日本女子長距離復権へ、若い力に勢い。廣中が10000m7位、一山がマラソン8位
マラソンも10000mも久々の入賞
女子中長距離の日本勢は、ここまで1500mの田中希実(豊田織機TC)が8位入賞したほか、1500m、5000mに出場した全員が自己記録と、東京オリンピックの舞台で力を発揮してきた。
陸上競技9日目の8月7日は、早朝6時に女子マラソンがスタート。イブニングセッションでは女子10000mが行われた。
この2種目でも、全員が会心の走りとはいかなかったものの、マラソンで一山麻緒(ワコール)が8位入賞、10000mで廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が7位入賞と健闘を見せた。
女子マラソンは04年アテネ大会で3選手がそろって入賞したのを最後に、メダルはおろか、入賞からも遠ざかっており、今回の一山は4大会ぶり(17年ぶり)の入賞だった。
10000mも、アトランタ大会では千葉真子が5位、川上優子が7位とW入賞を果たしているが、それ以降は世界の高い壁に阻まれ続けてきた。廣中の8位入賞は、6大会ぶり(25年ぶり)の快挙だ。
一山は24歳。今回旋風を巻き起こした田中は21歳。20歳の廣中の世代からは、5000m、10000m2種目で健闘した廣中、5000mの萩谷楓(エディオン)、3000m障害の山中柚乃(愛媛銀行)と3選手が五輪に出場した。二十代前半の若い選手の活躍は、勢いを感じさせるものだった。
ロード、トラックともに入賞を果たし、日本の女子中長距離界の止まっていた時計の針が、再び動き始めた大会になったのではないだろうか。
日本女子マラソン復権へ、ヒントは非アフリカ系のレース運びにあり
しかし、かつて女子マラソンは、日本にとって“お家芸”とも言われた種目だ。やはり低迷期を脱したとは言い難い。
有森裕子が1992年バルセロナ大会で銀、96年アトランタ大会で銅と2大会連続でメダルを獲得。さらに、2000年シドニー大会の高橋尚子、04年アテネ大会の野口みずきが2大会連続で金メダルを獲得するなど、世界でトップ争いを繰り広げてきただけに、久々の入賞とはいえ、改めて世界との差を実感させられたのも事実だろう。
今回は、ペレス・ジェプチルチルが金、ブリジット・コスゲイが銀とケニア勢がワンツーフィニッシュを果たした。また、7位のユニス・チュンバ(バーレーン)、ロナチェムタイ・サルピーター(イスラエル ※38kmで止まったが、途中棄権はせず66位でフィニッシュした)、サリー・キピエゴ(アメリカ)らケニア出身の選手も先頭集団でレースを進めていた。
エチオピア勢は不振だったが、それでも、ロザ・デレジェが4位と強さを見せた。また、エチオピア出身のメラト・イサク・ケジェタ(ドイツ)も6位に入っている。
今回もまた、東アフリカ出身の選手たちが強さを見せつけた。
だが、3位にモリー・サイデル(アメリカ)、5位にヴォルハ・マズロナク(ベラルーシ)と、非アフリカ系の選手も上位に入り、メダルも獲得している。
サイデルは、昨年のロンドン・マラソン6位の実績はあるが、これまで国際舞台での大きな実績はない。
また、自己記録は2時間25分13秒で、当たり前のように2時間20分を切るアフリカ系の選手とは大きな差がある。日本の一山、前田穂南(天満屋)のほうが持ちタイムは良かった。トラック種目のタイムも、10000mが32分02秒19、5000m 15分52秒41で、日本の3選手のほうが圧倒的に良いタイムを持っている。
それでも、最終盤までケニアの2選手に食らいつき、銅メダルを獲得した。おそらくコンディショニングがうまくいったことと暑さの耐性があったのが要因だと思うが、持ちタイムにとらわれない積極的なレース運びは光った。
サイデルとは対照的なレースを見せたのが、ベラルーシのマズロナクだ。
20kmを前に先頭集団から遅れ、一時は15位ぐらいまで落ちたが、その後もしぶといレースを展開。再び先頭集団に戻ったかと思えば、また遅れをとり、入賞圏外に弾き出されても、少しずつ順位を上げ、最後は5位でフィニッシュした。
一山も、先頭集団から遅れた後も踏みとどまったほうだが、マズロナクはペースアップはできずとも、減速を最小限に食い止め、終盤のジャンプアップに成功した。
【30km以降の5ごとのラップの比較】
〈一山〉
30〜3517分21秒
35〜4018分36秒
〈マズロナク〉
30〜3517分24秒
35〜4017分38秒
また、マズロナクは、2016年リオ五輪、19年ドーハ世界選手権でも、共に5位という結果を残しており、やはり大舞台や過酷な条件下のレースでも力を発揮できる強さを備えた選手でもあった。
日本女子マラソン界の復権に向けて、サイデルやマズロナクのレースを検証することにもヒントがありそうだ。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】