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「子無し猫好き女」テイラー・スウィフトからトランプ陣営が受けたブーメラン

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
テイラー・スウィフトのインスタグラムより

 いつ来るのかとみんなが待ち構えてきた瞬間が、ついに訪れた。テイラー・スウィフトが、インスタグラムでカマラ・ハリスへの支持を表明したのだ。

 その投稿がなされたのは、トランプとハリスのテレビ討論会の直後。無理かもしれないが、なんとかスウィフトに支持してもらえないかという一抹の願いが消えたのは、討論会でやられたばかりのトランプにとって、痛すぎるダブルパンチだった。しかも、スウィフトの投稿内容は、トランプ陣営にとって強烈なブーメランだったのである。

 ハリウッドは、民主党支持者が圧倒的に多い。中には日常的に政治的発言をする人たちもいるが、スウィフトは決してそのひとりとは言えない。2020年の選挙でバイデンとハリスに支持を表明したのも選挙の前の月である10月になってからだったし、今回の選挙に関しても、これまで何も言わずにきた。

「民主党の将来は子無し猫好き女が率いている」という共和党の副大統領候補JD・バンスの過去の発言に脚光が当たり、強い批判の声が上がった時も、3匹の猫を飼い、子供のいないスウィフトは、黙ったまま。スウィフトがトランプ支持をうたっているAIが作成した偽の写真を「私は受け入れる」というコメントつきでソーシャルメディアに投稿するという見苦しい行為をトランプがした時も、同様だ。世間では「あんなことをされたテイラー・スウィフトはトランプを訴訟するべきだ」との意見も出たが、何もしなかった。

トランプの嘘がスウィフトにハリス支持を宣言させた

 しかし、その間、スウィフトが何も思っていなかったわけではない。彼女は、満を持して行動に出たのである。

 ハリス支持を宣言する投稿の中で、スウィフトは、「最近、私は、AIの“私”がドナルド・トランプを大統領に支持している画像が彼(トランプ)のサイトに出ているのを見ました。それは私がAIと、間違った情報が拡散されることへの恐れをより高めることになりました」と、初めてあの偽の投稿に言及。「だから、投票者として、私が今回の選挙について実際にどのような計画をしているのか、はっきりさせる必要があると思ったのです。間違った情報に対抗する最もシンプルな方法は、真実です」と続け、「2024年の大統領選で、私はカマラ・ハリスとティム・ウォルズに投票します」と宣言したのだ。要するにスウィフトは、あのトランプの嘘こそが、自分が誰に投票するのかをあえて公表させたのだと言ったのである。

 続く文章の中で、スウィフトは、なぜ自分がハリスとウォルズを選んだのかを説明するも、フォロワーたちには、自分なりのリサーチをして自分で決断を出すよう呼びかけた。さらに、初めて投票する若い人たちに向けて、事前に有権者登録をしておくことが必要だと注意している。

 そして最後に、彼女は「Taylor Swift/ Childless Cat Lady」と署名。世界最強の「子無し猫好き女」が、ついにバンスに反撃したのだ。

ハリウッドセレブがスウィフトの投稿を大歓迎

 当然のことながら、スウィフトの投稿は、テレビや新聞、ソーシャルメディアに取り上げられ、大ニュースになった。

 コメディエンヌのエレン・デジェネレスは、「この子無し猫好き女も(彼女に)完全に同意します」というコメントをつけて、スウィフトの投稿をシェア。エリザベス・バンクスは、シェアするにあたり、アメリカの国旗とハートの絵文字、「@taylorswift アメリカの投票者」というコメントをつけた。スウィフトの投稿には、ジェニファー・アニストン、ジェニファー・ガーナー、オリヴィア・ワイルド、レディ・ガガ、マンディ・ムーア、ケイティ・ホームズら多数のセレブが「いいね」をつけている。

 ハリスのキャンペーンは、早速、自分たちの“フレンドシップブレスレット”の発売を発表。テレビ番組に出演中にスウィフトの投稿全文を読み聞かされたウォルズは、手を胸に当てながら、「テイラー・スウィフトさん、心より感謝します。猫好き仲間のひとりとしても」と喜びを表現した。

 一方、トランプは、「美しい」などとスウィフトに媚びてきたことも棚に上げ、「彼女はどうせいつも民主党を支持してきたようだし。市場でその代償を払うことになるだろう」と、テレビで負け惜しみを語った。スウィフトの恋人トラヴィス・ケルシーのチームメイト、パトリック・マホームズの妻でトランプ支持者のブリタニー・マホームズの名を出し、「私はブリタニーが好きだ。テイラー・スウィフトよりずっと良い。彼女は最高」とも述べている。

 バンスも、出演したテレビ番組で「テイラー・スウィフトの音楽は良い。だが、彼女や彼女の音楽のファンであっても、なくても、ほとんどのアメリカ人は、多くの人が直面する問題にまるで関係のないビリオネアのセレブリティの言うことに、影響は受けないだろう」と、スウィフトの投稿を過小評価した。しかし、バンスが選挙戦を闘うパートナーは誰なのかを考えれば、この発言もまたブーメランとなって帰ってきそうだ。

彼女の呼びかけで若者の有権者登録が増加

 スウィフトの支持表明が具体的にどれだけの効果を上げるのかは、はっきりわからない。だが、2018年にスウィフトの支持を受けたテネシー州の元下院議員ジム・クーパーは、彼女の支持は寄付金よりもずっと大きな意味があると語っている。

 今回もすでにその影響は出ているようで、投票者の権利を守る団体「League of Women Voters」のCEOセリーナ・スチュワートがTMZに語ったところによると、この2日間にアクセスが100%増えたそうだ。スウィフトのインスタグラム投稿の翌朝である現地時間11日にアクセスした人たちは、18歳から24歳が一番多かった。昨年スウィフトがフォロワーたちに有権者登録を呼びかけた時も、選挙の年でもないのに3万5,000人が新規登録をしている。とりわけ18歳の新規登録は、その前の年に比べて倍だったという。若い人たちを選挙に引っ張り出してくる上で、やはり彼女の力は絶大なのだ。

 選挙当日まで2ヶ月を切った中、スウィフトが何らかの形でハリスのキャンペーンに協力していくのかも気になるところ。都合の良いことに、スウィフトはヨーロッパでのツアーを終えたところで、選挙までのコンサートはすべてアメリカ国内だ。「子無し猫好き女」のリーダーとして彼女が活躍してくれるのかどうかを見届けたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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