なぜ森保ジャパンは守備と攻撃が同時に破たんしてしまったのか? 【ベネズエラ戦分析】
責任を自覚する森保監督
「結果の責任については、準備の段階で、選手に対してもチームに対しても、私の働きかけについて反省しないといけないと思っています」
試合後の会見で、森保一監督が敗戦の弁を語ったベネズエラとの親善試合は、前半に4失点を喫した日本が後半に1点だけを返し、最終的に1-4で終了した。
通算26試合を戦った森保ジャパンが敗戦を喫したのは、これが4度目のこと。初めての黒星は今年のアジアカップ決勝戦のカタール戦(●1-3)。2度目はその翌月に行われた国内親善試合のコロンビア戦(●0-1)。そして3敗目は、実質U-22代表にオーバーエイジ数名を加えたメンバーで臨んだ6月のコパ・アメリカの初戦、対チリ戦(●0-4)だ。
しかし多くのサポーターが詰めかけた国内の親善試合で、前半だけで4つのゴールを許して勝負が決した今回の惨敗劇は、過去に例を見ないほどの衝撃度の高さだった。前半終了の笛が鳴ったあと、ゴール裏サポーターが不甲斐ないプレーを見せた選手たちに対してブーイングを浴びせたのも当然と言える。
そんな試合の反省点として指揮官が挙げたのが、冒頭の弁である。そして、そのコメントの真意を次のようにも語っている。
「結果につながらなかったのは、監督として準備の部分で何か問題があったのではないのか考えて(そのように)話をさせてもらいました。
トレーニング内容で言うと、相手のプレッシャーがきついなかで攻撃の形を作る部分で連係、連動のトレーニングをしたが、もっとクオリティを求めて、試合に近い、あるいは試合よりも難しい形でトレーニングすることが必要だったと思っています」
たしかに、今回のインターナショナルマッチウィークの森保監督の行動スケジュールを振り返ると、この試合に対する準備が疎かになる可能性は十分にあった。この試合の5日前にアウェーで行われたキルギス戦を終えた直後、森保兼任監督は東京五輪世代のU-22代表の親善試合のために広島入り。前日練習と翌日の試合で指揮を執った。
そしてその試合後に大阪入りした指揮官は、ベネズエラ戦の前日練習と試合を指揮。しかもベネズエラ戦の招集メンバーは、新顔4人を含む9人がキルギス戦のメンバーと入れ替わっていた。通常よりも早く来日し、約1週間、じっくり日本でこの試合に備えたベネズエラとの差は明らかだった。
今回の敗戦をフェアに振り返れば、ピッチ上で見えたさまざまな問題点とは別に、そこは押さえておきたいポイントだ。
もっとも、このようなスケジュールになるのは事前にわかっていたことであり、3つの招集リストを用意した点も含め、森保兼任監督もそれなりの準備をしていたはず。問題は、その見込みの甘さにあった。
これは森保兼任監督だけのミスではなく、JFA(日本サッカー協会)全体として大いに反省すべき点だ。
兼任監督という選択は本当に正しいのか? 今回のスケジューリングに無理はなかったのか? 現場の監督だけでこの難題を解決させることはできないはずだ。
4-4-2の採用と4失点の関係
そんななか、森保監督はこのベネズエラ戦にどのような狙いを持って臨んだのか。その答えは、スタメン編成からも見て取れた。
GKはベテランの川島永嗣を選択し、DFには室屋成、植田直通、畠中槙之輔、佐々木翔を、MFには原口元気、柴崎岳、橋本拳人、中島翔哉を、そしてFWには鈴木武蔵と浅野拓磨を起用。システムは、いつもの4-2-3-1ではなく、攻撃時も鈴木と浅野を並列にする4-4-2を採用した。
試合後、「すべて勝つつもりで準備してメンバーを編成して臨んだが、勝利につながったのは1試合で、2連敗した」と指揮官が振り返ったように、ベネズエラ戦の位置付けに新戦力発掘を含めたテスト的な意味合いがなかったことは、先発リストからも読み取れる。
とくにGKに中村航輔ではなくベテランの川島を起用したのはその象徴で、フィールドプレーヤーの10人全員が森保ジャパンで先発経験を持った選手が名を連ねている。
今後のチーム強化という視点に立てば、川島ではなく若い中村を起用して経験させるほうが得策だ。初選出組は別としても、たとえば車屋紳太郎、大島僚太、井手口陽介といった代表経験を持つ戦力を先発起用するのも、底上げという意味では有効だと思われる。
しかし、あくまでも森保監督は勝つためのベストメンバーにこだわった。今回の招集メンバーリストを作成する段階から決めていたのだろうが、結果的にその選択が惨敗のダメージをより大きくしたことは否めない。
新戦力のテストもできず、戦力の底上げも果たせず、その結果、収穫なき敗戦という結末を迎えたからだ。
一方、この試合で4-4-2を採用するのも、予め決めていたと見ていいだろう。それは、ベネズエラ戦の登録メンバーからもうかがえた。
スタメンの鈴木と浅野のほかに、サブに入っていたアタッカーはCF系の永井謙佑とオナイウ阿道。古橋亨梧はサイドアタッカーであり、井手口もオフェンシブMFでプレーできるものの、本来はボランチの選手。少なくとも1トップ下の選手ではない。
結局、4点のビハインドを背負ったことで後半から4-2-3-1にシステム変更して中島を1トップ下に配置した森保監督だったが、その策が事前に準備したものではないのは、招集メンバーリストから見ても察しがつく。
試合後、選手交代はプランどおりだったかと問われた森保監督は、「交代枠が6人あったので全部使うプランでいたが、最後に1枚余らせたことはプランどおりではなかった」とコメント。おそらくその余らせた1枚は、2トップの一角でプレーさせるつもりだったオナイウ阿道である可能性は高い。
いずれにしても、使い慣れない4-4-2で試合に臨んだことは、前半の4失点と無関係ではなかった。
前半に守備が破たんした原因
4-4-2は、指導者でも選手でも一度は必ず経験しているオーソドックスな布陣だ。4-2-3-1でも、守備時には4-4-2に変形するのが一般的で、森保ジャパンでもその方法をとってきた。
しかしこの試合の日本は、マイボール時に両サイドの中島と原口が中間ポジションをとってボールを受けようとするため、陣形が4-2-2-2的に変形。とりわけ中島は中央を越えて右サイドにも顔を出すなど、2列目の4人が横に並ぶ時間帯は、2失点目を喫した前半30分までのいくつかのシーンに限られていた。
「ディフェンスの部分で、ボール保持者に対して少し間合いが遠く、うまくプレッシャーをかけられずに失点を重ねていったところは反省しないといけないと思いますし、今日の敗因だと思います」
これは試合後の森保監督のコメントだが、それは陣形が4-2-2-2的になってしまったのと同義と言っていいだろう。
4-2-3-1を採用する際、守備時に4-4-2に変形させる理由は、最終ラインと前線の距離を縮めて全体をコンパクトにするためだ。それによって、選手間の距離が縮まり、ボール保持者との間合いも保ちやすくなる。プレッシングの原則である。
ところが、4-2-2-2になってしまうと、そうはいかない。中盤に2人のセントラルMFと2人のサイドMFが縦関係に並ぶため、最終ラインと前線の距離が遠くなり、すなわち全体をコンパクトにできなくなってしまうからだ。
さらに大きな問題は、サイドエリアで劣勢を強いられやすくなる点だ。4-3-3の布陣をとるベネズエラの両サイドには、サイドバックとウイングの2人が配置されるため、その2人に対し、日本はサイドバック1人で対応することを強いられる。
この試合で日本が許した4失点が、いずれも相手のサイド攻撃によって崩されたことがそれを証明している。
とりわけ33分のベネズエラの3点目は、相手がワンタッチを多用しながら12本のパスをつなぎ、右から左へと展開。左サイドバックの16番(ロベルト・ロサレス)が余裕を持って入れたクロスを6番(ジャンヘル・エレラ)が頭で折り返し、23番(サロモン・ロンドン)がネットを揺らすという見事なサイド攻撃から日本が失点を喫している。
データが示す攻撃の機能不全
同時に、4-2-2-2の問題は攻撃面でも露呈した。
「攻撃ではビルドアップの部分とシュートまでつなげる部分で、パスの連係、連動やクオリティの部分が少し足りず、相手につけ込まれた」
試合後に森保監督が振り返ったとおり、前半の日本はいつものようなCBからボランチを経由するビルドアップもできなければ、中央へくさびを打ってから前線が連動する攻撃もなく、さらに両サイドからのクロスも入らなかった。
たとえば、柴崎が記録した前半の縦パスは4本。しかし最終ラインが下がって相手に押し込まれる時間帯が長かったこともあり、敵陣での縦パスはわずかに2本(うち成功1本)だけだった。時間帯的にも2失点目を喫した30分以降は1本のみで、その鈴木へのパスも失敗に終わっている。ちなみに橋本は6本のうち敵陣で4本を記録したが、2失点目の30分以降は0本だった。
それ以外も含めて、前半で日本が記録した敵陣での中央への縦パスはわずかに8本。そのうち、30分以降に記録した縦パスは柴崎の1本のみに終わっている。
その現象を裏付けているのが、時間帯別のボール保持率だ。前半開始から15分までの日本の保持率は52.9%あったが、15分から30分までは48%、30分から前半終了までは41.5%に低下。
この数字の推移は、30分、33分、38分と立て続けにベネズエラがゴールを重ねた時間帯と見事に一致する。森保ジャパンのバロメーターが縦パスの本数やボール保持率にあることを、あらためて証明した格好だ。
さらに顕著だったのが、サイドからのクロスボールの本数だ。4-2-2-2的な陣形となってサイドで劣勢を強いられたことにより、前半で日本が記録したクロスは1本のみ。20分に室屋が入れたそのクロスも、中央の鈴木の頭には合わなかった。
準備不足と言えばそれまでだが、4-4-2の布陣を採用するなかで4-2-2-2的に変形した弊害は、間違いなく攻守両面にわたって悪影響を及ぼしていた。それをどこまで問題視したのかは不明だが、少なくとも森保監督は後半開始から急きょ4-2-3-1に布陣を変更して応急処置を施している。
それによって大きく変化したのが、サイド攻撃だった。
1トップ下の中島が中央に固定され、右ウイングに入った古橋と左に移った原口がサイドエリアでプレーする時間が増えたことにより、後半のクロス本数は9本を記録。69分には、永井のクロスから山口蛍がネットを揺らした。
ちなみに、後半の15分刻みのボール支配率は31.9%、48.3%、58.1%と推移。ただ、これは後半立ち上がりから、ベネズエラがゲームをコントロールするためのパス回しをしたことと、65分に投入された永井が前線で激しくプレッシャーをかけたことで、相手がボールを蹴り始めたのが影響した。
いずれにしても、0-4となった時点で勝負が決したため、後半で見えた現象にそれほど多くの意味はないだろう。後半からのシステム変更は手遅れの采配と言われて当然だ。
注目は、今後の森保ジャパンの行方である。
試合後、この惨敗劇が及ぼすチーム強化の長期的プランへの影響を問われた森保監督は、「プランに影響はないと思います」と明言した。
しかし先月のタジキスタン戦、今月のキルギス戦とベネズエラ戦の試合内容を冷静に分析すれば、チームの歯車が狂い始めていることは火を見るより明らかなはず。
大きな壁にぶち当たっているチームをいかにして復活させ、さらに強いチームを作り上げるのか。
招集メンバー、チーム戦術、採用システム。東京五輪で金メダルを目指すチームと2020年W杯でベスト8以上を目指すチームと、二足のわらじを履いて指揮を執る指揮官に突きつけられた課題は山積する。
その采配ぶりも含めて、今後の森保監督の仕事に対する厳しい目が向けられる。
(集英社 Web Sportiva 11月22日掲載・加筆訂正)