新型コロナ対策としてのマスクの緩和 どのように進めていくべきか?
政府は新型コロナの感染対策としてのマスクの着用について、基準の見直しに着手すると発表しました。
マスク着用の緩和について検討することは重要ですが、それだけが独り歩きしないような建設的な議論が必要です。
マスク着用は感染予防に有効である
まず、前提としてマスクは新型コロナの感染対策として重要です。
新型コロナウイルス感染症では、咳などの症状がある人だけでなく、症状のない感染者からも感染が広がります。
このため、症状のない人も含めてマスクを着用する「ユニバーサルマスキング」という概念が新型コロナ以降の感染対策として定着しました。
特に換気の悪い屋内においては、離れた距離であっても感染が起こることがあり、屋内におけるマスク着用は、感染予防策として主要な対策の一つとして寄与してきました。
例えば、アメリカの感染症の専門家Eric Topol博士は、感染対策として最も成功した国として日本を挙げており、日本とアメリカの人口あたりの累積死亡者が9倍近く違う要因の一つに、ワクチン接種や、3密回避、マスク装着などを挙げています。
世間では「日本はいつまでマスクを着けているんだ!海外はもうとっくにマスクを外しており、日本もこれに見習うべきだ!」という意見もあるようですが、感染対策という面では確実に効果があり、また他国と比べても新型コロナによる被害を大きく抑えてきたことに貢献していると考えられます。
Eric Topol博士「マスクは有効です。ワクチン接種、ブースターも同様です。日本は世界の大国の中で、国民一人当たりの新型コロナによる死者が最も少ない国です。」
さて、そんな中、政府はマスク着用についての見直しを行うことを発表しています。
この記事のタイトルは「脱マスクへ」とありますが、マスクは全て撤廃というわけではなく、特に屋内でのマスク着用の基準を見直すということのようです。
そもそもマスク着用については日本では義務ではありませんので、各自の判断に委ねられているところですが、周りの目が気になってマスクを外しにくいという人も多いかと思いますし、感染リスクの低い場面では積極的に外したい人にとってはこうした方向性は良いことかと思います。
屋内でマスクを外しても安全な場面は?
感染対策の面から考えると、「しゃべるときには飛沫を減らすためにマスクを着ける」ということが重要です。
特に屋内で近くの距離で誰かと会話をするときにはお互いがマスクを着けるのが安全です。
一方で、一人で机に向かって黙って仕事をしていて、誰も近くにいない状況であれば、マスクを外していても感染リスクは低いと考えられます。
厳密なことを言うと、呼気中にも飛沫やエアロゾルはわずかに含まれますが、新型コロナの致死率も大幅に低下し、流行状況も落ち着いている段階で、もはやそのような微小なリスクを気にする状況でもないでしょう。
前述の通りマスクの着用については日本国内では義務ではありませんので、すでに企業によっては「社内でのマスクの着用は任意」としている企業もあるようです。
こうした企業も「全員マスクを外して仕事をしよう!」というわけではなく、各自の判断に任せるということのようです。
私自身は、各自がそれぞれの場面における感染リスクを理解し、マスクを着けるべき場面、着けなくてもよい場面が適切に判断できるようになることが重要であると思いますので、こういった企業が増えてくること自体はとても良いことかと思います。
ただし、全ての人が適切にマスクを着ける場面、外す場面を理解することは難しく、どうしても個々人の理解には差が生じます。
また、人によって感染リスクの捉え方は様々であり、できる限り感染することを避けたいという人もいれば、ある程度の感染リスクも許容してでもマスクを外してのコミュニケーションを優先したいという方もいるでしょう。
ですのでマスク着用について緩和する方向に議論が進めば、どうしても感染リスクのある場面は増えてきてしまうでしょう。
ただし、この辺りは、新型コロナの重症度が下がってきていて、流行状況も落ち着いてきている今の状況を考えれば、ある程度各自の理解、あるいはリスク管理に委ねるべきものなのだと私自身は思います。
今後、感染状況がさらに落ち着き、高いワクチン接種率が維持され、また感染の既往のある人も増えることで、より緩和の方向に議論が進み、公共交通機関などでのマスク着用の有無についても議論が進むことになるかもしれません。
緩和はワクチン接種など対策を並行して行うことが前提
第7波の流行はピークを過ぎ、世の中は緩和の流れになっています。
それについて私は基本的には賛成なのですが、できる対策はしっかりと行った上で緩和を進めていくという前提が十分に認識されていないことを危惧しています。
オミクロン株が主流になって以降、20歳未満の世代の感染者が最も多く、2022年になってからの20歳未満の死亡者数は41名となっています。
詳細が判明した死亡例のうち基礎疾患のない小児は半数以上を占めており、2回のワクチン接種歴があったのは2例だけでした。
成育医療センターの調査でも、入院した小児の重症例は全てワクチン接種歴がなかったと報告されています。
小児が新型コロナに感染して重症化することは稀とは言え、感染者数があまりに多くなりすぎると重症者や死亡者が増えてしまうことになります。
また、オミクロン株が拡大して以降、子どもから親に感染する家庭内感染事例、親が濃厚接触者となる事例が激増しており、子どもの感染は社会機能にも影響を及ぼしています。
小児の新型コロナワクチン接種に関するエビデンスが蓄積し、副反応が成人よりも少ないこと、オミクロン株に対しても感染予防効果・入院予防効果が示されています。
10月5日には生後半年〜4歳までのワクチン接種についても承認されました。
第8波に備えて、小児のワクチン接種を進めていくことは非常に重要です。
また、12歳以上の人を対象にオミクロン株対応ワクチンの接種も始まっています。
従来のmRNAワクチン以上に、オミクロン株に対する感染予防効果が高くなることが期待されています。
対象者となる方は、インフルエンザワクチンとともにぜひ接種をご検討いただき、この冬の流行に備えましょう。
このように、「もうコロナは終わったから、どんどん緩めていこう!」という両手ぶらりノーガード戦法ではなく、できる備えをした上で検討すべきものです。
政府にはこの点もしっかりと強調していただきたいところです。
流行状況や新たな変異株によっては対策に揺り戻しがあることも
「マスク着用のルールを緩和していこう」という議論はとても大事であり、現在の落ち着いている流行状況や、低下してきている重症度の状況では検討すべき問題だと思います。
一方で、こうした議論は必ずしも一方向性に進むものではない、ということは国民の皆さんが理解しておくべきものではないかと思います。
つまり「流行が落ち着いている時期にはマスクのルールは緩めてもいいけど、流行状況によっては、あるいは新しい変異株の性質によってはまた厳しくした方がいい」という柔軟な考え方が必要です。
「欧米はもうとっくにマスクを撤廃しているし、いつまでそんな生ぬるいこと言ってるんだ!くつ王、逝ってよし!」と思われる方もいるかもしれませんが、例えばドイツは新型コロナの患者数の増加を受けて、再度マスク着用のルールを厳格化しています。
日本だって、インフルエンザが流行するシーズンにはマスクを着ける人が増えていましたよね?
新型コロナについても、こうした流行状況や変異株の性質に合わせた柔軟な対応が、求められるのではないでしょうか。
この3年間、私達は新型コロナに苦しめられてきました。
オミクロン株が出現する前も「もしかしたらコロナはもう終わったかも」と多くの人が思ったと思います。
もしかしたら今度こそ私達が目指しているゴールは近づいているのかもしれませんが、決して油断せず「3歩進んでも2歩下がる」という状況を許容しつつ、緩和を進めていくことが大事ではないかと思います。
※大阪大学大学院医学系研究科では、新型コロナに感染したことのある方の後遺症の症状について継続的に調査を行っています。研究の詳細はこちらからご覧ください。これまでに新型コロナと診断されたことのある方は、こちらからアプリをダウンロードいただきぜひ研究にご協力ください。