島田洋七が語る「R-1」で観客が悲鳴を上げたワケ
観客から笑い声以外の悲鳴などがあがったことで、思わぬ形でも注目を集めた今年の「R-1ぐらんぷり」。漫才コンビ「B&B」としてお笑い界の頂点を極め、2002年から06年まで「M-1グランプリ」でも審査員を務めた島田洋七さん(69)は今回の流れをどう見たのか。そこには、プロ中のプロしか語れない、騒動の“答え”がありました。
野球とバスケと柔道
「R-1」、しっかりと見ましたよ。ま、これは今年に限ったことではないけど、ホンマに「R-1」の審査は難しいわ。「M-1」やったら、もちろん漫才にもいろいろなパターンはあるとはいえ、基本的には2人がしゃべるだけやからね。
ただ「R-1」は何でもアリやから、審査員もどこをどう見て、どう評価したらいいのかがものすごく難しいと思いますよ。オレも「M-1」は5年間審査員をやったけど、もしオレに「R-1」の審査員をやってくれと言われたとしても、オレにはできんと思う。
言うたら、野球と、バスケと、柔道で勝ち負けを決めるようなもんやらかね。今回も、あれを一つのバラエティー番組だと思って見たら「なるほど、こんな笑かし方もあるんやな」とも思うし、何より、ホンマに面白かった。ただ、あの中から一人勝者を選ぶとなると、そら、難しいですよ。
「R-1」は「M-1」より大変
オレも盛り上げるために「R-1」の第1回には出場者として出たんやけど、その時はだいぶと落語を意識していたから、座布団の上でやるというルールがあった。だから、必然的に話芸の勝負になっていくし、そういう感じが続くのかなと思っていたら、だんだん変わっていった。
そらね、いきなり裸で出てきてお盆をひっくり返したら(17年優勝のアキラ100%)、みんな笑うよ。こうなってくると、明らかに純粋な話芸ではない。ただ、ここもホンマに難しいんやけど、ルールとして「そういうやり方はダメ。純粋な話芸だけ」としたら、今度はね、出場者が集まらんと思う。それくらい、1人のしゃべくりってものすごく難しいのよ。言うたら、漫才が2人でやっていることを1人でやっていくんやからね。
漫才の場合は、すごく簡単に言えばよ、トチッたことまでも相手が「アホか、お前!」とつっこめば笑いにできる。でも、1人で失敗したら、リカバリーはものすごく大変よ。オレが思うに、実は「M-1」より「R-1」の方が大変なことをやっている。今回の大会でも(三浦マイルドが)緊張したんやと思うけど、フリップめくるところでちょっとリズムが変わってしまったもんな。そうしたら、どうしたらいいのか分からなくなってくる。そら、大変よ。ホンマに。みんな、ものすごいことやってるんやから。
また、今は見ている人、みんなが審査員やもんな。ほんで、それをすぐに(SNSで)発信できるやんか。そうなると、審査員にも「なんであれの勝ちなんだ」という感じで“矢”がいくやろ。「M-1」はまだ方向性がある程度定まっているけど、「R-1」は見る人の感覚によって、優勝者が全然違うもんね。面白さを感じるところが、それぞれバラバラやもん。
悲鳴は必然
今回、観客から悲鳴があがったり、過剰というか、そんな反応も話題になってるみたいやね。でもね、そら、なるよ。なんでって、さっき言ったように、何でもアリなんやから。そら、ビックリするようなこと、悲鳴が上がるようなことをするよ。それも今のR-1やったら、勝つために普通に考えることやもん。そこの刺激って、勝つための武器になるんやから。
ここにきてお客さんの声がとりわけ注目されてるみたいやけど、オレ、過去のも繰り返し見たけど、お盆をひっくり返した時も、ウケてるけど、中には「エーッ!」というお客さんもいたもんな。そら、ビックリするよ。あんなんがいきなり出てきたら。目も行くし、驚きもする。そうなると、一定数のお客さんは悲鳴もあげるやろうし、妙な声も出てしまうわ。
お客さんに「笑い方をこうしなさい」「ネタの見方をこうしなさい」ということはできないからね。それをどう見るのも、お客さんやから。
「R-1」の意味
そして、一つだけ間違いがないこと。それは、やっている人間は必死ということですよ。そら、あれで優勝したら、有名にもなれる。人生も変わる。そして、あの場に出てきているということは何千人の中から10人ほどに残っているんやから、それはすごいことですよ。ホンマのホンマに!
あとは、ネタ時間やろうね。3分、4分で競うという。笑いってね、普通は出て行ってすぐには笑わんもん。まずは「僕、学生時代、頭よかったんですよ」とか何かしらフリがあってからのオチ、回収やから。まずフリが要るわね。
そうなると、ここでもうネタ時間の何割かは使ってしまうわけよ。当然、面白いことを言っていく時間は減るわね。だから、それを解消しよう、ネタ時間全部を笑いの時間にしようと思ったら、それは出オチ、見た目よ。そうしたら、出てきた1秒目から笑いが起こるからね。
ネタ時間、何でもアリ、1人…。そういったことを考えていくと、そら、悲鳴があがるようなファイトスタイルの人がたくさん出てくるよな。
その中での勝ち負け。これはね、実に難しい。それぞれにスタイルもあるし、ネタ順とか運も含め、いろいろと絡み合った結果やから。そういったことを全部考えても、優勝するヤツはすごい。それはホンマに思う。
ただ、オレは「R-1」に出ること自体に意味があると思っている。難しいことに挑戦して、そこで優勝しようがしまいが、それよりも、そこから先、芸を磨くこと。「R-1」はその大きなきっかけ。
ま、一つ言わせてもらうと、もし、ネタ時間1時間の漫談大会があったら、オレがぶっちぎりで優勝しますよ。そら、オレの場合は「佐賀のがばいばあちゃん」の講演会を、これまで約30年で5000本近くやってきたわけやから。笑いが途切れない1時間ちょっとのしゃべり。これをずーっとやってんねんから。そのルールやったら、絶対に勝ちますよ。
ただ、まず1時間ノンストップでしゃべりまくるヤツ、なかなかおらんわな。競技人口が極端に少ないし、そんな大会、おそらくエントリーするのオレだけやから、そら、優勝するわ(笑)。
(撮影・中西正男)
■島田洋七(しまだ・ようしち)
1950年2月10日生まれ。広島県出身。本名・徳永昭広。オスカープロモーション所属。75年、3人目の相方となった島田洋八と漫才コンビ「B&B」を結成。“もみじまんじゅう!”などのギャグも大ブレークし、80年代の漫才ブームの火付け役となる。フジテレビ「笑ってる場合ですよ!」などで司会を務め、最高で週に19本のレギュラーを持つなど、お笑い界の頂点を極める。祖母との思い出を語った著書「佐賀のがばいばあちゃん」は関連書籍含め1000万部超の大ベストセラーになる。同著をテーマにした講演会も精力的に行い、これまで約30年で5000回近く開催してきた。現在、司会を務めるTOKYO MX「バラいろダンディ」などに出演中。