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<ガンバ大阪・定期便74>黒川圭介、山本悠樹、食野亮太郎。それぞれの言葉で振り返る、美しきゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
互いの狙いと動きを合わせた崩しで同点ゴールを生み出した。写真提供/ガンバ大阪

■広い視野で捉え、信じて走り、決め切った同点ゴール。

 それぞれの狙いと精度が、美しい連動を生み出したゴールだった。

 23節・横浜F・マリノス戦の前半終了間際、44分に生まれた食野亮太郎のゴールシーンだ。起点になったのは左サイドバックの黒川圭介。「パーフェクトでした」と胸を張ったシーンは、自陣の左サイド、やや内側でボールを受けたところから始まった。

「ダワンからボールをもらった時に、狙いとしては、逆サイドにいたネタ(ラヴィ)もしくは将太くん(福岡)に展開することを考えていました。ただ、遠くに目線を送っていた手前で悠樹(山本)が斜めに走ったのが視界の隅に入ったのと、そこに相手の中盤が(マークに)付ききれていないのが間接視野で分かったので『通せるな』と。なので遠くに出す素振りを見せながら、手前の悠樹を選択しました。スピード、弾道ともに我ながらパーフェクトだったし、気持ち良かったです(黒川)」

今シーズンは出場停止の1試合を除くJ1リーグ全試合している黒川圭介。写真提供/ガンバ大阪
今シーズンは出場停止の1試合を除くJ1リーグ全試合している黒川圭介。写真提供/ガンバ大阪

 ボールがうまく山本に渡りさえすれば、何かが起きるという予感もあったという。また山本のターンも抜群だったと絶賛した。

「マリノスの渡辺皓太選手の背後からスルスルっと出てきてその前に入っていった悠樹の走り方、ポジションの取り方もうまかったし、あのターンが決まった時点で、これは(ゴールも)あるかも、と思っていました(黒川)」

 パスを受けた山本は、黒川にボールが入った時点でやや前方、相手陣地の真ん中あたりに空いた『穴』を視界に捉えていた。それもあって「圭介が見てくれていたらいいな。そこで受けられたらチャンスになるかもな」と思いながら、スペースに走り込んだという。

「あれ? 真ん中がポッカリ空いているぞ、と。実際、そこに動き出すのを圭介がしっかり見てくれていて、理想的なボールがきたとは思ったんですけど、ジェバリも同じスペースを見つけたのか、圭介が蹴る瞬間に(前線から)落ちてきていて。自分の重心も前に向かっている状況だったので正直『え! そこでジェバリに触られたら地獄!』って思いながら(笑)、でもジェバリのフリックでもう一回自分が受けることも考えてそのまま走り続けました。そしたら、なぜかジェバリが触らなくて。もしかしたら僕がそこを狙って上がってきてくれているのを察してくれたのかもしれません。でもとにかく彼が触らなかったことで、自分が理想的にボールを受けられました。ただ、渡辺選手が来ているのはわかっていたし、後ろから走ってくる勢いを想像すれば、ここでボールを一旦置いてしまうと危ないな、と思い、あのターンしながら後方に置くようなトラップになりました。厳密にはあの方法以外に、相手を掻い潜る選択肢はなかったとも言えます(山本)」

 トラップの後、右足で出された前線へのスルーパスは「亮太郎(食野)に引き出してもらったもの」だったそうだ。ボールをトラップする瞬間から食野の動き出しが見えていた中で、彼のスピードと走り出しがオフサイドラインに引っかからないことも考えて、時間をかけずにパスを出すことを意識した。

「コースはバッチリと見えていたし、僕がトラップした瞬間に、亮太郎はもう走り出していたので、あのタイミングで蹴らないと、亮太郎がオフサイドになるかもな、と。なので、本当はインサイドでしっかり蹴りたかったのに、インステップのような蹴り方しかできなかった感じになりました。あれは僕のパスがというより、亮太郎がよく決めたな、と。相手のセンターバックを前にうまく切り返したところで勝負があったと思っています(山本)」

圧巻のパフォーマンスで中盤を制圧し、唯一無二の存在感を示し続ける山本悠樹。写真提供/ガンバ大阪
圧巻のパフォーマンスで中盤を制圧し、唯一無二の存在感を示し続ける山本悠樹。写真提供/ガンバ大阪

 そして、仕上げは食野だ。「素晴らしい動き出しからのゴールでしたね」と声を掛けると、得点シーンを振り返るより先に「あと2点は決めるチャンスがあったのでそっちが悔やまれます。勝ちたかった」と悔しがったが、自身が先発した試合では21節・柏レイソル戦に続く一発に「悠樹くんなら出してくれると信じていた」と言葉を続けた。

「悠樹くんにボールが入るなって思った時点で自然に体が動き、実際に出された弾道通りにボールが出てくるやろうって思いながら走っていました。悠樹くんがボールを持った時は必ず僕を見てくれていると信じていたし、練習からそれは感じられていたので。悠樹くんにボールが入りそう、とか入った時には必ずゴールが取れそうなエリアにアクションを起こそうと意識していました(食野)」

 前節・川崎フロンターレ戦は先発こそ外れたものの、ここ最近の試合でも示しているコンディションの良さ、体のキレを落とさないことをリマインドして準備してきた中で、マリノス戦は、今の自身のプレーが首位タイを走るディフェンディングチャンピオンにどれだけ通用するかもモチベーションにしていたと振り返った。

「体がキレているのも自信になっているし、試合中も休まずに頭が動いていることも結果がついてくるようになってきた理由の1つかなと。ここで相手がこういう持ち方をすればここにボールが出てくるだろうというような予測を、普段の練習はもちろん、公式戦でも絶えずやり続けているというか。守備でも攻撃でもしっかり頭を動かして、考えて動く、プレーを選択するということを休まずに続けられていることが、自分の理想的な形でプレーすることにもつながっているのかな、と。とはいえまだまだボールを奪う回数や、タックルの数は少ないので、もっと増やしていかないといけないと思っています(食野)」

同点ゴールを決めた食野亮太郎。最近は攻撃だけではなく守備での強さも光らせる。写真提供/ガンバ大阪
同点ゴールを決めた食野亮太郎。最近は攻撃だけではなく守備での強さも光らせる。写真提供/ガンバ大阪

■勝ちきれなかった中で見えた課題。そして湘南ベルマーレ戦へ。

 ただし、今シーズンのベストシーンに挙げても過言ではない見事な崩しから同点に追いついた展開からも、3選手揃って「勝ち切りたかった」と口を揃える。後半開始早々の51分に、マリノスにPKによる勝ち越しゴールを許したとはいえ、65分に同MFエウベルがこの日2枚目のイエローカードで退場になり、残り約30分もの時間を数的優位の状況で戦えたことを考えても尚更だ。

 それについては、改めて試合終盤の締めくくり方、試合の進め方についての課題を口にした。

「この試合に限らず、最近は試合終盤のアクションの量自体が少し足りないかなと。前線の選手はもっと動き出しを増やしていいと思うし、僕たちもそこをしっかり感じ取ってパスを出してあげなければいけない。暑いこの時期、集中力だとか体の疲労とか、いろんなものが蓄積する時間帯ではあるんですけど、そのアクションと量と質が最後にグッと上がるような展開に持ち込めれば、相手も当然嫌だろうし、自分たちもより矢印を前に向けて試合を締め括れるんじゃないかと思っています(黒川)」

「あの終盤に差し掛かった時間帯の『過ごし方』がチームとしてまだまだ下手だなって思います。勝っていたら守ろう、リスクを取らないでおこうという考えが根付いてしまっているというか。実際にそういう戦いで勝ち点を手にしてくることができたのもあるんですけど、そのツケが今、回ってきているなと。ボールを持ちながら、動かしながら、前に出ていける時は思い切っていかないと相手の守備は切り崩せないのに、回している最中にちょっと相手にプレッシャーをかけられたら『危ないから、戻そう』みたいな感じになってしまう。だから、2つ前の川崎戦みたいに2点のリードを追いつかれてしまったり、マリノス戦のように相手にリードを許して引かれた展開でも、ゴールから逆算した効果的な動き、ポジショニングができずに、なんとなく動いて、なんとなく回してという展開に終始してしまう。それだと、選手それぞれのプレーの特徴を考えても得点は増えていかないかな、と。そこはもう一度、チームとしても、個人としてもしっかり状況を見て何が必要かを考えて、選択していくことを思い切ってやっていく必要があると思っています(山本)」

 それらは明日19日、24節・湘南ベルマーレ戦を睨んだ言葉でもある。マリノス戦での黒星によって8戦負けなしの流れは途切れたものの、ようやくチームに生まれ始めたいい流れを止めないためにも「絶対に、連敗しないことはマスト(黒川)」だと語気を強める。

「ここで勝って再び軌道に乗るのと、連敗しちゃうのとではこの後の試合の流れが大きく変わる。誰が見ても大事な試合だということはわかっているし、しかも3試合ぶりのホーム戦なので。ここでしっかり湘南を叩くことでもう一度、勢いづきたい。湘南にはここ最近、勝てていない状況はありますけど、今年はそういう相手にも…例えば、22節・川崎戦もそうだし、18節・鹿島アントラーズ戦もなかなか勝てていなかった流れを食い止めて勝利を挙げることができている。そういう意味では今年は、いろんな状況を覆してきたので、湘南戦も過去の対戦のことは気にせず、しっかり勝つことだけを考えて試合に入りたいと思います(黒川)」

 『結果』へのこだわりを見せるのは中盤のコンダクターとしての存在感を際立たせている山本も然りだ。試合前の今、湘南戦に向けた彼の緻密な頭の中をここで全て明かすのは遠慮するが、試合の明暗を分けるカギには「丁寧に前進すること」を挙げた。

「相手の1列目のプレスを避けて、例えば不用意にセンターバックからサイドバックにボールを入れるシーンが増えると、相手のインサイドハーフには機動力のある選手がいると考えても『待っていました』とばかりに、そこで限定されてロングボールを入れられて、好調の大橋祐紀選手あたりにゴリゴリ、とエリア内に侵入されてしまいそうで嫌だなと。そういう意味では前進が難しいからと無理にボールを差し込まず、丁寧に前進することを意識したいし、そのためにどこを使うのか、という狙いをみんなでしっかり持って試合を進められたらと思っています(山本)」

 湘南戦は年に一度の恒例イベントとなった『GAMBA EXPO2023』の対象試合に。また夏休み最後、3試合ぶりのホームゲームということもあって、チケットは一部完売した席種もあると聞く。湘南には元ガンバ勢が数多く在籍していることも、ファン・サポーターの注目度を高めている理由の1つだろう。とはいえ「康介くん(小野瀬)には絶対にやらせない」と気を吐く黒川をはじめ「サポーターと一緒に喜べるゴールを」と気持ちを示す食野らの勝利に対する欲は十分に煮えたぎっている。

 その熱狂が渦巻くパナソニックスタジアムで、冒頭に書いたマリノス戦のような、ガンバらしく相手の守備を切り裂くゴールが生まれればーー。そして、スタンドで熱く声を張り上げるファン・サポーターの鼓動が束となってピッチに送り込まれれば、興奮はきっと歓喜に変わる。

『青』に彩られたスタンドの熱が、サポーターの声がパナスタを、ガンバを熱くする。写真提供/ガンバ大阪
『青』に彩られたスタンドの熱が、サポーターの声がパナスタを、ガンバを熱くする。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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