「痛い」は禁句 組体操の指導法 ▽組体操リスク(12)
■「痛い」「しんどい」は禁句
この秋、とある地域で組体操の安全講習会が開かれた。そこで組体操を成功させるための秘訣として、「『痛い』『もう無理』は言わないよう指導している」ということが報告された。
調べてみると、同様の指導方法がいくつも見つかる。
▼例1:タワーを成功させるコツ
・土台は、お尻からではなく胸から立ち上がるようにする。
・「痛い」は言わない
・頂上の子どもが土台に指示をする
[教師向け総合ウェブサイトより ※文言を一部改変]
▼例2:6年生の組体操
「痛い」「重い」「しんどい」
そんな泣き言はダメ。
根性で踏ん張れ。気合いを入れろ!
[A小学校ブログより ※文言を一部改変]
相当な痛みや恐怖が伴うであろう巨大ピラミッドをつくる際に、「痛い」「無理」「しんどい」が禁じられているとはどういうことか。
■痛みや恐怖を乗り越えることにこそ意義がある
巨大組体操の指導において、じつはこの「痛み」というのは、むしろ欠くことのできない大事な要素である。
学校では練習の際に、定番中の定番として、次のようなことが子どもに伝えられる――「土台の子は、上の子が安心していられるように、膝に砂や小石が突き刺さる痛み、背中や肩にかかる重さをガマンしなさい。そして上に乗る子は、土台の子を信頼し、勇気を出して上に立ちなさい」。
じつに多くの指導書や学校のウェブサイトにおいて、クラスメートのために子どもたちが痛みや恐怖を乗り越えることに、組体操の魅力が見出されている。そして、こうして生み出されていくのが「一体感」である、と。
■子どもの声から学ぶ
たしかに、いちいち「痛い」「怖い」などと文句を言っていては、一体感も組体操も成り立たない。しかしながら、これだけ土台の負荷量が大きく、かつ高層化したものを、生身の人間がつくりだしていることを考えるならば、「痛い」「怖い」という声を封じることこそが、事故の根源であると言える。
今日、学校安全の取り組みでは、大人目線ではなく、子ども目線から見たときの危険を拾い上げようという実践が多くおこなわれている。
たとえば、地域の安全マップ(危険箇所のマップ)を作成する際に、子どもが危険と感じる場所を重点的に地図上に記していくという方法がある。こうした実践では、むしろ大人のほうこそ、学ぶことが多い。
■痛みを封じることの危険性
組体操の外側にいる教師は、子どもの発言がない限り、その痛さや恐怖を直接に知ることはできない。教師は、子どもの声を頼りに、学ばなければならないのだ。
「痛い」「怖い」という子どもの自覚症状は、その先に組体操の崩壊が起こりうることを示唆している。「痛い」「怖い」が連発されるのは煩わしいことかもしれないが、他方で、一律にそうした発言を禁止するのもまた危険である。適当なタイミングに子どもがみずから「痛い」「もうダメ」と全員にアラームを発することができれば、それは組体操崩壊の防止にもつながり、また、子どもの危機管理能力の育成にもつながっていくはずだ。
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