「お一人様」の相続が厄介になる「2つ」の理由~その「防止策」と「注意点」
一般に、独身で子どもがいない方(以下、「お一人様」といいます)がお亡くなりになると、相続が厄介になることが多いようです。
今回は、お一人様の相続が、なぜ厄介になるのか、また、厄介にせず、しかも自分の思い通りの相続をするには、生前に何をして、どこに注意しておけばよいのか考えてみたいと思います。
人が亡くなると財産はどうなるのか
まず、お一人様の相続を考える前に、人が亡くなると財産はどうなるのかご説明します。
相続の発生
人が亡くなると、その瞬間に相続が発生します(民法882条)。
民法882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
遺産が「共有」になってしまう
そして、亡くなった人(「被相続人」といいます)が、遺言書を残していない場合は、被相続人の相続財産は、法律で定めた相続人(「法定相続人」といいます)に、法律で定めた割合(「法定相続分」といいます)で移転して、相続人の共有となります。
「遺産分割協議」を成立させる
しかし、共有では、たとえば、遺産の不動産の売却や預貯金の払戻しをする場合に共有者全員の合意が必要になります。このように、遺産が相続人の共有の共有のままでは、とても使い勝手が悪いものになってしまいます。
そこで、遺産を具体的に、相続人の「だれ」が「どの遺産」を「どれだけ」承継するのかを相続人全員で協議して決めることになます。この協議のことを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議を成立させるための「2つ」の前提条件
このように、被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を成立させなければなりません。そして、遺産分割協議を行うには、「相続人の範囲」(=だれが相続人であるか)と「相続財産の範囲と評価」(=何が相続財産であって、その評価がどのくらいになるのか)の2つを確定させることが条件になります。つまり、遺産分割協議を成立させるためには、「相続人の範囲」と「相続財産の範囲と評価」の2つの確定が前提条件になります。逆に言えば、この2つの前提条件が確定できなければ、遺産分割協議を行うことができないということになります。
「お一人様」の相続
では、お一人様の相続がどのようになるのかを見てみましょう。
お一人様の「相続人の範囲」の確定~甥や姪が相続人になることもある
お一人様の場合、親が生存していれば、親が相続人になります。しかし、一般に親が死亡していることが多いため、多くの場合、兄弟姉妹が相続人になります。
また、兄弟姉妹に既に死亡している者がいて、その者に子ども(つまり、被相続人の甥や姪)がいる場合、その甥・姪が相続人になります。この甥・姪のことを「代襲相続人」といいます。
代襲相続人からしてみれば、叔父や叔母の遺産が転がり込むことになります。そのため、思いもよらぬ財産が手に入るということで、代襲相続人のことを「笑う相続人」という法言葉もあります。
一般に、兄弟姉妹や代襲相続人が相続人になると、相続人同志の人間関係が希薄なため、協議が成立まで長期化したり、協議成立がまとまりにくい傾向があります。
お一人様の「相続財産の範囲と評価」の確定~見つけ出すのが大変
独身で子どものいない人の場合、一般にお一人で生活しているため、お亡くなりになると、たとえば、利用していた銀行はどこか、貸金庫の有無など相続財産に何があるのかを把握するのが困難になります。しかも、遺産を調べる方が兄弟姉妹や甥・姪ですからなおさらです。
このように、独身で子どものいない人の「相続財産の範囲と評価」の確定は難航する傾向にあります。
実際に、先月29日にお亡くなりになった志村けんさんのお兄様がインタビューに次のように答えていらっしゃいます。
「遺言」が決め手
実は、兄弟姉妹や代襲相続人(甥・姪)には、遺留分(被相続人が遺言を残しても、受け取ることができる相続分)がありません。したがって、お一人様が遺言書を残してお亡くなりになると、遺言の内容の通り財産を残すことができます。その結果、遺産の承継もスムーズに行うことができます。
お一人様の遺言、ここに注意点!
たとえ遺言書を残しても、自分の死後に遺言書の存在が知られていなければ、遺言書がないものとして遺産が分けられてしまいます。その危険性は、一人で生活をしているお一人様には特に高いと言わざるを得ません。そのような残念な事態を回避するために、お一人様が遺言書を残したら、必ずしかるべき人に遺言書を託しておく必要があります。
「遺言執行者」に遺言書を託す
では、だれに遺言書を託すのがよいでしょうか。それは、遺言書の中で指定した遺言執行者がよいでしょう。
遺言執行者は、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています(民法1012条1項)。しかも、遺言書に遺言執行者が指定されている場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません。このように、遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、民法で強い権限を与えられており、遺言の内容を実現する最高責任者といえます。なお、遺言執行者には、遺言で一番多く財産を承継する者が指定されるケースが多いようです。
民法1012条(遺言執行者の権利義務)
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第644条、第645条から第7条まで及び第60条の規定は、遺言執行者について準用する。
民法1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
遺言のご相談を受けて感じるのは、お一人様は、ご自身が築いた財産を、自分の死後、どのように活かしていくか、強いこだわりをお持ちの方が多いということです。そのこだわりを死後実現するには、遺言を残すことは必須です。
なお、遺言の保管方法も重要です。遺言の保管について詳しくは、「お一人様」の相続を厄介しない防止策~遺言を残しても油断大敵!をご覧ください。
このように、お一人様がお亡くなりになると、相続人が兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるなど、遺産分割協議を成立させるには、困難な状況が想定されます。
また、相続財産が何であるかを探し当てるのも困難を伴うことがよくあります。
前述のとおり、お一人様の場合、遺言を残せば、遺留分が適用されないので、思いの通り遺産を承継させることができます。しかも、遺産の承継手続も速やかに行うことができます。
また、相続法改正によって、遺言が残しやすくなりました。ご自身の相続を思い通りスムーズに実現さるために、相続法が改正されたこの機会に、遺言を残すことを実行してみてはいかがでしょうか。