競泳初?!インクルーシブ水泳への挑戦がスタート!〜パラ選手参加の感想・今後への期待が膨らむ〜
横浜国際プール(横浜市都筑区)が主催する「第1回インクルーシブ水泳競技大会」が7月17〜18日に開催され、東京パラリンピックから1年になろうとする今、横浜でレガシーを担う取り組みが始まった。第3次横浜市スポーツ計画にもとづいている。
プールからの声かけに応じ、パラ水泳連盟から18名、日本知的障害者水泳連盟から42名、県内の小学4年〜中学3年の日本水泳連盟に登録するスイマー76名の合計136名がエントリーし、共に泳ぐ取り組みが幕をあけた。コロナ対策により会場は無観客だったが、競技の様子はYouTubeで配信された。
スポーツ基本法の改正(2011年)により障害のある人のスポーツは健常な人のスポーツと同じスポーツであるという認識がすすみ、東京2020へ向けて兵庫県や神戸市、長野県などで、一般の水泳大会に障害のある人が参加する取り組みが進んでいる。まだまだ国民・市民大会とされるなかには、障害のある人が含まれていない大会が多く残っている。
横浜では数々の障害者のみの水泳大会が実施され、国際大会の経験も豊富だが、その一方で一般の大会は障害のあるスイマーには開かれていないのが現状だ。
「インクルーシブ」の取り組みは、現状の延長ではなく、あらたなフォーマットを作ることで、別の角度からの経験を積む取り組みへの挑戦と言える。
競泳初の試み、実際の様子は
大会は、大音響の迫力とパラアスリートを紹介するMCの盛り上げで競技運営はとてもスムーズに進み、これまでの経験が生かされていた。
1日目、予選は知的障害(以下、知的)と健常者(以下、健常)は同じ組で泳いだが、肢体不自由(以下、肢体)、視覚障害(以下、視覚)はパラの中でも別々の組となっていた。また決勝では健常と知的も分かれていてインクルーシブ感の低い状況となっていたが、2日目の決勝では、知的と健常は同じ組、パラの肢体と視覚も同じ組で泳ぐよう修正が施される。僅かではあるがインクルーシブ大会としての意味合いを捉えた現場の判断だった。
東京パラ、パラ水泳世界選手権へ出場したパラアスリートたちは2日間の大会で20の日本新記録を更新するタイムで泳ぎ、記録は公認されないが障害のない小・中学生へ世界で戦うアスリートの泳ぎを伝える大会となった。
魅力ある機会づくりに向けて、パラ選手の想い
今大会に出場した障害のあるアスリートは、昨年の東京パラ、先月(6月)ポルトガルで行われたパラ水泳世界選手権に参加した日本代表のトップスイマーである。
いずれの選手も幼い頃から競泳に励むなかで、もともと健常者の大会で競いあっていた選手や、障害により当初からパラ水泳のクラブで育つなかで、東京2020にむけて健常者の大会で泳ぐ機会が増えてくるなど、最近の傾向として障害のあるスイマーが障害のないスイマーと泳ぐ機会はさほどめずらしいものではなくなっている。
2日間のレースに挑みながら、インクルージブを意図した大会に出場したパラアスリートから感想や今後への要望を聞き取った。
辻内彩野(三菱商事・弱視S13)
「健常の大会にパラの選手が参加するのが日本ではまだ難しく、なかなか受け入れてもらうことができないなか、このような形で、最初から、一緒にやりますっていう大会を企画していただき本当に嬉しい。
パラの大会自体が少ないので、選手たちの日頃の成果を発揮する場として機会を与えてくれ感謝しています。
強いて言えば、もっとパラの選手と健常の選手が”まぜこぜ”で泳げたら、スピードを感じあって競うことができると思います。
いまのままだとパラの選手はパラのなかでしかやっていないので、ふつうの大会となんら変わりはないというか、そういうところがオープンになるというか、壁がなくなっていけばもっと楽しい大会になると思います」
ーー東京パラのレガシーとしては。
「本来であれば東京が終わったその年にこういうのがあれば、参加したい選手も多かったと思うんですけど、このタイミングでできたのはよかったと思います。
初めてパラの選手が泳いでいるのを見た子供たちもたくさんいると思いますので、刺激になればと思います。取り組みはすばらしいことなので継続してできたらいいと思います」
ーー健常の子どもと話す場面は?
「クールダウンの時に少しありました。(大会として)そんな場を設けられたらと思います。
(小中学の)子供たちにとって、パラの選手たちは大学生以上が多いのでちょっと怖いなとか、そういうのがあるんじゃないでしょうか。
たとえば、選手の負担にならないように、休憩時間とかにトークセッションとか、質問コーナーを入れてみたり、今後そういうちょっとしたイベントがあると、パラスポーツに興味をもつ健常の子どもたちも増え、健常の大会に出たいなって思うパラの若手の選手も増えていくんじゃないかと思います。
企画段階から選手が関わっていると思うんですけど、決まったご意見版ではなくて、その年の代表選手とか現役に近い選手が企画の段階から関わって大会作りができたらと思います」
山田拓朗(NTTドコモ・左腕欠損S9)
「海外だと一緒に泳ぐ大会があるなかで日本はかなり遅れている。兵庫県では神戸市民選手権など(インクルーシブを目指す大会に)毎年参加しますが、関東でも東京パラリンピックをきっかけに機会が増えるといいということで考案された大会だと思うので、そういう動きには僕も賛同します。
普段一緒に泳がない選手たちの泳ぎをみるのも刺激になるし、単純にパラ水泳の試合が少ないので、その意味でも実戦形式の場をいただけるのはすごくありがたい。今後も続けていって欲しい」
ーーなぜこういう大会が少ないと思いますか?
「単純にどうやればいいのかわからない、というのもあると思う。なかなか新しいことを始めるのにはエネルギーがいると思う。タイミングも含め、きっかけがなかったと思うので、この大会をきっかけに全国にも広がっていけばいいと思います。
大会運営自体はすごくしっかりされていたので、レースの適度な緊張もありつついい機会になったと思います。
障害のない子どもたちも公認大会になれば参加するメリットが出てくると思います。パラは今回は強化指定選手だけでしたが(パラの選手も)幅を広げて参加できるようになればいいなと思います。
兵庫県選手権では(パラも健常も)一緒に組まれていて、泳ぐ側としては普段一緒に泳げない選手と一緒に泳げることに加え、エントリータイム順に並ぶので、自分のタイムに近い選手が両隣に並ぶというのは、やっぱり泳ぎやすいんじゃないかと思います。
ジュニアの頃はよく健常の大会に出場していました。両隣の選手と競り合いながら生まれる記録もあると思うので、記録が出やすい環境にもなると思います」
山口尚秀(四国ガス・知的障害S14)
「力が湧くスイッチは初心を思い出すことです。これまでやってきたレース、日常生活の経験、競技をするこれまでの過程がどんどん強さにつながっている。
東京パラリンピックで金メダルをとった選手がどんどんレベルをあげて、海外の選手がどんどん強くなっている。そういったことを考えると私もまだまだ負けていられないっていう気持ちがある。
ほかの人たちの期待にも応えたいという一心でもあります」
ーーこれからの目標は?
「今回のレースで調子がいいことを再認識した。徐々にレベルアップしたい」
ーー大会の感想、普段との違い
「わたし的にはそんな大きな(違いの)印象はないですね。もちろん健常者も障害のある人もやっぱり、自分がもっている力を最大限に発揮するということがスポーツ、水泳競技での最大の共通点ではないかと考えているので、あまり大きな印象というのはないです。
(視覚や身体など知的以外の)ほかのパラは障害のクラスの違う人と一緒に泳げば一緒に成長できるチャンスになると思います」
齋藤元希(国士舘大学・弱視S13)
「世界選手権では、メダルがかかった試合で勝ち切る経験ができました。いままでの練習をしっかり継続して、来年マンチェスターの世界選手権とパリパラリンピックへむけて頑張っていきたい。
今日はベストコンディションではない中で自己ベストを出せたことは自分が強くなった証だと思う。ひとつ欲をいうとアジア記録を狙っていたので少し悔しい部分ではあります」
ーー大会の感想
「高校生までは健常者でやってきたので、なつかしい雰囲気を楽しめました。パラに来てからは予選決勝のある大会がジャパンパラだけで、なかなか競って泳ぐ機会がない。
個人では再来週に地元(山形)での健常者の大会に出場します。そちらでも今回同様にパラ選手がいるぞっていうのを健常の選手やその保護者にも知ってもらえるきっかけになればと思います。
僕自身は軽度障害でタイムも差がないので、ごちゃまぜにして泳いだ方がいい。健常の子どもたちにとってもこういったパラの選手がいるとか(僕自身は見た目ではわからないけど)南井選手とか拓朗さんとかを見て大人になったとき、頭の片隅に一緒に泳いだことを思い出せる選手になってもらえたらと思います」
芹澤美希香(宮前ドルフィン・知的障害S14)
「最近の練習を復習して泳ぎました。健常の人と泳ぐのはあまりないので競り合いがすごく楽しかった。ぜひ続けてほしい。
今の目標は100m平泳ぎ自己ベストを出すことです」
(写真取材 秋冨哲生、取材協力 横浜国際プール)
※この記事は2022年7月20日、パラフォトに掲載されたものと同じ内容です。