老舗の技を駆使した一杯から、ラーメン店の締めまで。今、お茶漬けの世界が面白い。
江戸時代に普及した「お茶漬け」の文化
日本に稲作文化が伝播した古代から、すでにご飯に水などの液体をかけて食べる文化があったと言われている「お茶漬け」が、一般に広く普及するようになったのは江戸時代のこと。冷めてしまったご飯を温かく食べられることと、時間のない時に急いでかきこめることもあって普及し、さらに家庭のみならずお茶漬けを専門で出す飲食店も江戸時代に流行したと言われている。
家で簡単にサッと食べられるというのもお茶漬けの魅力ではあるが、料理人が作る料理としてのお茶漬けにもまた違った魅力がある。料理店や居酒屋などの締めの一品だけではなく、最近ではサッパリとしていてヘルシーな食事として提供するお茶漬け専門店も登場するなど、外食の世界で根強い人気を集めている。お店によって様々な表現がある個性豊かなお茶漬けを食べ比べてみよう。
90年の老舗天ぷら店が作る「天茶」
天ぷら店の締めとして人気が高いのが「天茶」と呼ばれる「天ぷら茶漬け」。サクサクプリプリとした食感の海老天と出汁の旨味が溶け合い、衣の油なども徐々に味を変化させる要素として機能し、食べ進めるごとに味わい深くなっていくお茶漬けだ。そんな「天茶」を食べるなら、銀座で90年以上の歴史を持つ『銀座ハゲ天 銀座本店』(東京都中央区銀座3-4-6)がオススメだ。
年間を通じて200種類以上あるという天ぷらダネの中から厳選した季節の食材を、卵をたっぷりと使った薄めの衣をまとわせて特製ブレンドの胡麻油を使って揚げる伝統の技。プリプリとした食感の海老と海苔、三つ葉が乗った「天ぷら茶漬け」は、銀座の買い物客やオフィスワーカーたちに長年愛され続けている逸品。単品はもちろんのことコース料理の締めの一品としても人気が高い。
人気ラーメン店による本気の「鯛茶」
ラーメン店のご飯ものといえば「チャーハン」や「チャーシュー丼」などが定番だが、料理店顔負けの本格的な「鯛茶漬け」を出しているのが、鮮魚系ラーメンブームを牽引し続ける人気店『鯛塩そば 灯花』(東京都新宿区舟町12-13)だ。この店の看板メニュー「鯛塩そば」は、国産の新鮮な真鯛だけで取った濃厚で深みのある鯛出汁を使ったラーメン。その残ったスープを注いで食べるのが「鯛茶漬け」だ。
愛媛宇和島など全国から厳選した上質な鯛の切り身をぜいたくにも使い、そこに真鯛100%の鯛出汁スープを合わせる鯛づくしのお茶漬け。鯛の繊細で力強い味わいをラーメンとお茶漬けの両方で。ラーメン店ならではのアプローチでありながら、ラーメン店らしからぬハイクオリティをもった驚きの鯛茶漬けを楽しむことができる。
お茶漬けBARの「焼きおにぎり茶漬」
お茶漬けがブームになる前から、いち早くお茶漬け専門店として人気を集めてきたのが『お茶漬けBAR ZUZU』(東京都新宿区歌舞伎町1-21-2 伊藤ビル3F)。都内屈指の繁華街、新宿歌舞伎町の一角に2002年創業。日本酒マイスターが厳選し直接取引した日本酒の数々や、マクロビオティックに基づく一品料理を楽しみながら、絶品のお茶漬けで締めることができる。
お茶漬けメニューは旬の食材などを生かしたものを中心に常時20種類以上。ご飯は玄米と白米をブレンドし、出汁にはアゴ出汁、カツオ出汁、昆布出汁と天然素材でていねいに取ったものを使う。数あるメニューの中でも人気の一品が味噌焼きした玄米おにぎりに熱々の出汁をかけて楽しむ「味噌焼きおにぎり茶漬け」。香ばしく焼き上げられた味噌焼きおにぎりに熱々の天然出汁を注げば、一気に食欲がそそる香りが立ち上がる。出汁の美味しさと香ばしい味噌の風味が一体感を持ちながら豊かに広がる、楽しく個性的なお茶漬けだ。
お茶漬けを構成する要素は、ご飯とお茶(出汁)、そして具材といたってシンプル。シンプルだからこそ組み合わせは無限にあり、そのバランスが問われる奥深い世界だ。たかがお茶漬け、されどお茶漬け。ぜひともお茶漬けの奥深い世界を楽しんで欲しい。
※写真は筆者の撮影によるものです。