Yahoo!ニュース

韓国フィギュア“衝撃スキャンダル”の「その後」。未成年セクハラ疑惑で五輪絶望…被害者の意外な反応

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
イ・ヘイン(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

韓国フィギュアスケート界に衝撃を与えた人気女子選手の“未成年セクハラ”騒動の余波はまだ続きそうだ。

未成年で異性の後輩選手にセクハラをした疑いで3年間の国家代表資格停止処分を受けたイ・ヘインが、大韓体育会スポーツ公正委員会で再審議を棄却されたなか、今度は被害者の後輩選手Aが立場を表明した。

Aの法定代理人を務めるソン・ウォヌ弁護士は9月3日に発表した報道資料を通じて、「イ・ヘイン選手の再審結果発表以降、依然として騒動になっている部分と関連して、事実と異なる憶測に基づき、A選手への無分別な非難と威嚇がなされている」と明らかにした。

「A選手は6月5日、韓国氷上競技連盟で行われた調査過程で“イ・ヘイン選手の行動が犯罪行為に該当するとは思わない”と陳述したことがある。A選手は一連の調査過程及びスポーツ公正委員会で『イ・ヘイン選手の処罰を望む』と発言したことはなく、『イ・ヘイン選手の行動に対して羞恥心を感じた』と話したこともない」と強調した。

“キム・ヨナ後継者”の衝撃スキャンダル

2005年4月生まれのまだ19歳で、昨年3月の四大陸選手権でキム・ヨナ以来14年ぶり、韓国勢史上2人目の金メダルを獲得するなど、“キム・ヨナの後継者”の一人として人気を集めてきたイ・ヘイン。

(参考記事:“キム・ヨナ以来の逸材”と呼ばれる逸材…韓国女子フィギュア選手がアイドル顔負けの美貌で話題【PHOTO】)

そんな彼女が今年5月、イタリア・ヴァレーゼで行われたフィギュアスケート韓国代表の合宿に参加した際、別の女子シングル選手Bと宿舎で飲酒した事実が発覚した。練習やパフォーマンスに影響を及ぼしかねないとし、飲酒行為を禁じる韓国氷上競技連盟の強化訓練規定に違反したのだ。

加えて、連盟は調査過程で未成年で異性の後輩選手Aにセクハラ行為をしたことも把握。そのため、6月20日のスポーツ公正委員会でイ・ヘインに3年間の国家代表資格停止処分を下した。

ほか、イ・ヘインの性的不快感を誘発する写真を違法に撮影し、後輩選手Aに見せる行為をした選手Bに1年間の国家代表資格停止処分。後輩選手Aも女子選手の宿舎訪問が強化訓練規定に違反しているとし、けん責処分が科された。

だが、イ・ヘインは飲酒行為こそ認めて謝罪したものの、“セクハラ疑惑”は強く否定した。

実際、自身のSNSで公開した謝罪文では「(Aは)高校時代に付き合った彼氏で、両親の反対で別れた後、今回の合宿で再会した」と関係性を主張。「お互いを好きだった感情が残っていたためか、そこでまた付き合うようになった。ただ、両親に知らせたくない一心から、その事実を秘密にすることにした」と、Aとの“秘密恋愛”を告白したのだ。

ただ、イ・ヘインは連盟の調査を受けた際にAとの恋人関係を明かさなかったという。これによって連盟側が事実関係を誤認したと主張し、処分軽減のために大韓体育会のスポーツ公正委員会に再審議を申請したわけだ。

8月29日、ソウル松坡区のオリンピック会館で行われた大韓体育会スポーツ公正委員会の再審議に出席する前、イ・ヘインは「国家代表として、合宿で酒を飲み、恋愛をしてはいけなかった。心からお詫び申し上げる。一生、過ちを悔い改める」と自身の行動を改めて謝罪しつつ、次のように心境を明かしていた。

「未成年へのセクハラ犯という烙印が押されてしまった状況で、選手というよりは一人の人間、一人の女性として、セクハラ犯ではないという事実を明らかにしたいだけだ」

しかし、イ・ヘインの望みも通らず、大韓体育会スポーツ公正委員会は翌30日に「イ・ヘインの再審議申請を却下する」と発表。このため、イ・ヘインの3年間の国家代表資格停止処分が事実上確定した。

イ・ヘイン側は今後、懲戒効力停止仮処分を申請し、懲戒無効確認本案を提起する案を検討しているというが、彼女の2026年ミラノ冬季五輪出場は“絶望的”になったと言って良い。

後輩選手A「イ・ヘイン選手への善処望んだ」

一方の後輩選手Aはイ・ヘインとの交際の事実を認めながらも、合宿で“セクハラ”とされる行為が起きた当時は「大きく戸惑った」と反論した。

ソン弁護士は「イ・ヘインは秘密恋愛をしながら、海外合宿当時の状況をひとつずつ尋ね、事後的な証拠収集などの対処のため、当時の状況に関して質問した。この事実に気づいたAはショックを受け、現在は精神科治療を受けている」と明らかにしている。

ただ、イ・ヘインの処分をめぐっては“善処”を望んできたという。実際、ソン弁護士は「A選手は韓国氷上競技連盟の一連の調査過程及びスポーツ公正委員会で、イ・ヘイン選手に対して“善処を望む”と一貫して陳述した」とし、次のように続けた。

「A選手は上記のような内容を調査過程で明確にしたため、イ・ヘイン選手の処罰が予想より重く出た際に当惑したが、スポーツ公正委員会の結果が発表された後、イ・ヘイン選手の最新手続きが進む過程でむやみに調査やスポーツ公正委員会での陳述内容を外部に口外することができないため、これまでなされてきた無分別な憶測と疑惑に対し、うかつに意思を表明することが難しい状況だった」

ソン弁護士によると、Aは再審議にあたりイ・ヘインの弁護士に嘆願書作成の意思を伝えたが、先方がそれを断ったという。「イ・ヘイン選手の弁護士は一方的に期限を定め、自分たちの要求通りにA選手がイ・ヘイン選手のSNSにコメントをするなど、A選手が特定され得る行動でメディアに露出することを要求した。これに対し、A選手側は時間が差し迫っている状況で最初の立場文を発表することになった。同立場文には誤解を招くような内容が一部含まれており、この点については遺憾の意を表する」としている。

そのうえで、「現在、A選手及び家族に『A選手がセクハラでイ・ヘイン選手を告発した』『A選手がB選手を告発した』『A選手の告発でイ・ヘイン選手に対する調査が始まった』『A選手の両親が懲戒結果に圧力を加えた』『A選手側がイ・ヘイン選手の懲戒を望んだ』など、虚偽の噂と推測に基づいた過度な非難、脅迫が加えられている状況だ」と、Aとその家族が無分別な批判に苦しんでいることを指摘。

そして、「本弁護人はこれが明白な犯罪行為であることを申し上げ、一部の悪意を持って虚偽事実を流布し、再生産する行為に対しては相応する法的措置を進行する予定だ。今後、A選手と関連した虚偽事実の流布及び拡大を自制することを要請する」と、Aに対する中傷行為への“強硬措置”を予告していた。

韓国フィギュア界を揺るがす“イ・ヘイン騒動”の終着点はどうなるのか。今後も展開を注視していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事