航空会社のオーバーブックはどうやって処理するのか。裏ワザ公開!
11月21日に羽田発福岡行日本航空335便がオーバーブックのために欠航となったニュースは皆さまご記憶にあると思います。
オーバーブック(以下、OBと略)とは飛行機の座席数以上に予約を取ることを言いますが、航空会社では日常的にこのOBを行っています。今回は375席の飛行機に401人の予約が入っていて、その処理に手間取ったため、羽田の出発が予定時刻よりも大幅に遅れ、このままでは福岡空港の門限(夜10時)に間に合わないことが判明したため、便そのものを欠航させてしまったことが大きなニュースになりました。
座席数より26人多いお客様のご予約ですが、そういう時はあふれたお客様に降りていただくことで便を出発させ、降りていただいたお客様には一定の賠償金をお支払いし、次の便をご案内するというのが運送約款で定められている手続きですが、今回の「事件」は、便そのものが欠航になってしまったために、約400名のお客様を一晩抱えることになってしまったということで、航空会社の大失態と報じられています。
では、通常、このようなOBが発生している場合、航空会社はどのような対応を取っているのかということを、20年以上成田空港に勤務してきた筆者が、その裏技的なハンドリングをご紹介したいと思います。
ところで、まず最初にお断りをしておきますが、「座席数以上に予約を取ることはけしからん。」とか、「オーバーブックを前提に航空券を販売するとは何事だ。」というご意見があるのは重々承知しておりますが、座席数以上に予約を取って航空券を販売する商売のやり方は、今回の日本航空に限らず、全日空も日常的にそうしていますし、全世界の航空会社がそういう方針で営業をしています。そして、そのことは運送約款にきちんと記載されています。予約をして航空券を購入するということは、その運送約款の内容を承諾したということですから、OBがけしからんという方は航空会社のお客様にはなれないということになりますので、ここではその議論はいたしません。
OBの場合のハンドリングの手法のみを取り上げさせていただきますので、予めご了承ください。
さて、375席の飛行機に401名の予約を取っていたということは、単純に考えると26人の方がその飛行機にお乗りできないということです。
ところが、予約を持っていても空港に来ないお客様がある一定数存在するのが航空輸送の特徴です。このように予約があっても連絡もなしに空港に来ないお客様のことを航空会社では「NO SHOW (ノーショー)」と呼びます。
予約数のうち、このノーショー率がどのくらいかというのは、その路線の性質や時期などによってさまざまですが、航空会社は自社の過去のデータに基づいてノーショー率を計算し、その分の数字を座席数に上乗せするというのがOBになります。
例えば、ビジネス客の多い路線では、予約変更ができる航空券をお持ちの方が多いですから、「とりあえず予約を入れておこう」と考えられる方が多数存在しますので、そういう路線ではノーショー率が高い傾向があります。
逆にレジャー的性質が強い路線では、変更不可、払い戻し不可という航空券をお持ちの方が多いですから、ほとんどの皆様が空港にいらっしゃる。つまりノーショー率が低い傾向があります。
また時期的にも年末年始やゴールデンウィークなど、何か月も前から予約をする時期の場合はノーショー率が低いというのも事実です。
こういう傾向を判断して営業課や予約課がOB率を決めて、最終的に空席が出ないように最大限の利益を確保するのが航空会社の営業ということになります。
では、今回の11月21日の日本航空335便はどうだったかというと、3連休を前にした時期ですから出張のビジネスマンが帰宅するし、単身赴任のお父さんも帰ろうという傾向があります。もちろんこれからレジャーに出かける人も多く居たでしょう。まして最終便ともなればノーショー率はかなり低かったのではないかと推測されます。そして、この推測が正しいとすれば、座席数より26名多い予約を取った予約課は何らかの判断ミスをした可能性が高いと筆者は考えます。
でも、空港の職員としては、実際に目の前にご予約をお持ちのお客様がいらっしゃるわけですから、何とかして皆様にお席を差し上げなければならないという状況になりますし、それが空港の仕事ということです。
コントローラーが座席を作り出す
空港の仕事の中でコントローラーという仕事があります。
このようなOBが発生した場合など、お客様を振り分けて何とか座席を作り出すのがコントローラーの仕事で、比較的経験豊富な職員が配置されています。彼ら彼女らはチェックインカウンターや搭乗口などお客様の目の前に出ることはなく、通常は事務所で画面に向かって仕事をしていますので「デスク」などと呼ばれていますが、このデスクがどうやって座席を作るか。これがOBが発生している場合のデスク担当者の腕の見せ所です。
座席を作ると言っても飛行機の中に新しく座席を増設するのではなく、予約をお持ちのお客様の中から実際に座席が足りなくなりそうな数のお客様をノミネートして飛行機を降りていただくのです。
では、誰をどういう順番でノミネートして飛行機を降りていただくのか。私がコントローラーを担当していた頃は、次のような手順で降りていただきました。
1:航空会社や旅行会社などの職員の方
航空会社は同業の航空会社や協力関係がある旅行会社の職員の方々に無料航空券や割引航空券を配布しています。その中には予約ができる航空券と空席待ち前提の航空券がありますが、その便の乗客リストの中からそういった関係者用航空券で予約されているお客様を探し出します。
国内線の場合、幹線の300人乗り級の飛行機であれば、たいてい数名そのようなお客様がいらっしゃいますので、コンピューターを操作してこういうお客様の事前座席指定の座席を外します。そうするとそのお客様は保安検査場を通過できなくなりますから、必ずチェックインカウンターを訪れます。そして、その時点で丁寧に事情を説明して飛行機を降りていただくか、またはチェックイン締切時刻の出発20分前まで空席待ちをしていただきます。
J社の部長さんであろうが、N旅行の社長さんであろうが容赦なくスタンバイしていただきます。
無料券や割引券をお配りするときの前提がそういうお約束になっておりますので、彼らも当然納得されるはずで、大騒ぎになることはほとんどありません。
2:お客様を前の便へ誘導する。
その飛行機の座席が足りない場合は、お客様を予定よりも前の便に誘導します。
今はチェックインカウンターに立ち寄られるお客様は少なくなっていますが、例えば、「普通席からクラスJシートへの変更希望」などのお客様はカウンターに来られますし、事前座席指定をお持ちでないお客様もカウンターに来ます。その時点で、1便前の飛行機にご案内するのです。
日本航空の羽田発福岡便の場合、最終便よりも前にいくつもの便が近い時間帯で出発しますので、早い便をお勧めしてそちらに移っていただくのです。
お客様が変更できない航空券をお持ちでも、お客様のご都合ではなくて会社の都合で前の便に移っていただくのですから、どのような航空券をお持ちでも対応可能です。もちろん、その1本早い便に真ん中の座席しか残っていないようであればお客様は食指が働きませんから、移ってもらえそうなお客様のために通路側であったり、壁の前のゆったりした座席などを残しておくのです。
こういうこともコントローラーの仕事です。
コントローラーは1本だけコントロールしているのではなくて、同じ路線であれば5~6便を一人でコントロールしているのが常ですから、あとの便のお客様に乗り換えていただく座席を前の便に自分で作っておくことが可能ですし、そうすると自分の仕事が楽になるのです。
もちろん、前の便も満席、あるいはOBしているかもしれませんが、そういうことを夕方早目の便から順送りで前へ前へと誘導しておけば、最終便のOBは比較的容易にコントロールできるでしょう。
まして19:45発の335便の20分前に333便、そのさらに35分前の18:50には331便と、立て続けに福岡行が出発しますから比較的コントロールしやすい路線だと考えます。
3:Dupeを探す
Dupe(デュープ)とはダブルで予約を持っている人のこと。
同じ便で普通座席とクラスJ座席の両方を予約していたり、前後の便で掛け持ち予約していたりする人をよく見かけます。
最近ではインターネット予約でもなかなかDupeできないような仕組みになっていますが、それでもやろうと思えばできないことはありません。
400人の予約の中からDupeを見つけるのはなかなか至難の業ですが、お客様が徐々に空港にショウアップして、保安検査場を通っていないノーショーの人が残り少なくなってくる段階になると見つけやすくなります。そういう人を見つけると、つまりは1席作ることができます。
また、予約だけしていて航空券を購入していない人もノーショーの可能性が高くなりますから、そういう人も要チェックです。
チェックイン終了時刻まではあくまでも予測に過ぎませんが、「たぶん来ないだろうなあ」とか、「前便でチェックインした」などと判断できますから1つの目処としては使えるものです。
4:時間で切る
飛行機は時間で動いています。お客様もその時間にはきちんと従ってもらわなければなりません。
つまり、遅れてきたお客様には飛行機にお乗りできなくなります。
保安検査場は出発時刻15分前厳守。搭乗口は出発時刻10分前厳守。
通常この時刻までにいらっしゃらなければ、そのお客様は予約した座席の権利が無くなりますので、ピタッと切ります。
国内線の場合、手荷物を預けてない方が多い傾向がありますから、時間でカットして飛行機を出すことが可能です。
手荷物を預けている場合は、保安上お客様に降りていただく場合は手荷物も降ろさなければなりませんが、手荷物がなければそのお客様を乗せずに出発することが可能です。
ただし、乗継旅客で保安検査場を通っていなかったり、あるいはゲートの機械の読み違いなどで実際には機内にお乗りの場合もありますから、無線機を持った地上係員が機内に入り、空席であることを確認します。そしてその空席をゲートでスタンバイしていただいているお客様に差し上げてお乗りいただいて、飛行機のドアを閉めます。
こういう場合、たいてい飛行機のドアを閉めてブリッジを外したころに乗れなかったお客様がゲートに現われることになりますが、残念ながら御搭乗いただけないことになります。そして、そのお客様は次の便の予約も持っていませんから、OBが激しいときなどは次の便だけでなく、下手すれば最終便までスタンバイすることになります。
航空会社の職員はそういうお客様を何とか次の便にお乗りいただけるように努力しますが、厳しいときは最終便までお待ちいただいてもお乗りいただけないことも実際には発生します。この場合、お泊りいただくホテル代などはお客様払いになりますし、航空券によっては変更料金がかかったり、買い直しになったりすることもありますが、お客様側の事情で発生していることですから費用負担には応じられないことになります。
それでも座席が足りないときは
このような手順で最終便の数本前からコントロールして行けば、たいていのオーバーブックは解消できるのですが、時としてそれでも座席が足りなくなる時が発生します。そういう時は賠償金をお支払いしてお客様に降りていただくことになるのですが、最近は国内線でも搭乗口付近で「どなたかご協力していただけるお客様はいらっしゃいませんか?」とアナウンスしている光景をよく見かけるようになりました。
この賠償金とは航空会社ではDBC(Denied Boarding Compensation)と呼んでいるもので、運送約款に金額等が定められていますが、希望者がいない場合はオークションのように賠償金額が高くなっていくという制度もあるようです。
ただし、このDBCを支払った便は空席を発生させることはできません。必ず満席で出発させるというのがコントローラーに課された任務ですから、DBCを募るのは搭乗口で、最後の最後、本当に座席が足りなくなったときに限られます。
そして、そういうことをやっているとたいていの場合飛行機は10分15分出発が遅れることになります。
なぜならゲートクローズは出発時刻の10分前。その時刻にならなければ正確なノーショーの数が判明しないからで、DBCを払った後に搭乗口に現われないお客様がいた場合、その便に空席ができてしまうことになるからです。
ところで、今回欠航となった日本航空の335便は19:45に羽田を出発して、福岡に到着するのが21:45です。
福岡空港の門限は22時ですから、定時運航したとしてもこの便は15分しか余裕がありません。
そういう便は出発空港の仕事としては何としてでも定刻に出発させなければならない便ということになります。
であるならば、この便でDBCを支払う希望者を募るなんてことはやるべきではないですね。
さっさと乗せて、さっさと出す。
これが大前提です。
そして、そのためには前述のように、夕方ぐらいから前倒しでどんどん予約者を振り分けて、あらかじめ座席を作る努力をしてこなければならない便ですから、ご苦労された担当者にはお気の毒ではありますが、コントローラーのコントロールミスということになるのではないでしょうか。
日本航空に取材したわけではありませんので詳細はわかりませんが、きっと、裏には色々な事情はあったとは思います。でも、結果として便そのものを欠航させてしまったのですからね。
オーバーブックを回避するにはどうするか
さてさて、ここまでで航空会社がオーバーブック(OB)させていることはご理解できたと思いますが、読者の皆様方の最大の関心事は、OBをどう乗り切るか。もし、そういう便に当たったらどうするかということだと思いますので、最後にそのあたりの対策を伝授します。
まず、OBしている便はたいてい出発数日以内にならないとわかりませんが、予約を入れて航空券を購入して事前座席指定ができない便はOBの可能性がある便と思ってください。「ただいま事前座席指定できる座席がございません。」と表示されるのがこれです。
その場合どうするかというと、航空会社の予約システムでは座席表に出てこない座席がいくつか隠されています。介助者が必要なお客様の予約が入ったり、乳幼児をお連れのお客様の予約が入った時のために、事前座席指定の座席表に出てこない座席というものが存在するのですが、そういう座席が出発前日にリリースされます。ですから、予約の時に事前座席指定ができなかったり、あるいは事前座席指定した座席を変更したい場合などは、搭乗前日にこまめにホームページをチェックしてみることです。ほんの一瞬座席が表示されることもよくありますから、覚えておいたほうが良いと思います。
それでも座席が指定できなかった場合は、できるだけ早めに空港へ行きましょう。
事前座席指定ができない便というのはOB便の可能性が高く、事前座席を持っていないお客様は降りていただくリストの対象者であるということですから、できるだけ早く空港へ行って対応してもらうことです。
カウンターのお姉さんの対応をよく見て、「通路側が良いんですが」とか、「前の便に変更できませんか?」なんてことをさりげなく聞いてみるのもよいでしょう。お姉さんがカウンターの電話を取ってどこかへ電話をするようであれば、その電話の相手はデスク、つまりコントローラーです。そのあたりのやり取りを注意して観察することで、予約しているその便がどういう状況かがある程度わかります。
コントローラーが隠し座席を持っていて、それをくれるかもしれませんし、もしかしたら早割切符でも前の便に変更してくれるかもしれません。ただし、あくまでも運命は相手の手中に委ねられている状態ですから、カウンターのお姉さんには優しくナイスに接してくださいね。
そうすればきっと良い座席をくれると思いますよ。
嫌な客だと思われたら3人掛けの真ん中の席になるかもしれませんからね。
相手はうら若き女性のことが多いですから、くれぐれも「俺は客だ」なんて態度は示されないことをお勧めいたします。
ということで、皆様、グッドラック!!!
(※写真はすべて筆者撮影)