ラグビー名門、レジェンド輩出、豪雪… センバツ21世紀枠候補9校の横顔
来春センバツの21世紀枠候補9校(すべて公立)が発表された。東日本5校と、近畿以西の西日本4校に分けて審議され、それぞれ1校。地域を問わず1校の計3校が選出される。主催者からリリースされた資料をもとに、各校のプロフィールと地区推薦決定までの経緯を紹介する。
札幌国際情報=北海道
1995(平成7)年創立の公立校で、普通科のほかに英語や商業など多彩な学科がある。部員は60人と多く、近年の成績は極めて良好。一昨年夏から2年連続南北海道大会準優勝(昨年は独自大会)で、今夏は4強。直近の秋季北海道大会では、準決勝で旭川実に3-4で惜敗した。日本ハムなどで活躍した有倉雅史監督(54)は、北海~日体大OBで、2005(平成17)年からチームを率いる。学業との両立で北海道大医学部に進学した部員もいて、チームの活躍が在校生に好影響を与えている。チーム一丸での快進撃と、近年の好成績から、満場一致で推薦を得た。
只見(福島)=東北
豪雪地帯として知られる奥会津に、昭和23(1948)年創立された公立校で、現在の全校生徒はわずか87人。部員も女子マネージャーを含め18人で懸命に頑張っている。今秋は県大会で3勝して8強に進んだ。地元・只見町の「山村教育留学制度」を活用して、この20年で190人の生徒を全国から受け入れてきた。少子化、豪雪、部員不足などのハンディを乗り越えて健闘する姿に、地元は盛り上がっている。東北は、有力視された大館桂桜(秋田)が不祥事で辞退し、久慈東(岩手)との争いに。過疎に悩む地域との結びつきの強さが決め手となった。
県太田(群馬)=関東・東京
1897(明治30)年創立の伝統進学校で、全校生徒は男子のみ830人。部員は22人で、前チームから県内で健闘が目立つ。夏は準決勝で前橋育英に、秋は準々決勝で健大高崎に敗れたが、安定して上位に食い込んでいる。昨年度は野球部卒業生の多くが現役で国公立大や有名私大に現役合格した。典型的な文武両道校で、平日2時間程度の練習も、情報やデータ共有のためノートを活用するなど工夫を凝らしている。この地区は、上尾(埼玉)と2校に絞って最終検討した結果、高いレベルでの文武両道が模範的と評価され、県太田に決まった。
相可(おうか・三重)=東海
明治40(1907)年創立で、看護、農業、土木系のほか、食物調理というユニークな学科がある。食物調理科の生徒はレストランを運営し、テレビドラマのモデルにもなった。テレビや新聞でもたびたび取り上げられていて、ご覧になった方もいるだろう。野球部は夏の甲子園に3回出場し、2度の初戦突破を果たしたが、40年近く聖地から遠ざかっている。今秋は準々決勝で津田学園に敗れた。野球部員は、実習や資格取得などで、平日は揃っての練習もままならない。東海は過疎地にあって練習等のハンディを克服し、地元の活性化に頑張る相可が満場一致で選出された。
丹生(にゅう・福井)=北信越
大正14(1925)年創立で100年近い歴史を持ち、過疎、豪雪に悩む地元の人たちに長く親しまれている。今秋は県大会準決勝まで進んだが、福井工大福井、敦賀気比に連敗して北信越大会進出を逃した。2年前には、好左腕・玉村昇悟(20=広島)を擁し、夏の福井大会決勝まで進んだ。野球部は継続して力を発揮し、地元の応援熱も冷めていない。頭髪自由など個性を尊重し、学校生活や部活などとのメリハリをつける指導を行っている。北信越は松本深志(長野)との一騎打ちの結果、過疎地域に好影響をもたらしている点が評価され、丹生に決まった。
伊吹(滋賀)=近畿
昭和58(1983)年創立の比較的新しい学校で、全国的にも有名な伊吹山の麓に位置する。全校423人の小規模校であるが、部活動は盛んで、男女とも全国優勝があるホッケー部は五輪選手も輩出している。野球部は今秋、夏の甲子園4強の近江にサヨナラ負けしたが、堂々の8強入り。近年は県大会で、北大津や光泉カトリックなどの強豪も破っている。冬季は雪でグラウンドが使えないハンディもあるが、部員は小学校の通学路の除雪などで活躍し、地元に愛される。近畿地区は、近畿大会出場の塔南(京都)、加古川西(兵庫)との3校で最終比較し、豪雪などの困難克服や部活動に取り組む姿勢を高く評価した。
倉吉総合産(鳥取)=中国
倉吉産と倉吉工が統合され、平成15(2003)年に誕生した。工業、商業、家庭の3学科があり、422人の全校生徒が学ぶ。今秋の鳥取大会では準優勝し、中国大会初戦で広陵(広島)に2安打完封負けを喫した。地元の倉吉は、25年で人口が約1万人減少し、子どもたちの「野球離れ」にも悩む。このため部員たちは、地元の幼稚園児や小学生と定期的に野球交流を行っている。グラウンドの諸設備も選手たちの手作りで、自らの手で練習環境を整えている。これらの取り組みが評価され、同じく中国大会に出た宇部工(山口)と2校に絞って協議した結果、僅差で倉吉総合産に決まった。
高松一(香川)=四国
100年近い歴史を持つ高松市立の伝統校で、文科省からSSH「スーパーサイエンスハイスクール」の指定を受ける。県内屈指の進学校であると同時に、野球部にも輝かしい歴史がある。戦後すぐ、「怪童」と呼ばれた中西太氏(88)を擁して、春夏の甲子園を沸かせた。近藤昭仁氏(故人)とともに、プロ野球監督二人を輩出している。今秋は部員わずか13人で、甲子園経験がある丸亀城西を破るなど8強入り。短い練習時間や少人数のハンディを克服して健闘した。松山商(愛媛)との比較になり、21世紀枠の趣旨によりふさわしく、甲子園から50年(来年で)遠ざかっているということで、高松一が地区推薦を得た。
大分舞鶴=九州
甲子園経験はないが、ラグビー部は今冬も含め花園58回の出場を誇り、優勝経験もある。昭和26(1951)年創立で、SSHの指定を受けていて、卒業生の7割以上が国公立大に現役合格する。野球部は独自大会も含め、2年連続で夏の県大会準優勝。今秋も決勝で明豊に惜敗(9-10)するなど、全国屈指の強豪と渡り合った。九州大会では大島(鹿児島)との引き分け再試合で敗れたが、九州でも屈指の実力を持つ。食育指導で生活改善と体力強化を図り、終盤に粘り強い試合運びができる。有名進学校の福岡や小林秀峰(宮崎)などライバルは多いように思われたが、満場一致で大分舞鶴に決まった。
資料に選手や戦力的な記載を
主催者からの資料には、戦力や選手についての記載があまり見られず、近年の実績や今秋の試合内容がほとんど。わずかに伊吹が「139キロを投げるエース」と個人に言及していた程度だった。しかし、選考会当日のプレゼン後には、必ずと言っていいほど「どんな選手がいるのか」との質問が飛ぶ。せっかく甲子園に出ても、ボロボロな試合になってしまえば、という思いは選ぶ側の責任でもあるのだろう。
豪雪、レジェンド母校
今年の候補校の傾向としては、「豪雪」に悩むチームが多いということ。只見、丹生、伊吹、倉吉総合産が該当する。異色なのは高松一で、四国で最終比較された松山商とともに、オールドファンには懐かしい。中西氏にはMBSの解説者としてもお世話になった。現在もヤクルトの練習にはたまに顔を出しているようで、お会いすると「もう死にかけとるワ」と笑顔が返ってくる。3年前の夏の「レジェンド始球式」でも、甲子園でお目にかかった。センバツに限れば中西氏の時以来73年ぶり。夏を含めても50年ぶりの復活なるか、注目している。