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スペースX、クルードラゴン宇宙船の緊急脱出試験をクリア 今春にも初有人飛行へ

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
打ち上げを待つクルードラゴン宇宙船。Credit:SpaceX
クルードラゴン宇宙船の緊急切り離しのイメージ。Credit:SpaceX
クルードラゴン宇宙船の緊急切り離しのイメージ。Credit:SpaceX

2020年1月19日、米スペースXは有人宇宙船クルードラゴンを打ち上げ中に緊急脱出させる試験を実施した。試験は有人飛行前の大きなマイルストーンで、これをクリアしたことで3月に国際宇宙ステーションへの初の有人打ち上げが行われる見通しとなった。

Falcon 9ロケットの打ち上げ。出典:SpaceX Web中継より
Falcon 9ロケットの打ち上げ。出典:SpaceX Web中継より
上空での飛行の様子。出典:SpaceX Web中継より
上空での飛行の様子。出典:SpaceX Web中継より

In-Flight Abort test(飛行中断試験)と呼ばれる今回の打ち上げ試験は、日本時間1月20日午前0時30分(米フロリダ州の現地時間19日午前10時30分)にケープカナベラル空軍基地で実施された。無人のクルードラゴン宇宙船をファルコン9ロケットに搭載し、打ち上げからまもなくロケットに異常が発生したとの想定で宇宙船を切り離す。マックスQ(最大動圧点)と呼ばれる、飛行中のロケットに最大の力がかかったタイミングでも宇宙船が安全に宇宙飛行士を脱出させる機能を検証した。

クルードラゴン宇宙船切り離し後、Falcon 9ロケットが燃え尽きる様子。出典:SpaceX Web中継より
クルードラゴン宇宙船切り離し後、Falcon 9ロケットが燃え尽きる様子。出典:SpaceX Web中継より
クルードラゴン宇宙船からトランク部分の分離の様子。出典:SpaceX Web中継より
クルードラゴン宇宙船からトランク部分の分離の様子。出典:SpaceX Web中継より

試験は1月11日から18日へ、そして19日へと延期され、当初予定の19日午前8時から海上の天候のためさらに2時間30分延期されて始まった。ケープカナベラル空軍基地の第39A発射台から打ち上げられたファルコン9ロケットは、1分30秒ほど通常の飛行を続けた。速度が設定値を越えたところでドラゴン宇宙船のスーパードラコエンジンが点火し、ロケットから宇宙船を切り離した。1分50秒ほどスーパードラコエンジンは停止。トランク(貨物搭載部分)を切り離した後、小型エンジンで宇宙船の姿勢を変更してパラシュートを展開し、大西洋上に着水した。宇宙船は最高でマッハ2.3で飛行しつつ、およそ9分間の試験をやりとげた。

ファルコン9ロケットからのクルードラゴン宇宙船切り離しの拡大動画

着水の姿勢に入ったクルードラゴン宇宙船。出典:SpaceX Web中継より
着水の姿勢に入ったクルードラゴン宇宙船。出典:SpaceX Web中継より
パラシュートの展開。出典:SpaceX Web中継より
パラシュートの展開。出典:SpaceX Web中継より

クルードラゴン宇宙船切り離し後のファルコン9はエンジンを停止。破断して残りの推進剤が燃える炎と共に大西洋に落ちていった。

打ち上げからおよそ9分で無事に着水した。出典:SpaceX Web中継より
打ち上げからおよそ9分で無事に着水した。出典:SpaceX Web中継より

クルードラゴン宇宙船は、2015年に射点での緊急脱出試験を成功させているが、飛行中の中断試験は今回が初めてとなる。ロケットの異常など万が一の際に宇宙船を切り離し、宇宙飛行士を安全に帰還させる機能は極めて重要だ。この試験と、2019年3月に成功した国際宇宙ステーション(ISS)への無人飛行試験(Demo-1)は、NASAが民間宇宙船に要求している最も重要なマイルストーンだ。昨年4月に起きた火災によるクルードラゴン宇宙船の損傷を修復し、重要な試験をクリアしたことで有人初飛行が迫ってきた。

宇宙飛行士を模した2体のセンサーが宇宙船内に設置され、緊急切り離しや着水の衝撃などを記録している。出典:SpaceX Web中継より
宇宙飛行士を模した2体のセンサーが宇宙船内に設置され、緊急切り離しや着水の衝撃などを記録している。出典:SpaceX Web中継より

飛行中断試験実施前の1月17日、NASAの商業有人宇宙飛行計画の責任者キャシー・リーダース氏は、「初の有人飛行試験(Demo-2)は3月に実施される見通し」と述べた。飛行中断試験のデータを解析し、また2月にパラシュートの試験を行った上で最終的に決定される。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官は1月18日、クルードラゴン宇宙船に搭乗する予定のボブ・ベンケン宇宙飛行士、ダグ・ハーレー宇宙飛行士の写真と共に「アメリカの宇宙飛行士がアメリカの国土から打ち上げられるのはまもなく」とツイートし、2011年のスペースシャトル退役以来、9年ぶりとなるアメリカの有人宇宙船復活に期待を見せた。

追記

飛行中断試験後の記者会見で、スペースXのイーロン・マスクCEOは「機体の準備作業は2月いっぱいまでかかり、その後も入念なチェックが必要であることから、ISSへの飛行は2020年の第2四半期になるのではないか」と有人初飛行は4月以降との見方を示した。NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「有人飛行をISS到着後すぐに帰還する短期ミッションとして行うか、または長期で実施するかこれから決定しなくてはならない。長期ミッションの場合はさらなるトレーニングが必要となる」と述べ、マスクCEOの発言を補強した。(2020年1月20日03:00追記)

クルードラゴンの飛行中断試験の打ち上げからおよそ50時間後、スペースXはファルコン9ロケットによるスターリンク衛星4回目の打ち上げを計画している。同じケープカナベラル空軍基地から現地時間21日午後11時59分、日本時間22日午前1時59分の予定だ。スペースXは、1万2000機の通信衛星による巨大衛星通信網スターリンクの2020年内サービス開始に向け、1カ月に2回の打ち上げを実施すると表明している。2020年最初となった1月5日の打ち上げに続き、ロケットの高速オペレーションを確立する目標だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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