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ジャパンはW杯までの「時間との戦い」に勝てるのか? オーストラリア戦が示す不安要因

永田洋光スポーツライター
リーチと立川が豪州NO8マクマホンにタックル!新しい防御システムは機能するのか?(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

W杯への準備は時間との戦いだ。

4日の日本代表対オーストラリア代表ワラビーズのテストマッチを見て、19年の本大会まで2年を切った時間との戦いが、いよいよ待ったなしであることを痛感した。

ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)率いるジャパンは、この秋に採用した新しい防御システムでワラビーズに立ち向かったものの、習熟しきれていない間隙を世界3位の強豪に鋭くつかれ、健闘した場面が確かにあったにもかかわらず、前半だけで5トライ、合計9トライを奪われて、30―63と完敗した。

2年後の11月2日にW杯決勝戦の舞台となる横浜の日産スタジアムには、4万3千621人の観客が集まり、そのほとんどを占める日本のサポーターは、ラスト10分でジャパンが攻勢に転じ、終了直前にこの試合で初キャップを獲得したLO姫野和樹がトライを奪ったことで、“善戦健闘”ムードに浸った。

確かにその前の週に行なわれた世界選抜対ジャパンXV戦に比べれば中身は濃かった。

10月にニュージーランド代表オールブラックスを破ったワラビーズも強かった。

だから、これが“妥当な結果”だと思っているのだろう。

しかし、繰り返すが、W杯への準備は時間との戦いだ。

33点差の敗戦は、時間との戦いにおいて今のジャパンが約半年の遅れにあることを示すもの以外の何物でもない。

新しく就任したジョン・プラムツリー ディフェンスコーチが導入した、素早く前に出て相手に圧力をかける防御システムは、前提となる1対1のタックルを決められずにしばしばピンチを招き、ピンチを全員でカバーしようと焦って反則をとられ、後半半ばには第一線防御を破られると戻りが遅くなってカバーが薄くなった。

本来、こうした新しいシステムの採用は6月の時点で行なうべきであり、また6月時点からコアメンバーを固めてチームの骨格を明確にしなければ、システムの可否も明確にならない。それなのに、日本代表は、ジョセフHCが提唱する「キッキング・ラグビー」で貴重な時間を無駄にした。

オーストラリア戦の日本代表のアタックを詳細に検討すれば一目瞭然だが、パスを使ってボールを動かし、フェイズを重ねた場面でこそ日本らしい持ち味が出た。ならば、当初からフェイズを重ねるプレーに時間を割き、エディー・ジョーンズ前HC時代からのアタックポリシーを継続していれば、精度はもっと高まったはず。そして、そうなって初めて相手防御の背後をつくキックの有効性が高まる。

少なくとも16年6月の時点では、エディー体制からのアタックポリシーは継続されていたのだから、16年11月はそれをさらに磨き、17年6月に新しいディフェンスシステムを導入して、この11月から相手の背後にできるスペースを攻めることに着手――それが、15年W杯で挙げた3勝という財産を継承する最も有効な手順だろう。

しかし、現HCは、あれこれと新しいメンバーを試し、試合ごとにメンバー構成を大きくいじりながら、手順を組み替えた。

その結果の、オーストラリア戦なのである。

ベストメンバーの日本代表がなぜ見られない?

負傷者が相次いだこともその背景にはあるが、コンディションを考えてサンウルブズでローテーション方式を採用し、選手のコンディションを万全に整えると公言している割には、未だに「これがベストの23名」という布陣での試合も行なわれていない。

オーストラリア戦を終えた日本代表は、フランスに渡って18日にトンガ代表と、25日にフランス代表とテストマッチを戦うが、この2試合を終えれば、日本代表として戦える残り時間は、来年6月と11月、そして、W杯イヤーの6月と直前のウォームアップマッチと、非常に限られている。

いくら来年のサンウルブズに日本代表スコッドを集め、スーパーラグビーの長い戦いを日本代表の強化にあてるとしても、代表メンバーを固定してベストの力がどの辺りにあるのかを試す機会は、本当に少ない。

1年後のニュージーランド戦、イングランド戦を、ベストの力をぶつける場と考えているのかもしれないが、ジョセフ体制になって以来、アジア諸国との対戦を除けば、日本代表は、アルゼンチン、ジョージア、ウェールズ、フィジー、ルーマニア、アイルランド(2試合)、世界選抜、オーストラリアと、これまで9試合を戦って2勝(ジョージア、ルーマニア)7敗。そのうち、7点差以内の惜敗は、終了直前にドロップゴールを決められて30―33と敗れた昨秋のウェールズ戦だけだ。

これも19年W杯を見据えて選手を試した結果なのかもしれないが、W杯の場でチャレンジャーである日本代表にとって本当に大切なのは、格上の相手とベストメンバーで戦い、最後の最後まで勝負がわからない接戦を繰り返し戦うことで、自分たちが「こうすれば勝てる」という手応えをつかむことだ。

03年W杯で、箕内拓郎キャプテンのもと“初代ブレイブ・ブロッサムズ”と認められた日本代表は、大会に入るまでに接戦の経験が乏しく、勝つ経験を共有できなかったために、勇敢な戦いぶりを讃えられたが結果を残せなかった。

当時主力だった元木由記雄は、大会終了後にこう話していた。

「選手はみんな、個人としてはさまざまな経験を積んでいるけど、このチームで接戦を勝つような場数を踏んでいない。そういう経験のなさが、土壇場ではどうしても出る」(拙著『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』より)

それが、W杯という、世界一を決める大会の恐ろしさなのである。

「一生に一度」を託せる日本代表は生まれるのか?

19年W杯は「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」というキャッチコピーが、先日、組織委員会から発表されたばかりだ。

確かに日本でラグビーW杯が開催されるのは、それぐらい貴重な機会だ。

にもかかわらず、19年9月20日に東京スタジアム(味の素スタジアム)で行なわれるW杯開幕戦(対ヨーロッパ地区予選1位=ルーマニアが有力)まで、もう2年を切ったのに、未だにコアメンバーを固めてベストメンバーを組むことができず、世界ランキング3位と真剣勝負を戦う貴重な機会を、単なる善戦健闘で終わらせた。

これで、自国開催のW杯本番に間に合うのか。

「一生に一度」の舞台で私たちが見たいのは、善戦健闘する日本代表ではない。

15年W杯初戦で南アフリカ代表を破ったような「金星」と、サモア、アメリカを退けた勝利の連続なのである。

試合を終えて、キャプテンのリーチ・マイケルは「世界トップ4との差がハッキリわかった。1対1のタックルの精度、規律を守って反則をしないこと。そこに差があった。タックルは、これからもっと練習しなければならない」と話した。

その言葉は頼もしい。

けれども、問題は時間だ。

「一生に一度」に本当に値する日本代表は、あと22か月で完成するのか。

そして、それまでに何度、ファンは「負けたけれども選手たちは良くやった」と、自らを慰めなければならないのか。

今の日本代表に求められるのは、明確な結果なのである。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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