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ロシアW杯はザックジャパンの追試か。ポジティブシンキングの落とし穴に注意されたし

清水英斗サッカーライター
壮行セレモニー中の長谷部誠(写真:田村翔/アフロスポーツ)

ロシアワールドカップは、ザックジャパンの追試になりそうだ。西野ジャパンの位置づけが見えてきた。

前回の2014年、ブラジルワールドカップの敗因は、当時の原博実専務理事の総括会見から、以下に集約できる。

●コンディショニングの失敗

●戦術的柔軟性、あるいは割り切りの欠如

●1対1の勝負に耐性がない

前回大会のコンディショニングは、全員に同じハードトレーニングが課され、日が近づくにつれて徐々に負荷を下げることで疲労を抜き、本大会でトップパフォーマンスが出るように調整された。しかし、フルにシーズンを出続けた選手にとっては負荷が強すぎたり、逆に吉田麻也や内田篤人のように怪我で欠場期間が長かった選手には高負荷が適していたりと、一律のトレーニングが、個々にフィットしていない面があった。一般論として戦術肌の監督は、個別ではなく、戦術を含めたチームトレーニングを増やそうとする傾向がある。

そこで今回は合宿中、スタッフが選手各人に張り付き、ケガの程度に合わせて、心拍数を図りながら各人に適した負荷をかけている。岡崎慎司や乾貴士をはじめ、無理に全体トレーニングに参加させず、じっくりと素走りで調整する姿があった。ブラジル大会で失敗したコンディショニングを、今回は違う方法で解決させようとしている。

また、戦術面については、ファーストプランを実行すればザックジャパンは強かったが、それがコートジボワール戦のようにうまくいかないとき、あるいはギリシャ戦のように別の方法で攻める必要があるときに、柔軟性や割り切りを出すことができなかった。

その点は、「対応力」というキーワードと共に、西野ジャパンは柔軟性を売りにしている。ガーナ戦で使った3バックと、元々の4バックを使い分けながら、試合の状況に応じて変えていく考えを示した。

さらに、1対1の勝負に耐性がないこと。ザックジャパンの頃に本田圭佑がしきりに言っていた「個の成長」だが、それはこの3年で、彼が快く思わなかったハリルホジッチが実践してきた。そのメンバーがすべて西野ジャパンの23人に残っているかといえば、決してそうではないが、何人かはハリルホジッチの影響が表れた選手もいる。

追試に挑む、選手たち

4年前にブラジルで失敗したことを修正して、ロシアワールドカップに挑む。つまり、ザックジャパンの追試である。あまりにも大きな後悔を残したブラジル大会。4年前のメンバーに共通する選手も多く、過去の後悔を晴らしたい気持ちも強いのではないか。なるほど。別にそれでも構わないのだが、だとしたらブラジルワールドカップ直後から、その方向性を持っておけ、という話だ。やはりこの4年間を、日本サッカーが無駄に過ごした感は拭えない。

今後、西野ジャパンの不安要素は、果たして戦術が成熟するのか、というところ。この短い準備期間では、“柔軟性”、“対応力”など、監督が語っているキーワードが、すべて絵に描いた餅になってしまう危険もある。

もう一つ気になるのは、選手たちの様子だ。あまりにポジティブすぎる。どの選手からも「ポジティブ」「前を向く」と、一様にそんな言葉ばかりが出てくる。本当に? この状況で? 本当にそう思っている? そう言わなければいけない、と思っているのでは?

田嶋幸三会長によって、ハリルホジッチ監督を解任した原因として指摘されているのに、そんなにも天真爛漫に、ポジティブになれるものだろうか。そんな人間性の選手たちとは思えない。むしろ、その原因と名指しされたことで、選手たちはハリルホジッチ解任の十字架を背負っているのではないだろうか。

解任されたのに、ハリルホジッチは選手たちにエールを送ってくれている。まとまらなきゃいけない。この期に及んで、チームを乱すようなことは言えない。ポジティブにならなきゃ、前向きにならなきゃ。そんなことを考えているのではないか。

しかし、自分に嘘をつくポジティブシンキングは、本人が疲れてしまうものだ。私の目からは、選手たちが痛々しく見える。中には本当にポジティブで、ハリルホジッチ解任万歳と、明るい気持ちのまま代表に招集されている選手もいるかもしれないが、この状況であれこれ言っちゃいけないと、我慢している選手がいる気がしてならない。

ガーナ戦でも決定機はそれなりに多かったが、肝心のシュートでは、あまりにも力が入りすぎていた。気負いすぎではないか? 背負い過ぎではないか? シュートは余裕がなければ決まらない。

これでは勝利は難しい。追試にすらならない。スイス・オーストリアで、各人が秘めたる本音をぶつける必要があるのではないか。杞憂ならいいが、敗戦のあとに一様にポジティブな言葉ばかりが出てくるチームに、不気味さを感じた次第だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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