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大阪市長への提言での久保校長の処分は、「255人の意見書」までも無視したことになる

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Keizo Mori/アフロ)

 松井一郎・大阪市長が突然にオンライン学習を宣言して学校現場に混乱を起こしたことや教育行政についての提言書を市長に送った大阪市立木川南小学校の久保敬校長を、大阪市教育委員会(市教委)は「文書訓告」とした。学校現場が混乱したというのは久保校長の「独自の意見」でしかないと市教委は主張したいようだが、市の公開文書となっている「255人の意見書」にも明らかなように、それは久保校長独自の意見ではなく、多くの保護者や教員がもった意見である。

|市教委にとっても「異例」だったのに処分?

 今年4月に3回目となる緊急事態宣言の発出を前に、松井市長が原則オンライン学習の方針を発表した。それも、記者会見の場で突然に発表するという「異例」なものだった。

 保護者や学校関係者も報道で初めて知って、慌てた。寝耳に水だったのは市教委も同じで、慌てて市長の意に沿うような方針を決めて学校に連絡した。しかしオンライン学習をするための回線容量が不足しているなど、とても市長が言うようなオンライン学習ができる環境は整っていないのが現実だった。間違いなく、大混乱になったのだ。

 久保校長は提言書で、「そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている」と苦言を呈した。市長と市教委の対応を批判したわけだ。

 これに対して市教委は今月20日に「文書訓告」を行ったわけだが、その処分理由について「他校の状況を把握せず、独自の意見に基づいて市全体の学校が混乱していると断言したことで市教委の対応に懸念を生じさせたと説明」(『毎日新聞』電子版8月20日付)している。他校は混乱していなかった、と言いたいのだろうか。

|混乱の証言が続々

 しかし、他校も混乱した。久保校長に続いて市立港中学校の名田正廣校長が、「我々の命令権者は教育長であるにも関わらず、コロナ対応においては手順を踏まずに市長が直接教育にも介入をしているように現場には映ります」といった内容を盛り込んだ提言書を市教委に提出されている。そこには、市内の保護者や教員など255人から寄せられた意見書も添付されている。この提言書と意見書は現在、市の公開文書となっており、手続きをとれば誰でも見ることができるようになっている。

 その意見書には、松井市長の突然の発表で混乱してしまったことに対する意見が口々に綴られている。

 ある中学生の保護者は、「全生徒にパソコンを配布したのだから、はぃすぐにオンライン授業ができるでしょ?と言わんばかりの市長の対応には残念しかありませんでした」と述べている。他の中学生の保護者も「現場の先生の意見も聞かず、強行する姿勢に、松井市長に不信感が募りました。現場も家庭も大混乱ですよね」と書き、小学生の保護者は「市長の発言により学校現場が振り回されているようにしか思えませんでした。実際に保護者の間でも子どもたちの通学についてどうするのか、タブレット使用についての不安等の意見もありました」としている。

 小学校の教員のひとりは、「一人一台端末が配られてまだ不慣れな状況(特に低学年はローマ字もできません)および脆弱な回線の状況でオンライン学習は、全く実態に合ったものとは言えません」と書いている。中学校の教員も、「学校でのネット環境は脆弱で、通信環境はよくありません。またタブレットは配布されたものの、とりあえず環境を揃えただけ感が否めません」と実情を訴える。

「255人の意見書」を見るだけでも、久保校長が指摘した混乱が事実であることは多くの人が認めるところである。決して久保校長の「独自の意見」だけではない。オンライン学習の混乱だけでなく、久保校長が教育行政について提言していることにも、多くの人が賛同している。意見書に参加しなくても、同じ思いの大阪市民は少なくないのではないだろうか。

|市長も教委も255人の提言を読み直すべき

 市教委が文書訓告の理由としているように、混乱は「(久保校長の)独自の意見」ではなく、「市教委の対応に懸念を生じさせた」のは久保校長の提言が原因でもない。原因は、松井市長の発言と市教委の行動そのものでしかない。

 にもかかわらず、市教委は久保校長に文書訓告という処分を行った。「255人の意見書」では口々に久保校長を処分しないようにとの訴えもあったにかかわらず、それも無視されたことになる。

「255人の意見書」を公開文書にしているのだから、当然、市教委も目をとおしているはずである。それでも市教委は、責任を久保校長に押し被せようとしている。

 こうした市教委の対応を、意見書を提出した255人は、さらには大阪市民は、どのように受け取るだろうか。松井市長と市教委には、あらためて255人の意見書を丁寧に読んでほしい気がする。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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