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NPBはドラフト候補選手を対象にショーケース実施を検討すべきではないか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨季は2軍戦で1試合の登板に留まったソフトバンクの田中正義投手(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 2月1日のキャンプインまでわずか2週間を残すばかりとなった。各チームともに新人合同自主トレを実施し、昨年のドラフト指名選手たちがプロ選手としての第一歩を踏み出している。

 そんな中、巨人の1位指名選手の鍬原拓也投手が“上半身のコンディション不良”で自主トレ初日から別メニュー調整を余儀なくされているという。一部報道ではシーズン前半戦は絶望ではないかとの憶測もなされているが、巨人は昨年もドラフト1位指名の吉川尚輝選手が新人合同自主トレ中に別メニュー調整で出遅れ、結局1軍出場はわずか5試合に留まっている。いうまでもなくチームにとっては大きな痛手だ。

 巨人だけではない。一昨年ソフトバンクが5球団競合の末ドラフト1位で獲得した田中正義投手もキャンプ中に右肩に違和感を訴え、結局昨シーズンは2軍戦でわずか1試合の登板しかできなかった。

 もちろんこうした事態はある意味、チームのスカウト部門の調査不足であるのだろう。しかし本来ならプロ志望届けを提出した選手はドラフト指名前に、NPBもしくはチームによってしっかり身体検査を行うべきものだと感じる。一般企業でも志望学生を集めて会社説明会の場で学生たちの様々なデータを集めているのに、身体が資本のプロ志望選手たちの健康状態をチームが事前にチェックできないのはおかしくないだろうか。

 MLBでは岩隈久志投手が2015年オフにFA選手としてドジャースと大筋合意しながらフィジカルチェックで破談になってしまったように、常にフィジカルチェックが必要になってくる。昨年大谷翔平選手がエンゼルス入りした後も、日本ハムから提出されていたメディカル・レポートで大谷選手が右ヒジにPRP注射治療を受けていることが判明して大騒ぎになったのも、事前に健康状態を申告しなければならなかったからだ。

 一方でMLBでもNPB同様に、ドラフト指名前に各選手のフィジカルチェックを行うことはない。ただ6月に実施されるアマチュア対象のドラフトは各チームともに40人の指名を行うので、候補選手を含めると100人近くの選手が対象になってしまう。それらの選手のフィジカルチェックを行うのはかなり困難な作業なのだ。

 だが各チームとも米国内に地域ごとのスカウトを置き、夏休みになるとチーム主導で有望な高校生を集めショーケース的なサマーリーグを実施しており、自分たちの手で逐一各選手の成長状況、健康状態を確認することができるのだ。これはプロアマ交流が厳しい日本では絶対に不可能なことだ。

 日本では育成選手を含め各チームのドラフト指名選手は10人前後だ。その程度の人数ならば、NFLのようにリーグ主導でドラフト指名選手を集めショーケースを開催し、その場で各選手の実力、健康状態を確認できるようにすればいいのではないだろうか。プロ志望届けを提出した選手を対象に、全12球団が参加し東日本、西日本の2箇所で実施すれば、基本的にほとんどの選手を網羅できるはずだ。

 仮にショーケースが実現できれば、アマチュア野球の環境を大きく変貌させる可能性もある。例えばドラフト前に健康状態に問題がある選手が発覚するケースが生じたとしよう。そうなれば必然的に所属チームの指導者の責任が問われることにもなるので、指導者にとっては死活問題だ。そうなってくればドラフト有望選手を万全の状態でショーケースに参加させられるように気を遣うだろうし、普段から無理な起用法を抑制する方向に向かうという相乗効果も期待できるのだ。

 本来なら有望選手になればなるほど、各レベルの指導者が彼らの将来を考えながら指導、育成を行っていくべきものだ。大会を立ち上がりタイトルを獲ることが指導者の大切な“肩書き”になるのかもしれないが、有力選手をフル回転させ無理な起用をするのは決して選手の将来を考えた指導とは言い難い。有望選手を怪我なく成長させ、上のレベルに送り出すことの方がジュニア期の指導者としての責務だと考える。

 日本ではプロ、アマに限らず選手の故障、怪我についてなるべく秘匿しようとする傾向が強いように思う。スポーツに怪我は付きものだ。しっかり怪我を治してからでないとプレーさせない環境づくりは有望選手の保護に結びつく。そんな環境づくりをショーケース実施に期待してもいいのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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