ダルビッシュとカブス、冷え込んだFA市場では「破格」の6年1億2600万ドルはこう解釈すべき
ダルビッシュ有がカブスと6年総額1億2600万ドルプラス出来高で契約した。このオフはFA市場の動きの鈍さが「歴史的」と言えるほどで、スプリングトレーニング突入も寸前だったため、ぼくにはこの条件の高さは当初は意外だった。
ストーブリーグの幕開けの時点では、彼の契約条件は6年1億6000万ドルあたりと多くの現地メディアが予想していたが、今月に入ってもツインズやブルワーズが提示する5年1億ドルがマックスだったようだ(もう少し低かったという報道もある)。したがって、ダルビッシュは取りあえず緊急避難的にどこかと1年契約を結び、18年オフに再び勝負を掛けるか、ツインズらが提示する条件で妥協するしかないと思っていたのは、別のコラムで記したとおりだ。
しかし、カブスはそれにさらに1年2600万ドルを上乗せした。同球団はエース格のジェイク・アリエタが同じくFAとなった(彼も現時点では未契約だ)ため、その穴を埋める一線級を欲していたのは事実だが、投手との長期契約には、野手に比べ故障のリスクが大きいため慎重になる球団が多い中「結構入れ込んだな」という印象がある。
その後、少しずつダルビッシュの契約内容が明らかになって来た。そうすると、「ナルホド」という点も多い。
まず6年という年数だ。外紙の報道通りだったとすると、カブスとダルビッシュの交渉も上記のツインズやブルワーズらの5年1億ドルをベースに、この2球団を上回る資金力を持つカブスが「どこまで上乗せできるか」ということが焦点になったと思う。ストーブリーグ幕開け時点でのダルビッシュの目標も既報のとおり6年1億6000万ドルだとすると、年平均は2670万ドルで、その5年分の1億3350万ドルあたりをダルビッシュサイドは落としどころにしていたのではないか。最終的に折り合った1億2600万ドルはそれに近い。
そして、カブスがこの契約を5年1億2600万ドルではなく、6年1億2600万ドルとしたのも見落とすことのできないポイントだ。前述の通り、投手との長期契約はリスクが大きい。いわんやダルビッッシュは右ひじのトミー・ジョン手術を経験している。それでもカブスが6年を良しとした理由は、「ぜいたく税」にある。選手の年俸総額が一定額を超過すると、それに対し莫大な上納金を機構に納めなければならない。そして、複数年契約が一般的な昨今においては、各選手の年俸は「総額÷年数」で導かれる。したがって、同じ1億2600万ドルであっても、5年契約なら2520万ドルであるのに対し、6年契約にしておけば2100万ドルだ。その差400万ドルはメジャーリーガーの平均年俸でこれは大きい。
もうひとつのポイントはオプトアウト(契約破棄)条項だ。これが、2年目終了の2019年オフに設定されている。ダルビッシュは自ら望めば2019年オフに残4年をキャンセルしてFA市場に打って出ることができるのだ。日本の一部メディアはこれを「VIP待遇」と報じた。さすがダルビッシュ、ということだ。しかし、これはチト違う。オプトアウトは選手にとって魅力的な権利だが球団側にとっても意味がある。何度も言うが、投手の長期契約にはリスクが伴う。2年間ダルビッシュが大活躍して評価を上げ、さらにビッグな契約を求め去って行っても、それはカブスにとって必ずしも損失を意味しない。翌年以降いきなり大きな故障に見舞われる恐れもあるのだが、それを回避できるからだ。2年間のみの在籍でダルビッシュが出て行ったとするなら、それはカブスにとって「痛い想いをする前に良いとこ取りした」と言えなくもない(もちろんオプトアウトされても再契約することは可能だ)。
しかも、具体的な金額はまだ明らかになってはいないが、今回の契約は6年間の均等払いではなく、トップヘビーだという報道もある。だとすると、それは「なるべく2年間で出て行ってもらうように」という意思の表れとも解釈できる。
少なくともこのオフのFA市場の冷え込み具合からすると、6年1億2600万ドルは少々気前が良すぎる?との印象も当初はあったが、それなりにしたたかなカブスの思惑が盛り込まれていると言えよう。