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就活相談12・文学部は就活で不利ですよね?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

質問:文学部生です。就活で不利になる、という話をよく聞きますが実際にはどうなんでしょうか?

回答:就活において、あからさまに文学部が敬遠されたのは30年前、1980年前後あたりまでの話です。

2010年代以降はそれほど差がない、と私は考えます。

なぜ、昔は敬遠されたのでしょうか? 理由は2つ。学部教育と就職先の結びつき、それからイメージです。

前者は、戦後しばらくの間、学部教育と就職先は強固に結びついていました。金融業界であれば、経済学部が大半を占めていたのです。それがだんだんと緩まり、現在では文学部生でも内定をもらえる学生はいます。

後者のイメージとは、学生運動の巣窟、とか、役立つ勉強をしていなそう、など。女子学生が多くて軽い、と見られていた時期もありました。現代と違い、昔は女子学生の多さを歓迎していないこともあったのです。

では、2010年代の現代はどうか、と言えば、関係者の間で、見方は「文学部も不利ではない」「いや、不利だ」と分かれています。

代表的なものを2つ、ご紹介しましょう。

「例えば商社では、慶應大や早稲田大であれば法学部、経済学部、政経学部、理工学部、この4学部から内定は出そろう。商学部や教育、文学部など、不利な学部からの内定は、我究館では当たり前のように出ているが、一般にはめったにないのが実情」

(『絶対内定2016 エントリーシート・履歴書』杉村太郎・熊谷智宏、ダイヤモンド社)

就活本では有名な『絶対内定』シリーズに登場しますが、「めったにない」とまで言い切りますか。ふーん。

文学部のみならず、商学部なども「不利」と言い切っているあたり、その勇気は賞賛できますが、実態から離れた書き方はどうか、と思います。

早稲田大の2013年度の卒業実績を見ていきましょう(慶應義塾大は学部ごとの詳細データでなく就職者数上位企業のみの公表でここでは割愛)。

●三菱商事

政治経済13、法4、教育4、商8、国際教養4、文化構想2、社会科学・人間科学・スポーツ科学・文各1

●丸紅

政治経済6、法5、商2、国際教養8、文化構想2、文2、創造理工2

●住友商事

政治経済11、法2、教育1、商3、社会科学・人間科学・スポーツ科学各1、国際教養3、基幹理工2、先進理工1

●伊藤忠商事

政治経済7、法3、教育1、商6、社会科学・スポーツ科学各1、国際教養2、文化構想2

●三井物産

政治経済11、法3、教育2、商3、国際教養2、創造理工1

政治経済学部が多いのはさすがですね。

さて、『絶対内定』の分類だと、政治経済学部、法学部、理工学部で「内定が出そろう」と断言していました。早稲田大の理工学部は現在、創造理工・先進理工・基幹理工の3学部に分割されています。この6学部とそれ以外の学部で比較してみましょう。

●三菱商事

6学部17、それ以外22

●丸紅

6学部13、それ以外14

●住友商事

6学部16、それ以外10

●伊藤忠商事

6学部10、それ以外13

●三井物産

6学部15、それ以外7

●5社合計

6学部71、それ以外66

71人対66人で前者を「内定がほぼ出そろう」って、言い過ぎではないでしょうか?ああ、そうか、66人の大半が我究館に通っていたのですね(棒読み)。

このデータからは、6学部のみが優遇されているとは言えません。文学部・文化構想学部の2学部でも9人内定しているわけで、極端に不利、と言い切れるほどではないと考えます。

続いては、こちら。

「金融系の人気企業への就職を早稲田で調べると、社会科学系(法・商・政経)が269人採用に対して、人文系は13人。ここでもゆうに20倍以上の差がついています」(『なぜ7割のエントリーシートは、読まずに捨てられるのか?』海老原嗣生、東洋経済新報社)

雇用ジャーナリストの海老原さんはデータを駆使して説明する論客として有名です。同書に、その名も「文学部は人気企業に入りにくいのですか?」という項目があり、そこでは早慶の就職者データから人気企業100社、それも総合職・男子学生だけに限っても不利、と2010年度卒業者データを使って説明しています。

どこぞのくだらない就活塾と違い、海老原さんはすぐれた論客であり、同書も就活生に強くお薦めできる就活本です。

ただ、この項目だけはちょっとなあ。ツッコミどころがいくつかあります。まず、どう考えても金融業界は政治経済・法・商の社会科学系3学部から採用するに決まっています。それを含めて、不利と言い切るのはいかがなものでしょうか?

それと、海老原さんの分類では、人文系は文学部のみ。文化構想学部は国際教養学部などと一緒に「新設系」に入っています。

文化構想学部はもともとは第二文学部でした。改編後も実質的には文学部のようなものです。これを新設系に入れて、人文系に入れないのは疑問です。

百歩譲って、文学部と社会科学系3学部の男子学生・総合職就職者データで、金融業界を除外して計算してみました。

●文学部…就職者数44人、卒業者765人、就職比率5.8%

●社会科学系3学部…就職者数260人、卒業者2847人、就職比率9.1%

9.1%と5.8%、その差は3.3ポイントにすぎません。文学部不利説を唱えるには、ちょっと苦しいのではないでしょうか?

私は文学部不利説は、過去はともかく、現代では通用しなくなっていると考えます。

文学部はビジネスを学ぶ学部ではありません。極論すれば、教養を学ぶだけで、ビジネス社会にはすぐ役立たない学問です。

しかし、近年、人気企業を中心に教養が見直されています。すぐに役立たなくても、教養ある人は結果的にビジネスにも通用する、そう考

える企業が増えています。

秋田の国際教養大や早稲田の国際教養学部などが就活で有利となるのは、長期留学を経験しているからだけではありません。大学で教養を学んでいることが評価されているからです。

これは留学を経験していない文学部生にも当てはまる話です。文学部不利説を心配するくらいなら、企業研究をするなり、ニュースを把握するなり、行動量を増やしましょう。

※『300円就活 準備編』(角川書店 電子書籍)より引用

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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