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「やればできる!」プロ野球独立リーグ入りしたティモンディ高岸の絶対的ポジティブ思考が愛される理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

元・高校球児として知られるティモンディの高岸宏行が、プロ野球独立リーグの栃木ゴールデンブレーブスに投手として入団した。6月中旬には栃木県小山市でトライアウトに臨んでおり、所属選手2人を相手に5打席対戦して、被安打1に抑え、1三振を奪った。

7月19日には新入団記者会見が行われ、高岸はプロ野球選手と芸人の「二刀流」として新たな一歩を踏み出すことになった。

名門野球部出身のアスリートコンビ

ティモンディの高岸と前田裕太は、高校野球の名門である愛媛県の済美高校の野球部出身である。高岸はピッチャーとして、高校時代には最速147キロの豪速球を誇っていた。高校卒業時にはプロから育成枠で指名される話も持ち上がっていたが、それを断って大学に進んだ。だが、大学では故障をしてしまい、プロへの道を断念した。

そんな彼らは、抜群の運動神経を生かして、スポーツ系のロケ番組などで活躍している。全身オレンジの衣装に身を包んだ高岸は、いつも笑顔でゆったりした口調で「やればできる!」などとポジティブなことだけを口にする。そんな彼は数多くいる若手芸人の中でも唯一無二のキャラクターを確立している。

テレビでは高岸の方が目立っているが、ティモンディというコンビを戦略面で支えているのはネタ作りを担当する前田である。実は、高岸と同じ名門野球部に所属していた前田の身体能力は、高岸に勝るとも劣らないものがある。特に筋力には自信があり、全国の高校野球部員を対象とした筋力測定で全国1位を獲ったこともある。

しかし、前田はその恵まれた身体能力を自分から表に出すことはない。高岸を目立たせるために、あえて引き立て役に回っている。その方が高岸のキャラクターを際立たせることができるし、もともとそういう台本が用意されていることも多いからだ。

サポート役に徹する前田のプロ意識

お笑いの世界では「振る」という言葉がある。笑いを作るためにほかの人に向かって何らかの言葉を投げかけたり行動を促したりすることだ。話を振って、振られた相手が何かを答えて笑いが起きたとき、一見するとそれは受け答えをした方の手柄に見える。

だが、実際には違う。フリ(振り)がしっかりしていれば、そこにまっすぐに答えを返すだけで笑いが起きる。サッカーにたとえるなら、精度の高いパスが出ていれば、そこに足を出すだけで自然にシュートが決まる、というのと同じだ。

前田は天性のアタッカーである高岸の潜在能力を最大限に引き出すために、自分はあえて一歩引いて、精密なパスを出すことに徹している。そんな前田の若手離れした状況判断力があったからこそ、ティモンディはデビューしてすぐに売れっ子になることができた。

前田は、自分たちが芸能人として売れて、高岸に始球式で投げさせることを目標に掲げていた。その目標が実現したとき、マウンド上で高岸は涙をこぼしていた。一方、そんな高岸の様子を見守る前田ももらい泣きをしていた。

「やればできる!」は本気の言葉だった

高岸の決め台詞「やればできる!」は空虚なお題目ではない。ティモンディの2人はそれぞれが高い意識を持って目標に向かって突き進み、それを実現させてきた。彼らはいつでも本気なのだ。

前向きな生き方の極意は、絶対にできると信じること。そして、できるまでやり抜くことだ。プロ野球選手と芸人の二足のわらじを履くことになった高岸は「信じること」と「やり抜くこと」の二刀流でもあるのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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