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【シンシナティ・マスターズ】杉田祐一、2年連続3回戦へ 見せた「ATPツアーの一員」の誇り

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

○杉田 3-6,7-6,6-1 J・ソウザ

「ちょっとケイレンが来ていて……」

 試合後の会見の、そのさらに後に彼は、ポツリとつぶやくように言いました。高温多湿な環境下で、連日繰り広げた熱戦。その影響もあったでしょうか、2回戦を戦う杉田は「身体の動かし具合がフィットしていなくて……いろんな部分で問題が発生した」状況へと陥りました。

 それでも最終的には、勝利という最も重要な結果を持ち帰ることができたのは、経験に裏打ちされた“試合を読む力”ゆえでしょう。第1セットを落とし、第2セットでは5度のブレークポイントを切り抜けて、なんとか辿り着いたタイブレーク。そのタイブレークでも2-4とリードされ、敗戦まで3ポイントへと追い込まれることに。際どい判定に憤慨する場面もあり、気持ち的にも切れたかに見えました。

 しかし窮状だからこそ、杉田には「ここを切り抜けられれば」勝利に近づけるとの思いがあったと言います。そのような読みや予感は、ツアー優勝に代表される過去の蓄積から弾き出れた、ある種の定跡なのでしょう。

 勝利に肉薄した相手が「かなり攻め急いでくる可能性」を考慮し、「エラーだけは減らさなくては」とまずは自身に言い聞かせる。同時に「冷静になり、目の前のポイントに集中する」ことを心掛けたと、試合後に彼は明かしました。

 果たして杉田の読み通り、次のポイントで攻め急いだかのように、ネットに出てくるソウザ。対する杉田はその時を待っていたかのように、鋭いフォアのパッシングショットを叩き込みます。

 そしてこの攻防を機に、試合の流れは確実に反転しました。4ポイント連取でタイブレークを……即ち第2セットを奪った杉田は、第3セットでは怒とうの6ゲーム連取。「エネルギーを使い切った」と感じるほどに、息もつかず一気に勝利へと走りきりました。

 杉田がこの一勝を「本当に大きい」と評したのは、ベストにほど遠いプレーながらも、勝つ術を見出すことができたから。

「トーナメントなので、1試合悪かったらそこで終わってしまうのがテニスの難しいところ」。

 いかに万全の準備をしても、一週間以上のトーナメント中には「フィットしないことは絶対にある」。それでも勝つ技量こそが上位に求められる資質であり、今杉田は急速に、その能力を体得しつつあるようです。

 ところでこの試合の第3セット序盤に、緊張感が観客席を走る場面がありました。それはソウザのサービスゲームで、客席にいた日本人の男の子が、杉田へ声援を送った時。そのタイミングに腹を立てたか、あるいは杉田贔屓の会場の雰囲気に募らせた苛立ちがあふれ出たか、ソウザは少年を怒鳴りつけたのです。

 この対戦相手の行為に、杉田は「許され難いこと」と憤慨。

「なぜあれでバイオレーションを取られないのか、遺憾に思っています」

 しかしその「遺憾」を杉田は、対戦相手への怒りではなく、不条理な目にあった少年への優しさとして表出しました。試合後に自らスタンドに駆け寄り、少年を手招きするとサインをあげ、一緒に写真にも収まります。

 昨年のこの大会で、「自分も“ATPツアーの一員”だという誇りを持って戦いたい」と宣言した杉田。その言葉を今彼は、コート外でも体現しています。

※テニス専門誌『スマッシュ』facebookから転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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