しV字回復!
かつてサガミの窮地を救ったのも名古屋めしでした。同社は外食不況の影響もあって2000年頃から売上がじわじわと低下。しかし、2010年頃を境にV字回復といわれるまでに復調を果たします。この時のテコ入れ策のひとつが“名古屋めし推し”でした。
「もともと持っている強みをお客様に向けてもっと訴求しようと取り組みました。そこで、あらためて打ち出したのが東海地区における『そばのリーディングカンパニー』であること、そしてもうひとつが『名古屋めし』でした」(阿曽さん)
みそ煮込やみそかつは、創業当時からの定番商品でしたが、他の外食チェーンにはない商品として、メニュー構成の中心的存在に位置づけ。アレンジメニューなどでラインナップを充実させ、メニューブックの中でも目玉としてアピールするようになりました。
それでも、これはあくまでおひざ元である名古屋エリアにおける、消費者の潜在的ニーズに応えたものだといいます。
「みそ煮込やみそかつがあるからといって名古屋めし専門店ではありません。お客様は名古屋めしを意識してご来店くださるのではなく、あくまで日常の食事の場としてご利用くださっている。それに応えて、麺類、和食のレストランのメニューのひとつとして、フラットな位置づけでラインナップしています」(阿曽さん)
つまり、名古屋めしは名古屋の和食レストランチェーンにおいて、消費者のニーズに沿ってメニュー構成を図った結果、必然的に主力に位置づけられたというわけ。その結果、年間約150万食のみそ煮込、20万食のみそかつが食べられているのです。
名古屋めしへの誤解を解く地元&海外での人気
「名古屋人は名古屋めしを食べない」。実は地元ではそんな風評もささやかれます。名古屋めしはみそ煮込ならば山本屋本店、山本屋総本家、みそかつならば矢場とんと、ナンバーワンブランドの知名度が高く、それらの店は名古屋めしブーム以降、観光客が行列をなすことが増えたため、名古屋めし=観光客向け、ひいては地元の人は食べていない、という誤ったイメージを抱いてしまう人も増えていると考えられます。
しかし、地元密着のチェーン店であるサガミでもみそ煮込やみそかつは堂々たる主力メニュー。名古屋めしは地元の人が食べている、といって間違いないのです。
もうひとつ「名古屋めし=風変わりなB級グルメ」という誤解も根強くあります。そんな誤解を解く可能性を秘めているのが、サガミの海外での人気です。サガミはイタリアで6店舗を出店。「味噌=発酵食品で体にいい、というイメージは海外でも知られていて、みそ煮込やみそかつはイタリア人にも好評です。名古屋めしは海外で受け入れられる可能性が十分にあると考えています」(阿曽さん)
うま味重視の名古屋めしは、実は日本食らしさを分かりやすく表現した料理といえ、特に豆味噌を活かしたみそ煮込やみそかつはその代表格。海外の人に日本食の特徴や魅力を伝えやすい料理なのです。「名古屋めし」という言葉自体、東京からの逆輸入で名古屋で広まったように、サガミのみそ煮込やみそかつも、イタリアを経由して、あらためて日本人にその魅力が伝えられる、そんな可能性を秘めているかもしれません。
(写真撮影/すべて筆者)