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小栗旬がもたらした兄・了と小出恵介の運命の出会い 立ち戻れなくなった若者たちの悲劇

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「群盗」会見 左から小栗了、小出恵介、池田朱那 、新里宏太 撮影「群盗」公式

18世紀中頃のドイツ。伯爵家の長男に生まれたカールは家督を狙う弟の謀略で家を追放され盗賊の隊長になる。自由を求め社会への反抗としての盗賊稼業であったがそれだけでは済まずもはや引き返せない。父や許嫁、兄へのあこがれが憎しみに反転した弟フランツ、絡み合う人間関係の嵐の中で翻弄されるカールの運命や如何に……。

18世紀に活躍したドイツの劇作家フリードリヒ・フォン・シラーが18歳のときに着手し22歳で発表した鮮烈なデビュー戯曲「群盗」にこれまでオペラやイベントの演出を手掛けてきた小栗了が挑む。主演(カール役)は小出恵介。ニューヨークに2年間、留学して今年2021年に日本で芸能活動を再開したばかりの小出は映画やドラマ出演をじょじょに再開しているところで、舞台は6年ぶりの出演となる。留学中、Instagramのダイレクトメッセージに小栗がダメ元で出した出演オファーを受けて快諾した。

小栗了と小出恵介は小栗の弟・小栗旬がはじめて監督し小出が主演した映画「シュアリー・サムデイ」(2010年)を通して顔見知りではあった。仕事でしっかり組むのは「群盗」がはじめてになる。

小栗は自身にとって初のストレートプレイの演出となる。この公演、もともとは埼玉のMIZUHODAI WAREHOUSEという新劇場のこけら落とし作となる予定で準備していたが、コロナ禍で劇場の建設が中断、それでも小栗は諦めたくなくて、いつか劇場建設の再開を祈る意味もこめて同じ埼玉県の劇場で上演することにした。

小栗に声をかけられた小出は2017年以降、日本での芸能活動を休止していた。留学先では日本での彼の活躍を知らない人たちばかりの環境で演技の勉強をし、会見で共演者の池田朱那からの質問に「(留学は)演技ってなんだろうってことを考える機会になった」と言うような経験をしてきた。6年ぶりの舞台、会見という場に出るのも久しぶりで、会見の第一声ではどういう顔をしていいか迷うようにやや照れたような顔をしながら挨拶していたが「今日は製作発表にお集まりいただきありがとうございます。僕としましては6年ぶりに舞台をやらせていただくことになりました。いろいろな経験がありましたけれども再びこうやって皆様の前に立てることをひじょうに嬉しく感慨深く思っております。真摯な気持ちで臨みたいなと思います」と背筋をまっすぐ伸ばして語っていた。

小栗は「群盗」のことを「人間はある意味一歩踏み出した時にその一歩から立ち戻れなくなることがあるんだよということが語られているストーリーだと思っています。18世紀に作られた作品ですが人間の本質は変わらなく僕らは生きてる限り同じことを繰り返していく生き物なんだということを舞台で出せたらと思っています」と解説する。

「どんなに強い人間でも弱さを見せることもあるし、弱さがまた強さになることもあるし、約2時間の上演時間、登場人物たちは心が動きっぱなしになると思います。その動きを観てほしい。大掛かりな演出は考えていません。人間もようをきちんと描きたいです。見に来た方には登場人物の誰かに共感してほしい。例えば、先程フランツは悪者と言っていましたが、悪者は悪者なりの生きてきた道筋がある。環境や事情で人は変わっていくというところもきちっと見せられたらと思っています。脇を支えてくれる俳優さんたちも僕が売れない役者をやっていた頃から支えてくれた実力のある方々が参加してくれているので、どの役も背景がきちんと見えるものになると思います」

理想を求めて転落の一途をたどることになる主人公カールを演じる小出は、岩松了、野田秀樹、故・蜷川幸雄など一流の演出家の舞台に重要な役で出てその才気を閃かせていた俳優である。シェイクスピアの古典やひじょうに難解な橋本治の戯曲などでも主演している小出がシラーの戯曲をどんなふうに演じるか興味深い。彼は今の思いをこのように答えてくれた。

「台本を読んで、古典の悲劇ですがひじょうにシンプルな構造と人間関係の中に普遍的な部分があるなと思いました。人が生きていくうえで多かれ少なかれ感じるであろう“運命”というものにどう向き合うかという命題のようなものが感じられたので、自分としては小細工なくと言いますか、なるべく頭も心も軽くして臨んでいきたいと思います」

“運命”という言葉が出てきたが、小出と小栗の出会いも運命的といっていいのではないだろうか。小栗旬が映画を撮らなかったらこの出会いはなかったかもしれない。ちなみに「シュアリー・サムデイ」がどんな映画だったかというと……。小出演じる主人公と友人たちが軽い気持ちでやったことがとんでもない事態に発展しその後の彼らの人生に大きな影を落とすことになる。時を経て、過去、自分たちが行ったことに全力で向き合う苦さも伴った青春物語になっている(脚本は武藤将吾)。この映画に出た、綾野剛、鈴木亮平、ムロツヨシ、吉田鋼太郎などはその後ブレイクしていくという出世映画であった。若者が純粋ゆえに道を間違えてしまうという点では「群盗」とも共通点があるように感じる。

会見にはカールの許嫁のアマーリア役をオーディションで役を射止めた池田朱那、カールを執拗に陥れようとする弟フランツを演じる新里宏太も参加。漲るやる気を見せていた。ここからまた何かがはじまるーー。

「群盗」宣伝ビジュアル
「群盗」宣伝ビジュアル

群盗

作: フリードリヒ・フォン・シラー

演出、上演台本:小栗了

2022年2月18日〜27日

埼玉・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ メインホール

出演 小出 恵介

池田 朱那 / 新里 宏太 / 山口 翔悟 / 鍛治 直人 / 塚本 幸男 / 妹尾 正文 /

伊藤 武雄 / 久道 成光 / 上杉 潤 / 西村 大樹 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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