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今季の汚点が理由?!華麗な実績を積み上げてきたブルワーズの敏腕編成担当責任者が突然の辞任表明

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
契約を1年残し現職の辞任を表明したスターンズ野球オペレーション担当社長(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ブルワーズの編成責任者が退任を表明】

 2015年からブルワーズの編成部門を担当してきたデビッド・スターンズ野球オペレーション担当社長が現地時間の10月27日、記者会見を開き現職を辞することを明らかにした。

 今後はマット・アーノルドGMが編成責任者を担うことになる。スターンズ社長は契約を1年残しており、このままチームに残りオーナー・グループと野球オペレーション部門の相談役を務めるという。

 ハーバード大出身のスターンズ社長は、2015年9月に史上最年少の30歳でGMに就任すると、チーム改革に着手。2017年シーズンに5年ぶりのシーズン勝ち越しに成功すると、昨年まで4年連続でチームをポストシーズンに導いていた。

 そうした功績もあり、2019年に合意した契約延長に伴い、GMを兼務しながら野球オペレーション担当社長に内部昇格(2020年から社長に専任)。MLB界でも有能な若手エグゼクティブとして認知されている存在だ。

【シーズン総括会見でトレード失敗を悔恨】

 そんな順風満帆の実績を積み上げてきたスターンズ社長だったが、今シーズンに関しては彼の評価を落としかねない事態を招いてしまった。

 シーズン序盤から地区首位を走り続け、5年連続のポストシーズン進出が有力視されながら、シーズン終盤で失速。8月6日にカージナルスに単独首位の座を奪われると、そのまま引き離されポストシーズン進出を逃してしまった。

 今月11日に行われたシーズン総括会見で、スターンズ社長は以下のように自らのミスを認めるような発言をしている。

 「我々はプレーオフを狙える位置でトレード期限日を迎え、プレーオフ進出を逃している。そうした事態が起こってしまった場合、きちんと振り返り、『もっと何かできなかったのか?もっと違ったことができなかったのか?』と考えなければならない。

 ヘイダーのトレードは明らかにチームにインパクトをもたらした。それは自分が考えていた以上のものだった。色々対応策を講じたものの、ジョシュの穴を埋めチームを強化することができなかった」

 スターンズ社長が説明しているのは、7月31日にチームの絶対的なクローザーだったジョシュ・ヘイダー投手をパドレスにトレードしたことだ。結局このトレード以降、チームはリリーフ陣をまとめることができなかった。

【獲得した4投手のうち2投手が登板できず】

 結果的にスターンズ社長の決断は失敗に終わったものの、ヘイダー投手のトレードは決して愚策だったと言い切れない部分がある。

 昨シーズンからクローザーとして常に打者を圧倒する投球を披露し続けたヘイダー投手だったが、7月に入ると乱調を繰り返すようになっていた。それを物語るように、7月の月間成績は11試合に登板し、1勝3敗5セーブ、防御率12.54に終わっているのだ。

 スターンズ社長としては、ポストシーズン進出を確実なものにするためにも中継ぎ陣の整備は急務だったわけだ。

 そこでスターンズ社長はヘイダー投手を放出する代わりに、パドレスとのトレードでテイラー・ロジャース投手とディネロン・ラメット投手を獲得。さらに翌8月1日にレンジャーズからマット・ブッシュ投手、さらにジャイアンツからトレバー・ローゼンタール投手を獲得し、クローザー役を分業させる構想を描いていた。

 ところがラメット投手は獲得2日後に40人枠から外す措置をしたところ、ウェーバー公示中にロッキーズに引き抜かれることに。さらにジャイアンツがシーズン途中で破格の年俸450万ドルでメジャー契約を結んだローゼンタール投手に至っては、トレードした時点で太もも裏を痛めた状態で、リハビリ登板中に今度は肩を痛めてしまい、結局一度も26人枠に登録されることなくシーズンを終えている。

【ヘイダー投手放出後は29勝31敗と負け越し】

 ブッシュ投手とロジャース投手に関してはチーム合流後中継ぎ陣に加わったものの、ブッシュ投手は25試合に登板し、0勝2敗2セーブ、防御率4.30で、ロジャース投手も24試合に登板し、3勝3敗3セーブ、防御率5.48と、クローザーの役目を果たすことはできなかった。

 一方パドレスに移籍したヘイダー投手は8月に入ってさらに苦しみ、8試合に登板し1勝1敗1セーブ、防御率19.06という状況だったが、9月以降は11試合に登板し、0勝0敗6セーブ、防御率0.87と完全復調。ポストシーズンに入っても圧倒的な投球を披露し、チームがナ・リーグ優勝決定シリーズに進出することに貢献している。

 まさに社長が悔恨するように、すべてが裏目にでてしまったというわけだ。

【今回の辞任はメッツ移籍への布石か?】

 今回の辞任表明が、そうしたスターンズ社長の失態に起因しているかは定かではない。だが彼の周辺は、早くも騒がしくなっているようだ。

 記者会見でスターンズ社長は「自分はどこにもいかない。このままここに残り、家族と過ごしたい」と断言している。だがかつてレッズやナショナルズでGMを務め、現在はTV局等でコメンテイターとして活躍しているジム・ボーデン氏は、近々スターンズ社長がメッツ入りするだろうと予想している。

 メッツのスティーブ・コーヘン・オーナーは、以前からニューヨーク出身のスターンズ社長の引き抜きに積極的だったこともあり、ボーデン氏は今回の辞任がメッツ移籍の布石だと考えているようだ。

 まだ37歳のスターンズ社長が、このままブルワーズの相談役で終わるはずはないだろう。果たしてどんな道を選択していくことになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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