広がる実習生支援と終わらない権利侵害(4)セクハラに過分な”家賃”、「FB相談室」に相次ぐ相談
「フェイスブック外国人実習生相談室」にはどんどん相談が寄せられています。特にベトナム人から相談が来ます。技能実習生は相談する場所がないんです――。
「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」(実習生弁連)が7月14日に都内で開いた設立10周年記念シンポジウムで、愛知県労働組合総連合(愛労連)の榑松佐一氏がこう指摘した。
◆増える実習生からの相談、ベトナム人からが最多
愛労連ではこれまで、フェイスブックのメッセージ機能を使い、技能実習生から相談を受け付ける「フェイスブック外国人技能実習生相談室」を運営してきた。【参考記事】「『フェイスブック』で実習生の相談受け付け:孤立しやすい技能実習生とネットによる『新しい支援』の可能性」
同相談室の相談件数は2016年が27件、2017年が33件。さらに、2018年は上半期(1~6月)だけで26件に上り、2016年の実績とほぼ同数に達している。
相談をした技能実習生の国籍はベトナムが77件と圧倒的で、フィリピンが5件、その他(カンボジア、中国、ミャンマー、モンゴル)が4件。榑松氏は「ベトナム人は相談先がないのではないか」と話す。
相談した技能実習生の職種は縫製が44件で首位となり、これに建設が18件、製造が11件、農業が5件、その他(食品・水産)が8件で続いた。技能実習生の就労先は愛労連の地元である愛知県が21件でトップとなっているが、岐阜県が14件、茨城県が5件、広島県が4件、奈良県が4件、山梨県が3件、その他が35件となり、全国から相談が来ている。
◆「社長の部屋に連れていかれて、お尻を触られた」
技能実習生からは、セクハラの相談もある。
最近では、青森県で働くベトナム出身の女性技能実習生から「社長の部屋に連れていかれて、お尻を触られた」との相談が入った。この女性技能実習生はこうしたセクハラを受けるだけではなく、「パスポートと通帳を会社に取り上げられていた」(榑松氏)。
榑松氏は相談を受けると、管轄の労基署にこうした事態について連絡。そして、労基署がこの会社に調査に入ったのだという。
しかし、問題はそれで終わらなかった。その後、「この女性技能実習生が会社に有給休暇の申請を行ったところ、会社はいきなり女性に解雇通知を出した」(同)のだ。
そのため榑松氏が急きょ入管にこの件を通知することになった。これを受け、今後は、監理団体が会社側に(解雇を)撤回させたという。そして、その後、会社は不正を認定され、「女性技能実習生は別の会社で就労できることになった」(同)。
セクハラ問題から始まった女性技能実習生からの相談。実際には、彼女が直面した問題は、パスポートと通帳の取り上げ、解雇通知というように、セクハラにとどまらないものだった。
◆「家賃」による搾取の仕組み
榑松氏が受ける相談の中には、過分な「家賃」に関するものも少なくない。技能実習生をめぐる問題は、未払い賃金や長時間労働、労災、暴力、暴言、セクハラなど多々あるが、毎月給与から引かれる「家賃」に問題があるケースも存在する。受け入れ企業によっては「家賃」の額を操作することにより、技能実習生から本来の「家賃」の実費を超える金額を過分に徴収する例があるのだ。
ある日、榑松氏のところに、ベトナム人技能実習生から「家賃」問題の相談が寄せられた。この技能実習生は2人部屋の「寮」に住んでおり、月に1人当たり4万円を「家賃」として給与から引かれていた。その後、新しい技能実習生3人がこの部屋で一緒に暮らすことになり、部屋の住人の数は5人になった。それを機に、家賃は1人2万8000円になったという。
しかし、アパートの家賃の請求書をみると、この部屋の家賃は、実際には4万1216円だったのだ。技能実習生は5人で計14万円をこの部屋に払っていたが、本来の家賃を5人で割れば、1人当たり1万円もしなかったはずだ。
こんなケースもある。別の技能実習生は、出身国で家賃が月に2万1000円だと書かれた契約書に署名した。だが、来日後、家賃の額が月3万1000円に書き直された別の契約書へのサインを求められたという。
技能実習生の多くは日本で最低賃金水準の賃金で就労しているほか、来日前には高額の手数料を送り出し機関に支払うことが一般化している。多くがこの手数料の支払いのために出身国で借金をしており、いわば「借金漬け」の状態で来日し、この日本で就労しながら、借金を返していく。このため技能実習生は食費を月1~2万円程度に切り詰めていることが多い。中には月の食費が7000円という技能実習生もいた。食事は自炊、移動は自転車が基本となる。場合によっては自転車を持っておらず、ほとんど外出できない技能実習生もいる。貯金できるのは、この借金の返済が終わってからだ。「家賃」はこうして節約をし日本での暮らしを乗り切っている技能実習生にとって、切実な問題なのだ。
◆家賃の「実費」をめぐる問題
榑松氏によると、そもそも旧技能実習制度でも、「食費や寮費等を賃金から控除する場合には、労働基準法にのっとった労使協定の締結が必要であり、控除する額は実費を超えてはなりません」とされていた。
厚生労働省の通達には「第一項但書の改正は、購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、労務用物資の代金、組合費等、事理明白なものについてのみ、法第三六条の時間外労働と同様の労使の協定によつて賃金から控除することを認める趣旨」と書かれている。
また技能実習制度を推進する国際研修協力機構(JITCO)は「外国人技能実習制度における講習手当、賃金及び監理費等に関するガイドライン」(2012年)において、こう説明してきた。
2017年11月に施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の施行規則となる「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則」では、以下のように書かれている。
さらに、「技能実習制度 運用要領」(法務省・厚生労働省編、2018年6月)の「第4章 技能実習計画の認定」には、より詳しくこう記されている。
このようなガイドラインがあるものの、家賃をめぐる問題は容易ではない。労基署の監督官によって、家賃の「実費」に関する解釈に違いがあるのだという。
榑松氏は「先の厚労省通達を読むと、契約書に書いてあることを理由として、その家賃の金額が『事理明白』であるとは言えない。実際に「事理明白」な家賃の実費分以上の金額を労使協定で控除してはならないはずだ」と指摘。しかし、「労基署の監督官によっては『(実費を超えていても)契約書にサインしている。だから事理明白でないとまでは言えないので、サインした通りの家賃が認められる』とするケースもある」と説明する。
こうした中、実費を超える家賃を給与から引かれていると訴える技能実習生の相談が後を絶たないというのだ。
(「広がる実習生支援と終わらない権利侵害(5)」に続く。)