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ゾンビウイルスや脅迫ウイルスに立ち向かう心構えとは。

森井昌克神戸大学 名誉教授
脅迫ウイルス

インターネットバンキングの利用者を狙った、駆除しても消えない新種ウイルスによるサイバー攻撃が、国内で4月までに666件確認されていることが2日、分かった。新種ウイルスは、対策ソフトで駆除となった後もパソコンを誤作動させ続ける“ゾンビ型”で、利用者は暗証番号などを盗まれたことに気付かないまま現金を引き落とされる恐れがある。専門家は「感染したパソコンには専門家の診断が必要」と注意を呼びかけている。

出典:ネットバンキング利用者を狙うゾンビウイルス…国内666件のサイバー攻撃を確認【産經新聞】

インターネット利用者のパソコン(PC)に感染し、ファイルを開けない状態にした後、復旧させる代わりに金銭を要求するウイルス「身代金要求型不正プログラム(ランサムウエア)」の被害が広まっている。4月には日本人を狙ったランサムウエアも確認され、1週間で国内PC60台超から検出された。金銭を払っても解除される可能性は低く、専門家が注意を呼び掛けている。

出典:脅迫ウイルス、日本でも=感染でPC動かず、金銭要求-国内60台超確認

今年5月上旬、ほぼ同時に上記の2つの事実が公開されました。ともにマルウェア(コンピュータウイルス)に関するニュースであり、ともに記事だけからは、ネット社会に取って悲観的にならざる得ない内容です。

まず、「対策ソフトも有効ではない」とすると、どうすれば良いのか、高価な対策ソフトを導入しても無駄なのかとの声が聞こえてきそうです。記事を文字通り読めば、どのような対策をしてもウイルスに感染し、たちまち不正送金の被害にあいそうです。

しかし十分な対策をすれば被害にあう事は滅多にありません。昨今問題になっているネット銀行の不正送金でも、銀行の指示、注意に従っていれば補償を受ける事もできます。まず、対策ソフトを導入すること、常にアクセス、つまりパスワードを入力する際は注意し、いつもと異なる表示や手順が示されたときは処理を止め、電話等で銀行に問い合わせるべきです。そうすれば被害にあう確率は極めて低くなります。「いつもと異なるなど、そのような曖昧な基準では対処できない」と言う人もいますが、ウイルスに感染してしまう人の多くは、少し違和感を感じながらも、パソコンやネットの指示を信じ込んで処理を進めてしまう人たちなのです。一つ一つの操作、入力を注意しながら行う事によって、ウイルス感染を防げる場合も少なくないのです。

ネット銀行も、強盗や空き巣と同様、絶対に被害にあわないわけではありません。しかしその可能性を0に近づける事は可能です。危険な箇所に無防備で歩いたり、家の鍵を閉めないで出かけたりすれば被害にあう可能性が高くなるのと同じなのです。

ランサムウェアと呼ばれる、いわば脅迫ウイルスの記事中、二つのことが明らかになっています。一つはGoogleやYoutube等での広告でもウイルスに感染するという事です。以前は怪しげなサイトを閲覧して、その記事や広告等をクリック(タップ)し、感染に至ることが指摘されていました。「怪しげなサイトは閲覧しない」というのは、一つのウイルス感染対策だったのです。しかし、手口が巧妙になった現在、完璧に安心できるサイトは存在しないのです。

そしてランサムウェア型ウイルス。一部、暗号化されたファイルを復号できるという報告もありますが、大概の場合、復元できません。身代金を支払っても復元できないのです。逆に支払いに応じれば、たかりと同様、何度も脅迫されたり、いわゆる、「かも」リストに登録されたりします。

ウイルス対策は最重要ですが、やはり万が一の感染した場合の対応を含めて、最悪の事態を防ぎ、最小の被害に押さえ込む、つまり危機管理対策(リスクマネージメント)が重要です。たとえば、ファイルのバックアップ対策や、ネット銀行ならば決済用と、ネットからアクセスが困難な貯蓄用の口座を分ける等です。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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