世界中を10分に1回高頻度レーダー観測を目指すQPS-SAR衛星、国産固体ロケットで打ち上げ決定
2022年4月19日、QPS研究所は合成開口レーダー(SAR)を搭載した地球観測衛星の3号機、4号機を2022年度中にIHIエアロスペースが開発・運用する固体ロケット「イプシロン」6号機で打ち上げると発表した。
QPS-SAR 衛星は、QPS研究所が開発する合成開口レーダーで地上を観測する小型衛星。合成開口レーダー(SAR)は、マイクロ波で地上を観測することができ、光学衛星が観測できない夜間や悪天候時にも地上の様子を知ることができる。QPS研究所は100キログラム級の小型衛星に直径3メートルの展開アンテナを搭載した衛星を36機打ち上げる計画で、2025年以降には世界の任意の地点をおよそ10分ごとと高頻度に観測する衛星コンステレーションを計画中だ。2019年12月にQPS-SAR衛星1号機「イザナギ」、2021年1月に2号機「イザナミ」を打ち上げ運用している。2号機イザナミは地上分解能70センチメートルという高精細な観測に成功し、2022年3月に第5回宇宙開発利用大賞 内閣総理大臣賞を受賞した。
QPS研究所では36機の衛星コンステレーション実現に向けて開発を進めており、3号機、4号機を2022年度中に打ち上げる計画だ。1号機はインドのPSLVロケット、2号機は米スペースXのファルコン9ロケットで打ち上げたが、今回は国産固体ロケットであるイプシロンロケット6号機での打ち上げを契約した。
QPS研究所の発表によると、3号機、4号機は太陽電池パネルとバッテリーを追加し、使用できる電力量が増え、より多くの観測データを取得できるようになるという。また、JAXAとアルウェットテクノロジー株式会社が共同開発した、衛星のデータ処理を軌道上で可能にする「軌道上画像化装置」を搭載。これまで地上で行っていたデータ処理を衛星上で行い、SAR衛星のデータをより多く利用すできるようになることから、海上で船舶の動向を把握するといったニーズのある用途にも対応可能になる。さらに、3号機、4号機には衛星の軌道制御用のスラスター(小型エンジン)を搭載する。QPS研究所には地上の変化をミリメートル単位で精密に解析する干渉解析などのニーズも寄せられているといい、衛星の軌道制御によってこうした高精度な観測にも対応していく方向だ。
高頻度、高精度観測が可能なSAR衛星コンステレーション構築に向けてQPS 研究所はさらなる一歩を踏み出した。同社の創業者の一人、八坂哲雄九州大学名誉教授は「創業当初から考えていた、九州で製造した衛星を九州から打ち上げるという20 年越しの想いが実現することは誠に感慨深く、そのような機会を頂けたIHI エアロスペース様に感謝申し上げたい」とコメントした。
国産固体ロケットの開発で長い実績を持つIHIエアロスペースだが、これまでは科学衛星の打ち上げが中心で、2019年以降はJAXAの革新的衛星技術実証プログラムで複数の民間衛星を打ち上げる輸送手段となっている。IHIエアロスペースは世界で打ち上げ需要が増す衛星コンステレーション向けの受注を強化する方向性を示しており、QPS研究所のSAR衛星打ち上げは同社初の商用衛星の打ち上げとなる。