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お笑い界は新しい時代に突入か 年末年始のバラエティ番組から2021年を展望する

てれびのスキマライター。テレビっ子
(提供:Shrimpgraphic/イメージマート)

無観客で行われた『紅白歌合戦』(NHK)を筆頭に、大なり小なりコロナ禍の影響を受けた年末年始のテレビ番組。お笑い・バラエティ番組にフォーカスしてそれを振り返りつつ、2021年を展望する。

■コロナ禍での生放送、逆境を笑いに変える芸人たちの逞しさ

まずは垣間見えたコロナ禍の影響を振り返りたい。

『ガキの使い!大晦日年越しSP 絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス』(日本テレビ)は、菅野美穂、松平健、新しい地図の面々など例年通り豪華なゲスト陣を迎えて行われた。しかし、その一方で、「名場面クイズ」という形で過去の名場面に時間を割くなど、大規模・大人数・長時間の撮影が困難だったのではないかとうかがわせる構成もあった。

また、『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ)では、ロッチや東京03のコントが完全に終わっていないにもかかわらずCMに行ってしまったり、『東西笑いの殿堂』(NHK)では効果音が入るタイミングが変だったり、カメラが変なところを映してしまったりとスタッフのミスが続出。もちろんこうしたハプニングは生放送にはつきものだが、おそらく感染予防対策を施しながら、最低限の人数での生放送であるがゆえに、それが目立ってしまったのではないか。だが、それをすべて笑いに変える芸人たちの逞しさもまた印象的だった。

また、例年であれば正月休みを海外ですごす明石家さんまが、旅行に行けないため23年ぶりに『爆笑ヒットパレード』に出演するなど、思わぬ“副産物”もあった。

■ブレイク芸人の登竜門『ぐるナイ おもしろ荘』

過去、小島よしおやオードリーを筆頭に、ブルゾンちえみ、日本エレキテル連合、おかずクラブ、ぺこぱ、昨年はエイトブリッジやラランドなどが出演しブレイク芸人の登竜門になっている『ぐるナイ おもしろ荘』(日本テレビ)。「2021新年SP」に出演したのは、846組が参加したオーディションを勝ち抜いたさんだる、オフローズ、ダイヤモンド、野田ちゃん、エルフ、フタリシズカ、戦士、やす子、ワラバランス、Everybodyの10組。

元自衛官で芸歴2年のSMA所属・やす子や、やはりSMA所属の「芸歴22年の45歳」野田ちゃんらがナインティナインや出川哲朗、有吉弘行らとの絡みで確かな爪痕を残す中、優勝したのは、このメンバーの中では比較的正統派なネタ「コーヒーのサイズ」で大きな笑いを生んだダイヤモンドだった。

ダイヤモンドは東京NSC15期の野澤輸出と大阪NSC32期の小野竜輔が組んだ東西NSCの同期コンビ。ニューヨークや鬼越トマホーク、ニッポンの社長・辻などが同期にあたる。いわば「お笑い第7世代」にギリギリカウントされないはざまの世代。ニューヨークを筆頭にその鬱憤を武器に活躍しているだけに、彼らもそれに続くことができるか注目だ。

『おもしろ荘』では、「カラダパーツ芸メドレー」も実施。

ディスコザムーン・ケビン、ノボせもんなべ、キャツミ、くまりえ、ポメラン・手塚ジャスティス、男スペシャル・井福が、どこか体のパーツを使った一発芸を披露。その中で優勝したのは、髪の毛を使った芸を披露したノボせもんなべだった。

■今年ブレイクする次世代芸人を占う『ネタパレ元日SP』

この裏番組だった『ネタパレ元日SP』(フジテレビ)では、今年ブレイクする次世代芸人を決めるという企画「ネタパレニューイヤーグランプリ」を実施。

出場メンバーと披露したネタは以下の通り。

Aブロック:宮下草薙「ダイエット」、ニッポンの社長「殺人鬼」、ランジャタイ「おじさんのラーメン店」、ゾフィー「俺たちの青春」

Bブロック:ラランド「漁師」、Gパンパンダ「2.5次元舞台」、Aマッソ「オリジナルカレー」、蛙亭「電車」

Cブロック:東京ホテイソン「謎解き」、ザ・マミィ「聞きたい面接」、令和ロマン「ラーメン屋」、コウテイ「もうええわ」

Dブロック:納言「スナック」、空気階段「クワガタ」、四千頭身「エセ関西弁」、ロングコートダディ「エクソシスト」

この予選を勝ち抜いたのはゾフィー、蛙亭、空気階段、コウテイ。実際に『キングオブコント』の決勝に揃っていそうなメンバーに。

それぞれゾフィーは「ひらめき」、蛙亭「将棋」、空気階段「中華夫婦」、コウテイ「多重人格」というコントを披露し、優勝に輝いたのは空気階段だった。

また、同番組では「かくし芸パレード」も実施。ザ・マミィ・酒井、GAG・坂本、宮下草薙、蛙亭・岩倉、かが屋・賀屋、Aマッソ、四千頭身・都築&後藤、ロングコートダディ、ランジャタイ・国崎、GAG・福井が一発芸を披露。

結果、GAG・坂本が優勝

陣内智則も「GAGは2021年に本格的に来そう」と感想を漏らした。すゑひろがりず、マヂカルラブリーがブレイクした「大宮セブン」の一員であり、『キングオブコント』にも4年連続決勝進出を続けているGAG。バラエティ番組での露出も増えつつあり、陣内の言葉通り、ブレイクの予感に満ちている。

さらに、「ニュースターパレードグランドチャンピオン大会」も開催。予選を勝ち抜いたダーヨシ、ギフト☆矢野、あっぱれ婦人会、ねんねん、やままん、観音日和、ラパルフェ、しゃかりき、ゆーびーむ☆、アントワネット、パルテノンモードが出場し、「労働者図鑑」を披露したダーヨシが優勝した。

■配信ライブの可能性を示した「マヂカルラブリーno寄席」

『フットンダ王決定戦』(日本テレビ)では、本戦である「フットンダ王」を決める大喜利大会の合間に「若手芸人ネタ祭り」を開催。視聴者票数×10円が「お年玉」として贈呈される企画だ。その結果は以下の通り。

・インディアンス 54000円

・錦鯉 89610円 

・ネイチャーバーガー 27530円 

・ランジャタイ 59630円 

・ハリウッドザコシショウ 36130円 

・スパイク 36130円

なお、本戦にも出場していたザコシショウは“サプライズ”として参戦。スパイクは進行役だったが急遽、MCのタカアンドトシの提案で参加した。

最年長・最歯少で『M-1』決勝進出で話題を集めた錦鯉が最高賞金を獲得したのはさすがの一言だが、同じく『M-1』の敗者復活戦で強烈なインパクトを残したランジャタイもこの年末年始の活躍は鮮烈。

出演した1月1日の配信ライブ「マヂカルラブリーno寄席」も大評判となった。彼らの漫才中、観客席の芸人仲間から野次が飛び、それが大きな笑いとなったのだ。それを見た観客はもちろん芸人たちも大絶賛し、配信延長(10日まで)が決まるという異例の展開。1月7日現在、購入者14000人を突破したという。配信ライブの可能性の大きさを見せつけた。

■お笑いに特化した番組の増加

『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ)は、売れっ子や大御所芸人たちのネタが見られる貴重な番組だが、若手芸人たち中心の「爆速ヒットパレード」というコーナーは、今年ブレイクする芸人を占う上で重要だろう。出演した芸人は以下の通りだった。

島田珠代、モグライダー、土佐兄弟、パニーニ、うるとらブギーズ、ヒコロヒーとみなみかわ、おいでやすこが、お見送り芸人しんいち、ザ・マミィ、シティホテル3号室、キュウ、トンツカタン、滝音、ママタルト、ぼる塾、Groovy Rubbish、怪奇!YesどんぐりRPG、大自然、ポポロクランク、さんだる、吉住、空気階段、クロスバー直撃、はなしょー、ヒガ2000、みほとけ、ネルソンズ、AMEMIYA

『ネタパレ元日SP』でも優勝した空気階段や『THE W』王者・吉住、『おもしろ荘』でも確かな笑いをとったさんだるを始め、ザ・マミィ、キュウ、ママタルトといった個性と実力を兼ね備えた芸人たちが目を引く。そんな中でひときわ存在感を放つのがベテラン女性芸人・島田珠代だ。昨年『相席食堂』などで「パンティーテックス!」などと意味不明なフレーズを連発しインパクトを残した彼女。今年は全国区での大ブレイクが期待される。

元日だけでもこれだけ多種多様な次期ブレイク候補芸人が活躍した2021年。

2020年から2021年の年末年始のテレビ番組は、お笑い番組の多さが目立った。もちろん、年末年始にお笑い番組が増えるのは例年のことではあるが、今期はそれがより顕著だった印象がある。

「お笑いナタリー」がまとめた「年末年始のお笑い芸人出演番組情報(全国ネット&関東版)」を2019年版2020年版 と見比べただけでも、その増加は明らか。

さらに、再放送を除いた上で、筆者の主観ではあるがお笑い要素が強い番組を抜き出してみるとそれは顕著だ。

今期でいうと以下の通り、57本あった。(同様の基準で2019年は42本)

(筆者作成)
(筆者作成)

そんな中でもより特徴的なのが、ネタや大喜利など、完全にお笑い芸に特化した番組が多いことだ。

昨年は『有吉の壁』(日本テレビ)のゴールデンタイムでの成功を皮切りに、ゴールデン・プライム帯にお笑い番組が急増した。テレビ各局は、個人視聴率を重視し、TVerなどの配信の回転数も評価するようになったという。そのため、制作者は若者向けのテレビ番組を志向するようになっている。ますますお笑い番組の需要は高まっていくだろう。時代は確かに変わり始めている。

昨年は「お笑い第7世代」の台頭や新たな世代の女性芸人の活躍で、これまで固定化されつつあった出演者も一気に新しい層が入るようになった。上に挙がっている芸人たちがどんどんテレビのバラエティ番組に出るようになれば、より一層、お笑い界は活性化していくはずだ。

『ゴッドタン』(テレビ東京)などを手掛ける佐久間宣行は『あたらしいテレビ』(テレビ東京)で以下のように語っている。

「つらかった1年の中で、古い価値観だったり、やっちゃいけないことだったり、リテラシーとか、あぶり出されたものがあると思うんですよね。それはちゃんと学んでアップデートしていかないと。この1年を無駄にしたくないという気持ちがあるんですよ。この1年はつらかったけど、この1年があったからもっと良くなったねって言われるようなテレビでありたい」

お笑い界が新しい時代に突入する条件は揃っている。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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