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<ガンバ大阪・定期便39>3年ぶりにゴール裏から届いたサポーターの声。スピリットで奪った決勝ゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
平日開催にもかかわらずゴール裏にはたくさんのサポーターが駆けつけた(筆者撮影)

 3年ぶりにゴール裏から届けられたガンバサポーターの歌声は、強く、重く空気を揺らした。

『青黒大阪 青黒大阪 魅せろゴール、貫けよ OSAKA スタイル』

 続いて、ウォーミングアップのためにピッチに出てきた東口順昭のチャントが響き渡り、東口も両手を挙げてそれに、応える。

「久々に聞いて素直にすごく嬉しかった。やっぱり、これやなって、改めて感じました(東口)」

 ゴールキーパー陣に続き、フィールドの選手が登場すると、再び声が轟いた。

『アレ! 魅せてやれ 青黒の誇り 勝利目指し 俺たちと闘おう』

『胸に光る星を見よ 俺らの誇りと証し 青と黒よ輝け 雨上がりの大空に立ち上がる虹のように』

もちろん、試合の直前にも。

『俺らに出来ること 皆わかってるんやろ! 誰のため 大阪のため さぁ歌おう! 今 ここに集いし青と黒の戦士たち 我らの誇りと共に輝き 荒れ狂い暴れまわる 戦士たちよ 俺らの声が聞こえるだろう 俺らはいつものように 今日もここにいるぜ』

 未消化になっていたJ1リーグ24節・アビスパ福岡戦。長く続いたスコアレスの状況を打ち破ったのは後半のアディショナルタイムも終わりを迎えようとしていた94分のことだった。

 山本悠樹が自陣でボールを奪ったところからパトリック、石毛秀樹を絡めて相手を剥がし、一気に前線へ。パトリックを経由して左に展開されたボールを、猛烈な勢いで左サイドを駆け上がったウェリントン・シウバが足元で受ける。

「あのシーンの前にも、何回か左サイドの方から攻撃に関わる場面があり、その時は(自分が)右に切り返してチャンスを作ろうとしたんです。それが2回ほど続いたことで相手選手も僕の動きを警戒していたことから、あのシーンでは素直に前に運び、敢えて顔を上げずに仲間を信じてボールを送り込みました(ウェリントン)」

 相手DFを前に、細かいタッチでエリア内に侵入したウェリントンから送り込まれたグラウンダーのボールに合わせたのはパトリックだ。3試合連続のフル出場で、間違いなく疲れはあったはずだが、最後の力を振り絞るようにペナルティエリア内に走り込むと、ダイレクトで、利き足ではない『左足』を振り抜き、ゴールネットを揺らした。遡れば、73分にも、奥野耕平、鈴木武蔵と縦に繋いだボールに合わせて前線に抜け出し決定機を迎えていたパトリック。その際は相手DFに対応されてシュートを打ちきれなかったが、2度目のチャンスは逃さなかった。

「ゲームが終わるまでにもう1チャンス来るんじゃないかと信じてプレーしていました。ピッチに立っている間は自分の体がダメになっても足は止めないという覚悟もありました。その1チャンスが結果につながってよかったです。ゴールシーンは、僕自身も下がってボールを受けるというようなサポートをしていた中で、悠樹(山本)とのパス交換や、ウェリントンとの連携という流れの中で奪ったゴールでした。自分たちがボールを奪ったのは自陣、しかもペナルティエリア付近でしたが、あの時間帯に、あの場所から相手ゴールに迫ることができたと考えてもチームメイトのみんながスピリットを見せたシーンでしたし、そのスピリットが乗り移って生まれたゴールだったと思っています(パトリック)」

 もっとも、このゴールを語る上で欠かせないのは、そこまでの時間帯を無失点で凌ぎ切った『守備』にある。前半から福岡に押し込まれる苦しい時間帯も長く続いたが前節同様に、個々が局面でしっかりと体を張り、ボールを奪い返すことへの執着を示す。三浦弦太、クォン・ギョンウォンの鬼気迫る守備もさることながら、福岡の攻撃のキーマン、左サイドMFにポジションを取ったルキアンへの高尾瑠の対応も目を惹いた。

「とにかく粘り強く対応し、仕事をさせないように、ということだけ考えていました(高尾)」

 そして、最後の砦になったのはやはり、東口順昭だ。28分には、左サイドを攻略され、福岡のルキアン、前寛之に立て続けにゴールを攻め立てられたがキレのあるセービングで弾き出した。

「飲水タイムに、マツさん(松田浩監督)から相手の放り込まれるボールに対して、2センターバックの距離が少し開いてしまっているからそこをもう少し縮めようというような指示があり、修正していました。結果的にあのシーンは、その直後でしたが、2センターバックの立ち位置も近かった分、どういうボールが出てくるのかを予想しやすかった。GKである僕にとってその距離感は自分のプレーにも関わるすごく重要なところ。その後もそこまで危ないシーンを作られなかったのは、そうした味方のポジショニングに助けられたところもたくさんあった。実際、今日はみんなが終始、外に追い出すような守備をしてくれていたので、本当に危ないと感じたシーンはあれくらいでした(東口)」

 また、前節同様、中央をしっかりと閉めた守備で相手の攻撃を限定するなど献身的な攻守が光った齊藤未月はもちろん、2試合ぶりに先発に復帰した奥野耕平のダブルボランチも2試合連続『完封』を実現する上で欠かせない存在感を示した。

「守備のところでは間をしっかり閉めながら、(ボールを)取れるチャンスはしっかり取り切ることを心掛けていたし、攻撃ではビルドアップの組み立て役を担っていた中で、どちらかというと自分が目立つというより例えば、後ろのセンターバックの弦太くん(三浦)が出しやすいような角度とか、前のFWの武蔵くん(鈴木)が受けやすいような角度というのを意識した繋ぎ役を徹底しようと思っていました。今年に入って試合が終わると、その日のうちに必ず90分を通して試合を見返して、何が良くて、何が良くなかったのか、局面の判断などの見直しを必ずしているし、迷った判断については必ず周りに確認して、また自分で考えて、ということを繰り返している中で、チームの中での自分のスタイルが明確になってきたし、それが試合で出せるシーンも増えてきた。ただ、監督が交代してまだ日も浅い中で、今日もそうですがチームとして『この状況ではどうするのか』という部分での迷いもまだまだあるので、そこについてはマツさんを含めてしっかりコミュニケーションを取りながらチーム全体で擦り合わせていきたいと思っています(奥野)」

 そして、ガンバサポーターだ。

「コロナ禍前の応援スタイルを取り戻せるように、みんなでもう一回頑張っていきましょう」

 試合前、コールリーダーの呼びかけに応じて突き上げられた彼らの拳には、察するに、コロナ禍による延期、平日開催となったことで現地に足を運ぶことができなかったサポーターの思いも乗せていたのだろう。アウェイゴール裏から注がれたホームの福岡サポーターをも上回る熱は、選手たちを最後まで走らせる力になった。

「試合が延期になったことで、現地に足を運ぶ予定だったサポーターの皆さんもいろんなことをキャンセルすることになり、残念な思いもしていたはず。そんな中、今日、スタジアムに足を運んでくれたサポーターの皆さんは、きっとその人たちの分もという思いも込めて応援をしてくれていたと思いますし、ホーム側のサポーターを上回る声を出して、ガンバのホームゲームのような雰囲気を作ってくれたのも本当に嬉しかった。励みになりました(東口)」

「トップチームの試合に出て、声のある応援をしてもらったのは初めてでしたが、(これまでとは)全然、雰囲気も違ったし、アカデミー時代からずっと聞いてきた、慣れ親しんだ応援をピッチで聞いてまず最初に鳥肌が立ちました。やっぱり声援っていいなって思いました。ホームの福岡サポーターを上回る後押しもすごく力になったし、アウェイの雰囲気をホームの雰囲気に変えてくれて、すごくありがたかったし、心強かったです(奥野)」

「ガンバに加入して、初めて、彼らの声を聞くことができました。アウェイの地まで足を運び、声援を送り続けてくれたことが僕たちのパワーになり、勝利につながった。すごく感謝しています(ウェリントン)

「サポーターの応援にはすごく感動しました。僕たちが最後まで走り切ることができたのはアウェイまで足を運んでくれて、試合が終わるまで、そして終わってからも僕たちに声援を送り続けてくれた彼らがいたから。今日は、彼らにとっても久しぶりの特別な戦いだったはずだし、そんな彼らの力を受け取って僕たちもピッチで表現できた。今日1日は、サポーターの皆さんも安心して、幸せな気持ちで眠りについてもらえたらなと思います(パトリック)」

 アウェイ3連戦の3試合目。うだるような暑さ。そして、守備の対応に追われた苦しい試合展開。それでも、サポーターの声に後押しを受け、最後まで全員が頭と体を連動させて走り切り、最後は勝利への執念とプライドをたぎらせて奪い取った決勝ゴール。そこに確かに見た『スピリット』は、この先も間違いなく『残留』を引き寄せるカギになる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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