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コネなし、金なし、知名度なし 劇団四季退団の小林唯『レ・ミゼラブル』に大抜擢!

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
劇団四季退団後、新作・大作への抜擢が続く小林唯さん(撮影:舞台以外すべて島田薫)

 劇団四季で『キャッツ』『アラジン』『美女と野獣』など、数々の人気作品で主要な役を務め活躍した実力派、小林唯さんが昨年末に同劇団を退団。早速、アンジェラ・アキさんの音楽で綴る新作ミュージカル『この世界の片隅に』にキャスティングされ、夏にはコンサートも開催。年末年始は、大注目のミュージカル『レ・ミゼラブル』でアンジョルラス役に大抜擢されました。快進撃を展開する小林唯さんに緊急インタビューです。

―この世界に興味を持ったきっかけは?

 最初は「勉強をしっかりして、いい大学へ行きましょう」という高校に通っていたのですが、校則が厳しすぎて途中で勉強する意味も分からなくなり、1年生で別の高校へ編入したんです。公立では、当時全国で2校しかない演劇学科のある【大阪市立咲くやこの花高等学校(現・府立)】です。マンガやドラマに出てきそうな名前ですよね(笑)。目立ちたがり屋でもあったので、「俳優になって有名になりたい!」と興味が湧きました。芝居も観たことはないし何の経験もないけど、テレビに出られるかもというノリです(笑)。3年間楽しく過ごしました。

―その流れで俳優に?

 いえ、学校は俳優養成所ではなく、演劇を通して人とのコミュニケーションを育むという理念でしたので、その時点で仕事にしようとは思ってなく、手先が器用で椅子やテレビ台など家具をいろいろ作れたので建築士になろうと思い、卒業後は建築の専門学校に進むことにしました。

 進路も決まったクリスマスイブ、友達に誘われて大阪四季劇場に『サウンド・オブ・ミュージック』を観に行きました。それで“ドカーン!”ときました。一幕のラストで、修道院長役の俳優さんが「Climb Every Mountain」を歌い上げる姿に度肝を抜かれて、あまりの衝撃で立てなかったほどです。“自分”がガラガラと音を立てて崩れていき、そこから新たな道がスタートしました。

―何が一番衝撃だったのでしょう

 歌唱力はもちろん、劇場全体が包み込まれているような感覚で圧倒されました。皆さんのパワーが素晴らしくて最初から没入していましたが、ラストであの歌を聴いたら呆然としてしまい「自分は建築の道に行くのか?人生とは?」とショック状態になりました。これぞ運命の出合いです。とはいえ、「18歳でこれから目指せるわけがない」と予定どおり建築学校に進み、製図などの授業を受けていました。それでも、このことがずっと頭から離れないんです。

 そんな折、劇団四季研究生は(応募人数が多い)女性より男性の方が受かりやすい、未経験でも合格者がいる、と聞き一念発起。ミュージカルのレッスンを始めました。すると、僕の歌を聴いた先生が「これ受かるね」と。俄然やる気になり、大阪から新幹線でオーディションに向かいました。

ミュージカルに衝撃を受けた思い出を語る
ミュージカルに衝撃を受けた思い出を語る

―オーディションでは何を歌いましたか?

 『キャッツ』の「スキンブルシャンクス-鉄道猫」を歌いました。いろいろ考えた中で、一番自分にしっくりきて楽しく歌えたので。結果、その年の研究生は40人が合格、1年後、晴れて劇団員となりました。

―実際に入団してどうでしたか?

 自分の人生に迷いがなくなり、ここが“自分のいるべき場所”だと思うことができました。雲が晴れた感じです。出演者オーディションは自分で演目を選んで受けることができるので、チャンスも平等ですべての舞台が好きでした。

 特に思い出深い役は、『キャッツ』のスキンブルシャンクスです。初めてのプリンシパルで、退団するまで演じていました。入所試験で歌った曲でもあり、在団中に500回以上は出演しています。

僕の原点であり、自分にフィットした曲で大好きです。「♪車掌もポーターも駅長も、皆あちこち探す」英国紳士の象徴のような曲です。皆のために働いて列車が大好き、自分の仕事を誇り高く歌う役ですね。

 『サウンド・オブ・ミュージック』にも、ロルフ(トラップ家長女のボーイフレンド)役で出演しました。修道院長役が秋山知子さん。なんと、僕が高校生時代に衝撃を受けたあの時と同じ方と共演することができたんです。

―心がけていたことはありますか?

 “言葉を落とさない”という、浅利慶太さんの教え、劇団四季の方法論をしっかり踏襲しながら、さらにその先に大事なことがあると考え、自分なりに“そこに存在している人”になろうとしていました。そしたら観劇した方から「そこに存在していた」と言われて、伝わっているんだと、とてもうれしかったです。音だけでなく、言葉の奥にある情景を伝えるつもりでやっています。

―なぜ退団を?

 『美女と野獣』のビースト(野獣)役をできたことは大きかったです。明るい爽やかなテノールが多かった自分に、低くて太い声のビーストという、これまでと全く違う色を出せたことに満足感がありました。これからもう少し幅を広げていきたいと思ったこと、30歳という年齢も理由の1つでした。

―外の世界に出た感想は?

 これまで以上に“自分の居場所”だと思いました。劇団を出て初めての舞台が、現在公演中の『この世界の片隅に』ですが、多くの現場で経験を積んだ、尊敬できる人たちに囲まれたワクワク感でいっぱいです。

退団後の初舞台『この世界の片隅に』水原哲役 (C)こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝
退団後の初舞台『この世界の片隅に』水原哲役 (C)こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

 ただ、最初は委縮してしまい、自分らしくできるようになったのは初日を迎えてからですね。お客さんからもらうパワー、劇場の持つパワーに助けられました。自分は劇団のメソッドのみでやってきたので、不安もあると同時に自分の武器でもあるので、言葉を伝えていくことは大事にしていきたいです。そして、言葉を発するエネルギーが、役の存在感に繋がっていくと信じています。

―今回、ミュージカル『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役決定、おめでとうございます!

 ありがとうございます。アンジョルラス(カリスマ的な学生革命家のリーダー)はとても印象に残りますし、カッコイイですよね。

 僕は、“コネなし、金なし、知名度なし”ですから、ダメ元です(笑)。オーディションの自由曲は『レ・ミゼラブル』以外からということでしたので、『ノートルダムの鐘』のカジモドの歌を選びました。やりたいと思いながらできなかった役でもあるので、ある意味昇華された気がします。

 オーディションは、第一希望のアンジョルラスで進んでいる雰囲気でしたので、念のため第二希望のマリウスも聞いてみましたが、僕のタイプ的には違ったようです。

―アンジョルラスの魅力はどう出していきますか?

 アンジョルラスは、学生たちの中心に立っている役です。歌の技術と、今までやってきた言葉で勝負し、セリフとして歌うことですね。役柄的にも存在感をしっかり放っていきたいです。真ん中に立つ人間として影響を与え、破壊力、パワーを出していきます。

アンジョルラスのイメージを説明中
アンジョルラスのイメージを説明中

―小林さんの性格はアンジョルラスタイプですか?

 僕はそういう性格じゃないんです~(笑)。すぐ落ち込むタイプです。何か言われれば傷ついて、とことん落ち込んでから頑張って這い上がって…の繰り返しです。

―所属事務所はどうやって決めましたか?

 ミュージカル界で、キングといえば井上芳雄さんですよね。キングがどんな事務所にいるんだろうと調べたら、少数精鋭で、過去を含めた所属者を見ても、入るならここだと思い、事務所の方に会ってもらいました。

―所属事務所の方に伺います。なぜ、小林さんを?

事務所:私たちは普段、所属者の募集はしていないんです。なぜ今回受け入れたかと言うと、決め手は彼の面接の最後の言葉です。「1つ質問していいですか?」と言うので、「これから何をしたらいいか」とか聞くのかなと思ったら、「僕、芳雄さんの陰に隠れないですか?」と言ったんです。これは面白いと思いました。

事務所所属の経緯を初めて聞き驚く小林さん
事務所所属の経緯を初めて聞き驚く小林さん

―「芳雄さんの陰に隠れない」の意図は?

 芳雄さんの大きな存在の陰に隠れてはいけないと思いました。芳雄さんがミュージカル界で成し遂げた功績の大きさを尊敬しているので、芳雄さんにも事務所にも信頼しかないです。ただ、あくまでも自分の中では、自分が1番のつもりでやっているということでして、あまり調子に乗らないように気を付けたいと思います。

―初コンサート「小林唯1st Concert 『Link』」が決まったそうですね

 これから活動していく上で、皆さんに自己紹介を兼ねたイベントのようなものを考えていましたが、せっかくなら一番得意な歌を聴いてもらうのがいいのではということで、コンサートをすることになりました。

 構成には、現在『この世界の片隅に』でご一緒している演出家・上田一豪さん、音楽監督には同じ事務所所属のピアニスト・大貫祐一郎さんにご参加いただき、これまで歌ってきた曲や、ミュージカルナンバーをメドレーでとか、絶賛打合せ中です。頼もしい方々にご協力いただき、だんだんと形が見えてきており、自分自身とてもワクワクしています。

 そして、当日はスペシャルゲストにも来ていただくことになりました!タイトルに『Link』とあるように、歌を通して皆さんと心で繋がれるようなコンサートになると思います。ご期待ください!

―今後の夢は?

 ずっと第一線にいて、死ぬまでこの仕事をやることです!

【編集後記】

見た目は爽やか、歌うと力強い、舞台に立つ姿には1本筋が通っています。次々と新作・大作の主要な役が決まり、周囲の期待度も伝わってきます。今後のミュージカル界で大きな存在になることは間違いないでしょう。「話すと毒を吐いてしまう」と気にしていましたが、きっと正直な方なのだと思います。「芳雄さんの陰に隠れたくない」とは、ミュージカル『モーツァルト!』の楽曲「影を逃れて」の歌詞に出てきそうです。

■小林唯(こばやし・ゆい)

1993年2月27日生まれ、兵庫県出身。大阪市立咲くやこの花高校演劇科卒業。在学中に『サウンド・オブ・ミュージック』を観劇し、感銘を受ける。2013年劇団四季研究所入所。同9月に『コーラスライン』で初舞台を踏み、その後『キャッツ』スキンブルシャンクス役、『アラジン』アラジン役、『パリのアメリカ人』アンリ・ボーレル役、『美女と野獣』ビースト役など数々の作品で主要な役を務める。2023年退団。幅広い音域の高い歌唱力が武器。現在『この世界の片隅に』水原哲役でツアー中。ミュージカル『レ・ミゼラブル』は東京・帝国劇場にて、2024年12月12月16日~2025年年2月7日まで上演、その後全国ツアー公演を予定。「小林唯1st Concert 『Link』」は、8月24日(土)15:00/18:30東京・有楽町I’M A SHOW(アイマショウ)にて開催予定。

https://grand-arts.com/works/concert/kobayashi_yui_concert/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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