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韓国映画「声/姿なき犯罪者」出演の名脇役キム・ヒウォン、オダギリジョーにラブコール

成川彩韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者
「声/姿なき犯罪者」で刑事役を務めるキム・ヒウォン(右から3人目)

 日本で公開中の韓国映画「声/姿なき犯罪者」(キム・ソン&キム・ゴク監督)に出演する名脇役キム・ヒウォンは、最近ではバラエティー番組のレギュラー出演でも人気を集めている。トレーラーハウスに乗ってゲストの俳優たちと共に旅する番組「車輪のついた家」で、日本の俳優オダギリジョーにも出演のラブコールを送った。「声/姿なき犯罪者」ほか、数々の映画やドラマで個性を発揮してきたキム・ヒウォンにインタビューした。

キム・ヒウォン
キム・ヒウォン

――「声/姿なき犯罪者」は振り込め詐欺に関する映画でしたが、犯罪手法のディテールがとてもリアルで驚きました。最初にシナリオを読んだ感想はいかがでしたか?

監督たちが実際多くの刑事に会い、振り込め詐欺の手法について詳しく調べたようです。本当に緻密で、これで騙されないのは難しいなと思いました。

――私も韓国で振り込め詐欺の電話を受けたことがあり、映画に出てくるように、まずは出入国管理局から個人情報が流出したという電話があり、その後対応について警察から電話という連係プレーで、危うく騙されるところでした。キム・ヒウォンさんも電話を受けたことはありますか?

何度もあります。最初は真に受けて聞いていましたが、だんだん少し聞いたら詐欺だと分かるようになりました。金銭的被害はないですが、詐欺電話に時間を奪われること自体わずらわしいですよね。

「声/姿なき犯罪者」に登場する振り込め詐欺の犯罪組織
「声/姿なき犯罪者」に登場する振り込め詐欺の犯罪組織

――キム・ヒウォンさんは今回、振り込め詐欺の捜査にあたる刑事役でしたが、役作りのためにどんな準備をされましたか?

知り合いの刑事にインタビューし、経験を重ねて習得した捜査のノウハウなどを聞きました。刑事役はこれまでも何度かやっています。

――ピョン・ヨハン演じる元刑事の主人公ソジュンが振り込め詐欺の犯罪組織に潜り込むという映画でしたが、ピョン・ヨハンさんとキム・ヒウォンさんの最初の対面シーンから緊張感が漂っていました。私は昨年の釜山国際映画祭の時にピョン・ヨハンさんのトークを聞いて、演技への情熱がすごい俳優だなと感じましたが、共演していがかでしたか?

ピョン・ヨハンさんは本当に熱心な俳優で、体当たりで演じる情熱がすごい。周りが疲れるぐらい(笑)。ドラマ「ミセン-未生-」でも共演しましたが、「ミセン」は彼のデビュー作と言ってもいいくらい、ピョン・ヨハンが世間で注目を浴びた作品でした。当時はもっと粗削りだったのが、今回共演してある程度要領を心得た俳優になったなと感じました。

「声/姿なき犯罪者」主演のピョン・ヨハン(中央)
「声/姿なき犯罪者」主演のピョン・ヨハン(中央)

――キム・ソン&キム・ゴク監督は兄弟でしょうか? 監督が2人というのも珍しいですが、どんな演出スタイルでしたか?

2人は双子です。いくら双子でも意見は違うだろうと思ったら、2人の意見は本当にぴったり。1人で演出しているような感じなのに、1人はモニタリングをして、1人は現場にいる。不思議な経験でした。

――分身がいるような感じですね。キム・ヒウォンさんは長く演劇俳優として活躍されて、映画やドラマにも出るようになりましたが、転機となった作品などあれば教えてください。

作品で言えば映画「アジョシ」(2010)ですが、演劇を始めたこと自体が私の人生の大きな転換点でした。1988年だったと思いますが、学力考査(注:大学入学のための試験。当時は学力考査と呼ばれた)の試験の最中に会場を出ました。最後まで受けたところで大学には入れないと思って。就職しようと求人広告を見ていたら、俳優募集が目に留まり、就職先として演劇を始めました。それまで演劇を見たこともなかったのに。3年くらい俳優をやって初めて観客として演劇を見たらおもしろくなくてびっくりしました。

――演劇俳優になるのにオーディションはなかったんですか?

ありました。何の準備もできていなかったので高校の体操服を着て行ったら、審査員が噴き出していました。おかしなやつだと思って入れてくれたみたいです。

――観客として見たらおもしろくなかったということですが、長く続けてこられたのは、やっぱり演じることがおもしろかったのでは?

汗を流して稽古をしている姿がかっこいいと思いました。それまで汗を流して何かに一生懸命取り組むということがなかったので。

キム・ヒウォン
キム・ヒウォン

――「アジョシ」が転機だったというのは?

無名俳優の時期が長かったので、お金もなくて不安定だったんですが、「アジョシ」のヒットで俳優として知られるようになったという意味で転機になりました。「アジョシ」のイ・ジョンボム監督が「亀、走る」(2009)というコメディー映画で私の演技を見て、間抜けな男が悪役をやったらどうかとキャスティングしたそうです。

――映画「国際捜査!」(2021)で見せたような悪役も多く演じてこられましたが、悪役をよく演じる俳優は実は穏やかな人が多いとも聞きます。

悪役のキャラクターのように実際に生きたら、社会から葬られますよね。私自身と違う役でも、喜怒哀楽は共通の部分がある。そういう共通部分を生かしながら、役によって表現の仕方を変えるという感じです。

キム・ヒウォン
キム・ヒウォン

――俳優のソン・ドンイルさんとレギュラーで出演しているバラエティー番組「車輪のついた家」が人気です。特に印象に残ったのは?

IUさんがゲスト出演した回で、パラグライダーを体験したのが一番思い出に残っています。空を飛びながら、感動して泣いてしまいました。本当の自由を得たような、そんな気分でした。ゲストは私かソン・ドンイルさんが共演した俳優が多いのですが、共に旅する過程でそれぞれの哲学のようなものが伝わってきて、学ぶ点が多いです。映画「マイウェイ 12,000キロの真実」(2011)や「ミスターGO!」(2013)で共演したオダギリジョーさんにも出てほしい。一緒に旅しましょう!

――記事に書いたら伝わりますかね(笑) 最後に、「声/姿なき犯罪者」の日本の観客に一言お願いします。

皆さんが日常的に使っている携帯電話が、ある日突然ものすごく大きな経済的打撃を与える可能性がある。映画の中でも、「知らない番号の電話に出ないで」「振り込め詐欺の被害に遭っても自分を責めないで」というセリフがありますが、私自身、そういう思いを込めて演じました。監督たちが多くの刑事にインタビューした中で、自分を責める被害者が多いと知ったそうです。悪いのは騙す方で、騙された方ではない。腹を立てながら見るとより楽しめると思います。

「声/姿なき犯罪者」ポスター
「声/姿なき犯罪者」ポスター

「声/姿なき犯罪者」は新宿武蔵野館他にて絶賛公開中

主演:ピョン・ヨハン 「茲山魚譜 チャサンオボ」「太陽は動かない」

出演:キム・ムヨル 「悪人伝」、キム・ヒウォン 「鬼手」、パク・ミョンフン 「ただ悪より救いたまえ」、イ・ジュヨン 「サムジンカンパニー1995」

監督:キム・ソン&キム・ゴク 「ホワイト:呪いのメロディー」

2021韓国韓国語109分シネスコ5.1chカラー原題:보이스(ボイス)

提供:ツイン、Hulu 配給:ツイン

公式サイト:https://koe-voice.jp/

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韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者

1982年生まれ、大阪&高知出身。大学時代に2年間韓国へ留学し、韓国映画に魅了される。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。退社後、ソウルの東国大学へ留学。韓国映画を学びながら、フリー記者として中央日報(韓国)や朝日新聞GLOBE+をはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄界灘に立つ虹」レギュラー出演中。2020年に韓国でエッセイ集「どこにいても、私は私らしく」を出版し、日本語訳版をnoteで連載中。

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