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ソールオリエンスで皐月賞を制した横山武史のレース回顧と、ダービーに懸ける想い

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
皐月賞を勝ったソールオリエンスと騎乗した横山武史騎手

仕上がりも道悪も大丈夫

 「エフの事くらいしか話せませんけど……」

 2月の半ばの事だった。たまたま横山武史と食事の席を共にする機会があり、その際、彼はそう言った。

 若きホープに「エフ」と呼ばれたのは勿論エフフォーリア。この直前に引退が発表された彼のお手馬だった。

 それから僅か2ケ月と経たぬうちに、別の馬について取材をさせていただく事になるとは、当方も思わなかった。

横山武史騎手(22年、英国シャーガーC参戦時)
横山武史騎手(22年、英国シャーガーC参戦時)

 「負けるとすれば、展開とか、この馬より強い馬がいたとか、何かアクシデントに巻き込まれるとか、そういうケースだと思いました。仕上がっていなくて力を出し切れないという事は考えられないくらい仕上がりは良く感じました」

 前走は1月15日の京成杯(GⅢ)。約3カ月ぶりの実戦だったが、中間の調教に跨った横山は、休み明けの不安を微塵も感じなかったと言う。

1月に京成杯を制した際のソールオリエンスと横山武史
1月に京成杯を制した際のソールオリエンスと横山武史

 では、仕上がり具合とは別に“京成杯を勝った後、皐月賞を制した前例がない”というデータは、耳に届いていたのだろうか?

 「はい。聞いていました。でも、そういうのはあまり気にしませんでした。ソールオリエンス自身が過去に何回も京成杯を勝ちながら皐月賞で負けていたというなら話は別ですけど、過去のデータにソールオリエンスは含まれていませんから。だからそのあたりは全く心配しませんでした」

 さらりとそう言って笑った。

 また、当日の道悪馬場に関しては次のような見解を述べた。

 「母父のモチベーターはモンジューの子供だし、父のキタサンブラックも道悪を苦にしないタイプだったので、血統的に大丈夫だと思いました。また、実際に調教に跨った感触からも、得意かどうかはともかく、こなしてくれるとは感じました」

 その感覚はレース当日の返し馬で、尚更強く感じたと言う。

皐月賞でのソールオリエンスの返し馬
皐月賞でのソールオリエンスの返し馬

後方からも慌てなかった理由

 ただ、ゲートが開いた後の位置取りは、当初、思い描いていたそれとは少し違った。

 「スタートは出たので、もっと進んで行くと思ったけど、初めての馬場状態に戸惑ったのか後ろになってしまいました」

 序盤はそのまま後方を追走した。当初、目論んでいたポジションまで上げていこうという選択肢はなかったのかを問うと、次のように答えた。

 「掛かる心配のない馬なので、出して行けば考えていた位置を取れるかもしれないけど、そうする事でリズムを崩したくありませんでした。控えた、というよりリズムを重視したら後方のままになったという感じです」

「考えていた以上に後ろからになった」と横山武史の語る1周目、スタンド前のソールオリエンス
「考えていた以上に後ろからになった」と横山武史の語る1周目、スタンド前のソールオリエンス

 向こう正面では肩鞭の入る場面があったが、これについては次のように語る。

 「馬場が悪いのに速い流れだったせいか、少し進み具合が悪かったので、徐々にギアを上げようと思いました。ただ、反応が良いのは分かっているし、チグハグな競馬になるのは嫌だったので、馬を信じて、変に慌てないようにしました」

 まだ24歳ながら肝の据わった手綱捌き。エフフォーリアとタッグを組み、数々の修羅場を経験してきた事も、少なからず影響しているのだろう。

 「それは勿論あります。初めてGⅠを勝たせてもらったのもエフフォーリアですし、僕の気持ちの面を凄く成長させてもらえましたから……」

 また、どっしりと後方に構えた理由がもう一つあった。

 「ここが最後というわけではありませんからね。次のダービーを考えると、リズムを崩してまで進出していくのは得策とは思えませんでした」

21年皐月賞(GⅠ)を制し、自身初のGⅠ制覇を飾った際の横山武史
21年皐月賞(GⅠ)を制し、自身初のGⅠ制覇を飾った際の横山武史

次なる大舞台へ向けて……

 横山武史にいざなわれたソールオリエンスが3コーナーから4コーナーへ差し掛かる。しかし、4コーナーでは逆手前で外へ飛んで行きそうになった。

 「前走も同じだったし、まだそのあたりが完成手前と思っていたので、充分に注意はしていました。でも、自分の技術不足もあってヒヤッとしました。分かってはいても難しいです」

 それでも最後の直線では、ただ1頭、ケタ違いの豪脚を炸裂。先行勢をまとめてかわし、一気に突き抜けた。

最後の直線で一気に突き抜けたソールオリエンス
最後の直線で一気に突き抜けたソールオリエンス

 「強いとは思っていたけど、想像以上の脚を使ってくれました。エフフォーリアを始め、去年も沢山良い馬に乗せていただいていたのに、結果で応える事が出来ませんでした。それだけに久しぶりのGⅠ勝ちは嬉しかったです」

 終わってみれば完勝といえる走りを披露し、名手である父・典弘を超える皐月賞2勝目をマークした横山武史だが、苦笑しつつ、言う。

 「これは書いてくださって構わないのですが、父からは一つも褒められず、むしろ指導されました。『馬が良かっただけで、おまえはちっとも上手く乗っていない』と……。まぁ、いつもの事で、褒められるのは年に5回もあれば良いところですけど……」

 父から息子へ、ダービーを見据えた上での苦言とも思えるが、実際のところ、三冠馬の権利を掌中にした相棒について、鞍上も決して楽観視はしていない。

 「左回りでゆったりとしたコーナーの東京になるのは良いと思います。ただ、1、2戦でいきなりコーナーリングが劇的に上手になるとは考えていませんので、そこは気を抜かずにやっていかなければいけません」

 「今でも悔しい」と語るエフフォーリアと臨んだ3歳頂上決定戦。1番人気に応え、手に入れたかと思えたダービージョッキーの称号は、次の刹那、ハナだけかわされ、指の隙間からこぼれ落ちた。悔し涙を流して僅か2年、再びチャンスが巡ってきた。

21年日本ダービー(GⅠ)でシャフリヤール(奥)にハナ差で敗れたエフフォーリア
21年日本ダービー(GⅠ)でシャフリヤール(奥)にハナ差で敗れたエフフォーリア

 「去年のキラーアビリティもチャンスだと思ったけど、これで3年連続してGⅠホースに乗ってダービーに挑めます。良い馬に乗せていただけて、勿論プレッシャーはあるけど、同時にワクワクして楽しみでもあります。まずは人馬共、無事に大舞台に立てるよう、頑張ります!!」

 皐月賞制覇から僅か3日後の19日には交流競走の東京スプリント(JpnⅢ)を優勝し、良い流れを維持している横山武史だが、今年のダービーはまだもう少し先の5月28日。現在の勢いのまま、この祭典を2勝もしている父に少しでも近づく事が出来るだろうか……。期待したい。

14年、ワンアンドオンリーで日本ダービー(GⅠ)2勝目を挙げた横山典弘騎手(左)と、当時、競馬学校の生徒だった武史少年
14年、ワンアンドオンリーで日本ダービー(GⅠ)2勝目を挙げた横山典弘騎手(左)と、当時、競馬学校の生徒だった武史少年

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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