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トランプ政権の円安批判は正しいのか=ぬれぎぬを着せられた日銀の悲劇

窪園博俊時事通信社 解説委員
製薬業界トップらとの会合で円安批判を展開したトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ米大統領が日銀の量的緩和もやり玉に挙げて、露骨な円安批判を始めた。これに対し、日本は「円安誘導という批判は当たらない」(安倍晋三首相)と反論。為替政策をめぐる日米対立が鮮明となった。ただ、日銀の量的緩和が円安を志向したものは確かだが、トランプ氏の批判は間違いだ。日銀をやり玉に挙げるのも、ぬれぎぬと言える。

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教科書的には、トランプ大統領の言い分は正しいように思える

まず、現在のドル円水準は、1ドル=112円台。昨年末の118円台後半に比べるとドル安・円高になったが、それでも100円前後だった昨年半ばから随分とドル高・円安の水準になっている。教科書的には、金融緩和を推進する国の通貨は安くなり、日銀の量的緩和を念頭に「(通貨安をもたらす)通貨供給量で有利な立場を取っている」とするトランプ大統領の言い分は正しいように思える。

実際には、昨年秋以降のドル高・円安は、トランプ大統領の減税やインフラ投資に伴う財政政策の拡張によって「米国のインフレ期待が高まる」(外資系証券エコノミスト)と評価されたからだ。インフレ期待が高まれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを進めざるを得ない。つまり、ドル高・円安は、日銀の金融緩和を受けた円安進行ではなく、FRBの利上げ観測によるドル高進行によるところが大きい。

「日銀“敗北”の軌跡を『総括的に検証』=『介入権』なき中央銀行の悲劇」の後段でも解説したが、もともと日銀は為替介入権を持たず、ドル円を直接的に動かす手段を持たない。また、円の保有主体は国内勢にとどまり、日銀の金融緩和で円を売る参加者も少ない。一方、ドルは世界中で保有され、FRBの金融政策に反応する向きは多い。FRBの利上げ観測は、世界的なドル買いを促すのだ。

日銀ではなく、利上げに動くFRBをやり玉に挙げるのが筋

従って、トランプ大統領が円安・ドル高の進展を批判するなら、日銀をやり玉に挙げるのではなく、利上げに動くFRBをやり玉に挙げるのが筋であろう。さらに言えば、FRBの利上げを招く自らの減税・インフラ投資の妥当性を問わなければならない。日銀は円安の進行を望むが、ドル買いが進んだので、あたかも量的緩和が効いたように見えるだけだ。その点をトランプ大統領につけ込まれる悲劇に陥った。

残念ながらドル円相場は、経済要因よりも政治的な要因で動く側面が大きい。トランプ大統領が本気でドル安を志向するなら、「FRBも抑圧されて利上げができなくなる」(シンクタンクのエコノミスト)との観測を広め、ドル売りが加速するだろう。これに対する抵抗手段は、「トランプ大統領が口先介入すると…=『ノーガード』の日本を直撃、円が急騰?」でも述べたようにわが国は持たない。円高が相当に進む覚悟が必要だ。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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