北朝鮮が拉致した「韓国軍の情報将校」拷問と脅迫の10カ月間
韓国で、軍情報司令部の軍属が中国人から7年間に1億6千万ウォン(約1740万円)以上を受け取り、国外で活動する「ブラック要員」などの情報を売り渡していた事実が発覚し、大きな問題となっている。情報はすべて、北朝鮮に流れたと見られるという。
対北朝鮮の諜報活動を行う情報司令部には、外交官の身分で海外活動を行う「ホワイト要員」と、身分を完全に偽装して活動する「ブラック要員」がいる。言うまでもなく、ブラック要員の情報は極秘事項であり、中国など北朝鮮の友好国で活動している場合、身分が露呈すれば命に危険が及びかねない。
実際、過去にそうした事件が起きていた。
1998年3月13日の夜、高麗人参を扱う公社の理事に偽装して中国・丹東で活動していた情報司令部の鄭某中佐が、北朝鮮の工作員らに襲われ拉致されたのだ。
鄭中佐はそれ以前に、現地協力者らを北朝鮮の核開発団地である寧辺周辺に浸透させて土壌を採取し、北朝鮮がキログラム単位のプルトニウムを生産した証拠をつかむ功績を上げたベテランだった。
そんな彼の身分が露呈したのは、中国人の現地協力者の密告によってだった。
拉致事件の日の夜、鄭中佐の自宅マンションを襲撃したのは北朝鮮工作員ら5~6人で、拳銃を抜き、刃物を振り回して格闘したものの多勢に無勢だった。重傷を負わされ、血まみれのまま北朝鮮・平壌に連行された鄭中佐は拷問を受け、さらには韓国にいる家族の情報まで突き付けられて脅迫され、情報提供を強要された。
(参考記事:「北朝鮮の要員は性拷問ビデオを撮影し、勝利したと述べた」)
その期間は10カ月に及んだが、彼の行方をつかめなかった情報司令部は「任務遂行中に拉致され死亡」と結論付けていた。
ところが驚くべきことに、鄭中佐が傷も言えぬままの姿で、中国の地に再び現れた。北朝鮮から「二重スパイ」となることを要求され、解放されたのだ。彼は韓国に帰国後の調査で、一部の内部情報を漏えいした事実を明らかにした。軍は不可抗力と過去の功労も考慮し、処罰せず除隊させたという。
鄭中佐が体験した恐怖と孤独、心身に受けた傷の深さには想像も及ばないが、それでも生還できただけ幸運と言えるのかもしれない。
中朝国境地帯では、脱北者を支援していたキリスト教関係者が北朝鮮に拉致されたり、殺害されたりする事件も起きている。今回の情報流出で、犠牲者の出ないことを願ってやまない。