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日本社会に忍び寄る、違法ネットカジノ

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

このテーマはこれまでも何度か当ブログ上でも扱ってきているのですが、当局が一向に動く気配を見せないので、改めて注意喚起の意も込めて本エントリを記します。

例え海外にサーバーを置き、現地で何らかの運営許可を持っているオンラインカジノであっても、日本国内からそこにアクセスを行いギャンブルを行う事は違法です。このことは、2013年11月に私と友人の渡邊雅之弁護士(民事介入暴力対策委員@日弁連)とで企画した質問主意書に対する政府回答によって論証が為されています。詳細は以下のリンク先から。

ファイナルアンサー: オンライン賭博は違法である

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8134166.html

一から三までについて

犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。

ところが、このような政府見解が出た後も、オンラインカジノの日本社会への攻勢は止まりません。そのいくつかの事例をご紹介しましょう。

1. オンラインメディアにおけるPR記事攻勢

昨年あたりから、大手オンラインメディアにおける海外オンラインカジノのPR記事が増殖しています。以下、ご紹介するのは、その一部の事例です。

■2015年12月(デイリーニュースオンライン)

スマホやパソコンの前で一攫千金!? オンラインカジノって何ですか?

http://dailynewsonline.jp/article/1065158/?page=all

■2015年12月(日刊ナックルズ)

急成長するオンラインカジノは経済を救う! その"大儲け"のカラクリとは?

http://n-knuckles.com/culture/net/news002147.html

■2015年9月(サイゾー)

【横山美雪】のカジノのすゝめ「まずはオンラインで気軽にラスベガス気分楽しんじゃいましょ♪」

http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2015/08/post_6143/

■2015年6月(Business Journal)

美女と遊べるオンラインカジノ「36BOL」を知ってる?初心者でも手軽に稼ぐチャンス!?

http://biz-journal.jp/2015/06/post_10216.html

この種の記事は、そもそもは国内でアフィリエイトをやっているであろう人物が作成するブログやPRサイトなどで拡散されるのが伝統的な手法でありました。

ところが、ここ1年くらいの間に国内でも比較的大手のwebメディアにその利用を推奨する記事がPR記事として提供される例が散見されるようになっています。また、その内容もかつてはそこで「賭け」行われていることには直接言及はなされず、かなり曖昧に表現されてきたのが常ですが、ここ最近の記事は「換金可能」だの「一攫千金」だのと、そこに金銭の授受が行われることを前面に押し出しながらPRが行われるようになっています。

2. アフィリエイト・グループの増殖

現在、私自身がインターネットカジノの国内展開で最も危惧しているのが、アフィリエイト・グループの増殖です。

現在、海外にサーバーを持って展開する一部のオンラインカジノ業者は、海外から日本国内に向かってアフィリエイト・プログラムの提供を行っており、そこと契約するアフィリエイター達が国内での営業活動を活発化させています。それらは、自分の紹介する顧客から多層に亘って売り上げの一部を受け取るといういわゆるマルチレベル・マーケティング化されたプログラムであり、「月収1000万円以上になれる」などという売り文句を掲げながらグループが国内で増殖しています。

これらグループが己のビジネスの確実性を謳う一つのツールとして使われているのが、前出の国内ネットメディアにおけるPR記事であり、「これだけ多くのメディアに大々的に宣伝されているのだ」という事を一種の「裏付け」としながらアフィリエイターを募り、LINEやFacebookなどの閉じられたコミュニケーションツールを利用しながら脈々と日本社会にネットワークを広げているワケです。

また非常に迷惑なことに、このようなインターネットカジノを国内推奨するグループは、現在検討が行われている日本のカジノ合法化すらも、己自身のビジネスの確実性の論証として使用するのが常套手段となっています。そもそも、現在我が国で検討が行われているカジノ合法化は観光振興を目的としたものであり、観光施設の一環として実態を伴った形の営業を前提として進められているもの。観光を伴わないオンラインカジノはその検討の範疇に一切入っていません。しかし、彼らは「日本政府はカジノ合法化を検討している」「その時がくれば、これは必ずビッグビジネスになる」などという甘言を振りまき、ビジネスを売り込んでいます。

また、このような勢力がその活動の一環として国内のカジノ関連メディアにまで入り込み、「国内で海外のオンラインカジノでゲームをすることに対し、有効な法規制はない」などという誤情報の流布を行ったりもする。冒頭でリンク先を示した通り、日本国政府はここに「一般論として刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪、および第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがある」と明確に公式回答しているにも関わらず、であります。

カジノに対して偏見をもつ日本人が多いように、オンラインカジノも当然のように違法だと考えている人も少なくない。しかしネットカフェなどでカジノゲームを使って、カフェが胴元となり日本国内で客と金銭のやり取りをするといった明らかに違法なアングラカジノは論外として、現在のところ国内で海外のオンラインカジノでゲームをすることに対し、有効な法規制はない。

[…]もちろんカジノ解禁がすなわちオンラインカジノ解禁となるわけではない。しかしオンラインカジノが合法化されている国での税収入は莫大であり、国内でカジノ解禁による法改正があれば、オンラインカジノ解禁も視野に入れてくるのは必至だろう。

(出所:http://casino-ir-japan.com/?p=6072

ちなみに私自身は、上記記事が掲載されて以降、当該メディアに対しては一切の助力をお断りしています。

いずれにせよ上で示したPR記事とアフィリエイト・グループの増殖によって、日本社会に違法なオンラインカジノが着実に広がっている状況。繰り返しになるようですが、この種の行為に対して刑法犯罪が成立し得ることは既に政府見解として示されているワケで、これを実行力をもって示すべきタイミングに至っていると言えましょう。当局の対応が待望されます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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