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3.11 東日本震災追悼式が中止される9年めの今年に:セレモニーの意味とは。今も苦しむ人のために。

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:東日本大震災からまもなく9年 福島県・双葉町(写真:ロイター/アフロ)

<3.11。この日が近づくと、防災の思いが強くなる。3.11。この日が近づくと、心が苦しくなる人もいる。私たちは、何ができるのか。>

■3.11

3.11。今年もまた、様々な番組、報道がされています。NHKスペシャル(3.8)は「40人の死は問いかける~大槌町“役場被災”の真実~」です。

町長をはじめ、職員ら40人が津波に流されました。庁舎の屋上にたどり着いた職員は、流されていく仲間の姿を見ました。

「飛び込んで、助けようとも思ったが、できなかった」と語る人もいます。もし本当に飛び込んでいたら、一緒に亡くなっていたのでしょうが。

いち早く高台に避難できた職員も、自分の行動が正しかったのかと自問自答を繰り返します。

「もっと真剣に防災に取り組んでいたら、多くの人の命を救えたかもしれない」と語る人もいます。「自分たちは未熟者だった」と。

この方々は、インタビューを受け、テレビの前で顔と名前を出して、語っています。

でも、誰にも語れない思いを持ち続けている方も、いらっしゃでしょう。

■公務員の覚悟、リーダーの責任、一人ひとりの思い

「お役所仕事」は、悪い意味で使われることが多い言葉です。公務員は気楽だと考える人もいるでしょう。

私は、当地新潟で、災害対策の会議に出席することがあります。

県や市町村職員は、もちろん様々です。でも、心ある多くの人は本当に真剣です。災害担当の自分の判断ミスによって、町の人が犠牲になるようなことは決してあってはならないと。

東日本大震災と福島原発事故の後に、福島県庁の職員の方にお会いしました。その方は、圏外に避難した人も地元に残った人も、どちらも勇気ある人で、どちらも支援したいと言っていました。

そして、原発事故直後、まだこの先どうなるか全くわからない時、思ったそうです。もしもみんなが避難しなければならなくなっても、自分が避難するのは一番最後だと。

役場職員、学校の教員、病院や福祉施設職員、民間企業の管理職、家庭のお父さん、お母さん。大きな災害があったとき、自分の決定と行動が、人々の命を左右する立場です。

十分な準備、計画、シミュレーション。でも、災害はその時々に違います。何が起きるのか、その詳細が事前にわかる人などいません。

NHKスペシャルによれば、亡くなった大槌町の町長は、人々の意見をよく聞きまとめることが上手な穏やかな人だったと言います。ただ、震災の時には、それが裏目に出て、迅速な指示が遅れたのではないかとの指摘もあるといいます。

責任者やリーダーでなくても、非常時には決断を迫られます。事後になって、冷静に分析を行い、一人ひとりがきちんと事実と向き合う必要はあるでしょう。

科学的な検証が行われ、裁判が行われることもあるでしょう。

ただ心の問題としては、今も悩み続けている人には申し上げたいと思います。

「あなたは、あなたなりに、精一杯がんばりました」。あの瞬間の決断も、原発事故も含め、その後の避難等の決断も。

あとから考えれば、「ああすれば良かった」「こうしなければ良かった」と、様々なことが考えられます。けれども、あの時には、あなたは出来る限りの最善を尽くしました。

■3.11東日本震災追悼式は中止 安倍首相、関係者におわび

今年は、新型コロナウイルスのせいで、これまでの年とは異なる3.11になりました。政府主催の追悼式も中止です。各地の追悼式も、中止、規模縮小です。

追悼の思いを述べるつもりだった大人も、合唱や合奏の子供たちも、がっかりしていることでしょう。

セレモニー、式典には、意味があります。結婚式も、葬儀も、卒業式も。

そんなものは単なる儀式で、どうでも良いという人もいるでしょう。必要なのは法的手続きや、実際の対応だという意見もあるでしょう。しかし、歴史の中で続いてきたセレモニーには、心理的な意味があるのです。

大震災でご家族を亡くされた方々の中には、あの大混乱の中で満足な葬儀ができなかったことを、悔やみ続けている方もいらっしゃいます。震災時の合同葬儀に際しては、僧侶、牧師、神父の方々が、ボランティアで協力して下さったこともありました。

また式典や震災遺構やモニュメントは、災害の風化を防ぎ、出来事を社会の記憶として刻み、平和や防災の文化が作られる一助になります。

8.6(広島)も、8.9(長崎)も、もしも毎年報道される式典もなく、原爆ドームも平和祈念像もなかったら、私たちはどれほどそれを心に留め続けていたでしょうか。

今年も追悼式も行えると良かったのですが、中止は残念です。ですが、仕方がないことでしょう。首相は首相官邸で黙とうをささげるということです。私たちも、それぞれの場所で黙祷したいと思います。

毎年その日になると、辛い思い出がよみがえる人もいるでしょう。「記念日反応」と呼ばれる、人の心の自然な流れです。どうぞご自愛ください。ひとりぼっちには、ならないでください。

セレモニーがなくても、私たちは同じ心で追悼したしたいと思います。たとえ自宅で一人でいる人とも、心はつながりたいと、願っています。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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