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リーグ屈指の“エースキラー” 大阪エヴェッサ・今野翔太が見出したディフェンダーという活路

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
毎試合果敢なディフェンスをしかける今野翔太選手(左・筆者撮影)

 2019年を迎え、大阪エヴェッサがBリーグで面白い存在になりつつある。

 12月23日にBリーグ創設以来初めて栃木ブレックスから勝利を奪うと、次戦の琉球ゴールデンキングス戦でも85対44と圧勝。そのままの勢いを保ちながら2018年最後となった滋賀レイクスターズ戦も連勝し、4連勝で年越しを迎えた。チーム状態は明らかに上がっており、シーズン後半戦での巻き返しを期している。

 シーズン序盤は主力選手の故障もあり10月下旬から8連敗するなど厳しい時期に直面することもあったが、今シーズンから指揮をとる穂坂健祐HCは「ディフェンスはリーグ5本の指に入っていると思っている」と語り、ディフェンスを武器にしながらチーム浮上を模索してきた。

 同HCの言葉を裏づけるように、ここまでのチーム失点数は2044で、ゴールデンキングス(2001)、アルバルク東京(2018)に次いでリーグ3位にランク。そこに日本人スコアラー、熊谷尚也選手らのプレーが安定し始めたことで得点能力が高まり、理想的な戦い方ができるようになってきた。

 そんなエヴェッサの強力ディフェンスを支える象徴的存在といえるのが、今野翔太選手だろう。穂坂HCが絶大な信頼を寄せるリーグ屈指の“エースキラー”だ。

 今野選手が先発出場し続けるポジションは、他チームでは日本人スコアラーが揃う2番だ。もし彼を得点能力(平均得点4.6、シュート成功率34.1%)だけで他チームの2番選手たちと比較すると、下位に低迷してしまうはずだ。それでも今野選手はここまで22分56秒という平均出場時間を得ている。それこそが彼が備えるディフェンダーとしての素養だ。

 今野選手のサイズは、183センチ、82キロ。現在では日本人選手の中でも体格的に恵まれているわけではない。それでも彼の上半身の筋肉を見るだけで、相手に当たり負けしない身体を作り上げているのかが理解できる。そうしたパワーとスピードを武器にして執拗なディフェンスを展開し、臆せずに相手チームの日本人のエースたちに挑んでいくのだ。

 改めて穂坂HCに今野選手の素晴らしさを解説してもらった。

 「間違いなく自分がやってきた選手の中で一番いいディフェンダーだと思います。マークする相手選手をシャットダウンする力がありますし、外国人選手(この日は滋賀の新外国籍選手ともマッチアップ)とも…、確かにポストされると少し難しいですけど、アウトサイドのアタックに関しても足で守れる力があります。

 結果的に(滋賀戦で)オフェンスファウルをとりましたし、栃木戦でもプレッシャーからオフェンスファウルをとりました。オフェンスファウルという数はどこのチームも出してなくて(データには)書いてないと思うんですけど、僕はそういった数字を大事にしたいですし、オフェンスファウルをとる勇気というか、身体をはる姿勢というのはチームにとって間違いなくプラスですし、彼のようなディフェンダーがいるからこそ、いいチームになっていっていると思います。

 彼自身、魂がありますからね。自分が教えるとかではなく、彼は自分の仕事というのを分かっています。それが自分の中ではリスペクトしていて、どういった状況でもブレない。もちろんオフェンス力に関しては難があるかもしれないです。ただそういった中でも自分の生き方を知っていますし、ディフェンスで数字に出ない部分を評価すべきだと思います」

 それでは今野選手自身、自分のプレースタイルについてどう感じているのだろうか。

 「Bリーグになってその役割をチームから任されているので、かなり意識はしています。今は逆に気持ちよくなっているんですよね(笑)。相手のエースだとか、得点をとる選手を抑えてどうだっていう感じがやりがいになってやっているので、苦じゃないというか楽しみながらやってますね。なかなかディフェンダーという選手がBリーグにはいないと思うので…。僕にもう少し得点力が備わればもっといい選手になれると思うんですけど(笑)。

 (数字的には)分からないですけど、かなりオフェンスチャージをもらうのが多いですし、(相手選手を)困らせてやろうという気持ちと、ボールを持たせないという気持ち…。まずボールを持たせない、ボールを持たれたら抜かれない、簡単にシュートを打たせない、そこに喜びを感じながらやっている…。何だろう、なんかワクワクしながらやってますね(笑)」

 今野選手をここまで気持ちよくさせるほどのディフェンダーに変貌させたのは、Bリーグ誕生がきっかけだった。

 「それまでは得点をとることを任せられることが多かったんですけど、僕より点とれる選手は山ほどいてるので、その中で僕がどうやって生き残っていくのかっていったらまずディフェンスだと考えた時に、『あっ、オレ守れるわ』と思って…。そうやってプレータイムを獲得してオフェンスもいい感覚になっていけばいいなと思ってまず。(プレースタイルが変わったのは)まあディフェンス・マインドから絶対に試合に入るというのを決めてからですね。

 それなりに身体づくりもしてますし、外国人選手も今日だったら23番(滋賀の新外国籍選手)かな。正直つきたいと思っていたし、全然止められる自信があるので…。まあ当たり負けしないので、身体をはれるからその辺は自信を持ってやってます。

 オフェンスから流れをつくるとお客さんも盛り上がるんですけど、オフェンスでなかなか点がとれない時はまずディフェンスからというマインドなので、僕がそこは率先してディフェンスで流れをつくってやろうと思ってます。もしかしてお客さんには分からない部分があるかもしれないし、どれほどの人が分かってくれているか分からないですけど、そこを求めても仕方ないので、チームのためにいい流れを持ってこられるように常にそうしたマインドでやってます。

 Bリーグには『ディフェンス・オブ・ザ・イヤー』という賞もありますし、僕ちょっと謙虚なんですけど(笑)、良かったら狙っていきたいなと思っています。それと子供たちに僕みたいな選手でもプロ選手になれると、オフェンスに目がいきがちですけど、プロとして生きる道はそれだけじゃないんだよと、ディフェンス頑張っても価値がある選手がいるんだと分かって欲しいというのもありますね」

 今野選手がコート上で躍動する限り、エヴェッサの強力ディフェンスはその威力を発揮し続けることだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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