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爆笑問題 太田光さんとバトルになったぜんじろうさんがホントに伝えたかったこと

大阪でステージに立つぜんじろうさん(4月26日 撮影)

 4月26日、連休直前の金曜日の夜。ぜんじろうさんは大阪・中之島でステージに立っていました。ぜんじろうさんはスタンダップコメディアン。マイク1本でステージに1人で立ち、政治や社会問題など敬遠されがちな内容を、下ネタや差別ネタなど際どい話とともにしゃべり倒して笑いにします。この日、最初に取り上げたのは、4月に世間をわかせたあの話題です。

 「爆問の太田光とのバトル、知ってますよね。僕がピエール瀧の事件のことで、相方まで責められるのはおかしいとツイッターに書いた。東国原さん(元宮崎県知事)のことばに反応して何気なしに書いたんです。それが翌朝起きたらえらいことになっていた。その時マレーシアにいたんです。そしたら知り合いが『ぜんちゃん、爆笑問題、悪口言うてるで』って教えてくれたんですよ。見たら太田光が『ぜんじろうは相変わらず厄介だね』と言ってる。おいおい、呼び捨てかいな、と思ってツイッターに書いたら、そこから騒動が広がったんですよね」

 このあたりの経緯は多くの方が知っているでしょう。ぜんじろうさんは最後に「先輩後輩だとか、そんなことにひっかかった自分の人間のちっちゃさですよね」と締めて笑いをとりました。

客をあおって盛り上げるのも芸のうち
客をあおって盛り上げるのも芸のうち

ホントに問題にしたかったことは…

 途中から先輩後輩騒動にすり替わりましたが、発端は違ったはずです。ホントは何を伝えたかったのか?終演後、話を聞きました。

ぜんじろうさん)

 最初は東国原さんに噛みついたってよく言われますけど、そうじゃないんですよ。報道の姿勢ですよ。ピエール瀧さんが逮捕された後の報道の異様な盛り上がり。ここまでするかというありよう。しまいには、電気グルーヴで相方の石野卓球さんまで謝罪を求められる。石野さんは何の犯罪にも関わりないでしょ。でもテレビはそんな石野さんに謝罪を求めるかのような番組を流し続けていたわけです。そこがおかしい。今の報道の姿勢はおかしい、筋の通らない連帯責任をあおっているじゃないか、ということを言いたかった。それでツイッターに書いたんです。

「石野卓球氏のツイートの件。東国原氏の“社会人として大丈夫なのか”発言ですが、麻薬の不祥事くらいで、ここまで騒いで、叩いて、ましてや容疑者でもないメンバーのツイートの中身をあげつらって、正義面でこんなに叩いて商売してる番組を平気でやってるほうが“社会人として大丈夫なのか?”」

相澤)

 なるほど、確かに結論で「こんなに叩いて商売してる番組」に矛先を向けていますね。

ぜんじろうさん)

 それが途中から脱線して太田くんとの騒動に関心が集まってしまいましたけど、結果的に注目してもらえたのはよかった。こうして注目してくれた人たちにどこまで興味を持ち続けてもらえるかが大切だと思っています。

客席との掛け合いが大切
客席との掛け合いが大切

スタンダップコメディで世の中を風通しよく

 ぜんじろうさんは上岡龍太郎さんの弟子になって芸人の道を歩みました。90年代には関西のテレビで人気を集めたから、関西圏でその時代を知る人たちの間では抜群の知名度があります。ところが東京進出がうまくいきませんでした。その後、アメリカでスタンダップコメディに触れて、今では海外でも活動しています。

 この日のステージでも政治ネタを織り込んでいました。「橋下徹さん横山ノックさん元大阪府知事同士の違いは何か?」

 橋下さんとはテレビタレントのころ、一緒にお好み焼きをつつきながら危ない冗談を言い合った。ところが知事になって変わった。理路整然とまじめなことしか言わなくなった。

 一方、ノックさん。選挙で応援に立った上岡龍太郎さんの「この人は悪いことはしません。…ええこともせんけどね(爆笑)」という言葉通り、知事になった後も同じユーモアのセンスで、ボケ担当らしく報道陣に突っ込まれて笑ってる。大阪人は正しい議論よりおもろいことが好きなんや。最後は悪いこと(強制わいせつ事件)もしたけども。

時にはキツいジョークも飛ばす
時にはキツいジョークも飛ばす

ぜんじろうさん)

 スタンダップコメディは政治のことや社会問題、大人の下ネタまで、どんどん取り上げて笑い飛ばします。でも日本では政治のことを言ってもウケません。それどころか冗談を真に受けて本気で怒ったりする。ネットで攻撃されることもあります。でも欧米ではそういった笑いが主流だし、アジア各国でも徐々に広まっています。

 それに、お笑い芸人の位置づけも違う。私が公演した多くの国々で、お笑い芸人は政治や社会問題についての見識を持っていると受けとめられているんです。その見識に基づいて笑いを作り、観客はそれを楽しみます。

 オランダで公演した時のことです。地元メディアのインタビューで「日本で中国脅威論が高まっているそうだけど、どう思う?」と聞かれたんです。私は「中国人は日本に爆買いに来る。で、中国製の商品を買って帰る。おかしいとは思うけど、東京の土地がすでにたくさん中国人に買われてるから、彼らにとっては中国で買い物するのと変わらないのかも。いま月の探査をやったら、すでにチャイナタウンがあると思う」と答えました。現状を捉えて面白おかしく考察するのもスタンダップの特徴です。

 これを日本でも広げるため、3年前に日本スタンダップコメディ協会を立ち上げました。まだ受け入れられているわけではありません。でも、政治や社会の問題から日々のささいなことまで、ちょっとした笑いに変えて、少しでも我々の暮らしの風通しをよくしたいですね。

今の報道おかしいんじゃないの?

 ぜんじろうさんがホントに伝えたかったのは、今の報道の姿勢っておかしいんじゃないの?という痛烈な皮肉でした。私たち報道の人間が心して受けとめなければならないことです。

 ぜんじろうさんのステージはこの連休中も続きます。きょう29日とあす30日は神戸。5月1日と2日は大阪、4日は姫路、6日と7日は大阪。スタンダップコメディで世の中に「」を入れようとしているのではないか?そう思わせる意気込みでした。

きみもスタンダップコメディ見に来えへん?(来ないか?)
きみもスタンダップコメディ見に来えへん?(来ないか?)

(画像・動画撮影 池田由利子氏)

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

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