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ルネサスが2022年51%増の1.5兆円を売り上げた理由

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
ルネサスの執行体制 出典:ルネサスエレクトロニクスのホームページ

かつて、一度地獄を見たルネサスエレクトロニクスが見事に復活を遂げた。2022年度(12月期)の決算で、ルネサスの売上額が前年比51%増の1兆5000億円を突破したのだ。本業の利益を表す営業利益は売上額1兆5027億円の37.2%にあたる5594億円を計上した。増収増益となる成長企業を実績として示した。最近の半導体で年成長率50%を突破した企業はNvidiaやAMD、Qualcommなど超優良企業しかいない。ルネサスもこういった企業の仲間入りしたのである。

今のルネサスが変わったな、と感じたのは新型コロナ期に突入した2020年のことだ。前年の2019年に社長兼CEOとなった柴田英利氏が会社を大きく変えた。ルネサスの半導体事業は大きく分けて車載事業(正式名称はオートモーティブソリューション事業本部)と産業向け事業(正式名称はIoT・インフラ事業本部)の2本立て。自動車産業は日本が得意な分野であるから日本人がトップを務めるとして、産業部門のトップにシリコンバレーにいるSailesh Chittipeddi氏を執行役員として据えたのである。

図1 ルネサス経営陣はグローバル 出典:ルネサスエレクトロニクスのホームページ
図1 ルネサス経営陣はグローバル 出典:ルネサスエレクトロニクスのホームページ

日本企業が海外企業を買収してもこれまでは、海外部門は海外に任せっきりが多かった。ましてや経営陣に取り込む人事をした企業はほとんどない。

ルネサスが大きく変わったと思った事実が2020年に二つあった。一つは、新型コロナが世界中に蔓延し人工呼吸器が不足し始めたころ、人工呼吸器の最大手であり、特許を持つアイルランドのメドトロニック社がその電子回路ボードを無償で公開した。そのニュースをキャッチしたわずか10日程度後にルネサスが人工呼吸器向けの回路ボードを開発したというニュースリリースを流したのである。以前のルネサスでは考えられないスピードだ。

もう一つはその年のはじめに、欧州のテレコム業界が開いたオンラインウェビナーにおいて、5G時代には基地局の設計が大きく変わり、O-RAN(Open Radio Access Network)技術へシフトすることを知った。わずか2~3カ月後のルネサスのオンライン会見の席上、IoT・インフラ事業部トップのChittipeddi氏が、ルネサスはO-RAN市場にも入っていくと述べたことだ。このスピード感もかつてのルネサスにはなかった。Chittipeddi氏はシリコンバレーでの新しい技術やビジネスの動きについても東京本社に報告してくれるそうだ。東京側もそれを聞いてすぐに対応するという。

そして、本日の決算説明会で海外売上比率を質問したところ、今や日本の売り上げは20%強しかなく、米国10%、欧州20%弱、中国30%、中国以外のアジア20%だという。もはや完全なグローバル企業になった。これこそが日本企業の勝ちパターンである。

日本の半導体製造装置がなぜ強いか。日本のユーザー(半導体メーカー)が弱くなり装置を買ってくれなくなったから、さっさと見切りをつけて海外に売りに行ったからだ。このため東京エレクトロンの海外売上比率は85%にもなり、アドバンテストのそれは95%にも達する。ルネサスも日本の遅れた顧客よりも海外を強化したことで増収増益の成長企業に変身できたのである。

これまで買収した企業の内、IDTはシリコンバレー、Dialogもシリコンバレーと英リーディング市(ロンドンの西64km、オクスフォードの南39km)に拠点を持っている。Intersilは旧Harris Semiconductorでフロリダにある防衛半導体の古い企業だった。ルネサスの経営陣はもちろんIDTとDialogの経営幹部が多い。シリコンバレーは、ベルギーのImecや英ケンブリッジ地区などがモデルとするハイテク地区。筆者はシリコンバレーでApple向けのPMICを設計していたDialogを訪問したことがある。シリコンバレーでは新しい技術に接することが日常的。その情報を日本にも持ち込んでルネサスが真っ先に採用することで海外売り上げを高めていった。

10年前にインドから日本の組み込みシステム展に出展していたインド企業のエンジニアに取材していた時に、ふとルネサスのマイコンを使っている、という話になった。どこからそれを手に入れたのかを聞いたところルネサス欧州を通じて入手したと答えていたが、日本のルネサスには誰一人インドにマイコンが流れたことを知っている人はいなかった。

今は全く違う。ルネサスはインドの組み込みシステム企業からも受注しており、インドとの距離は全く短くなった。ルネサス社内には「もう日本人は少数民族になってしまいました」と冗談交じりに話す人もいる。グローバル企業となったルネサスはこれからもさらに成長できるだろう。なにせ日本の技術を持ち、海外の先端技術トレンドをいち早く取り入れ、海外ビジネスを獲得できるようになったからだ。ルネサスの成功は、今後の日本企業の一つのモデルになるだろう。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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