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サーファーが溺れる事故が多発

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
(写真:アフロ)

11日午前9時10分ごろ、大洗町の海水浴場でサーフィンをしていた福井康光さん(50)が、うつぶせに浮いているのが見つかり、病院に搬送されたが、死亡が確認された。警察によると、福井さんは知人と2人でサーフィンに来ていた。茨城県には、台風7号の影響で当時、波浪注意報が出されていて、海上保安部が遊泳禁止にするか検討していたという。(FNNプライムオンライン 8/11(金) 16:57配信

 今年もサーフィンを楽しむ人の水難事故が多発しています。つい6日前の8月6日にも千葉県で男性が亡くなっています。11日の茨城の事故の記事中には、台風7号の影響と沿岸に出されていた波浪注意報について言及されています。その一方で6日の千葉の事故では気象・海象には言及されていません。「サーフィンは安全なのか?と聞かれたら「いいえ」と答える」と言い切るほどの専門誌もあります。波がなければサーフィンを楽しめないという中で、一つ間違えば死亡事故につながるという現実。何がどう進めば、こういった悲しい事故を起こさずにサーフィンを楽しむことができるのでしょうか。

 6日の千葉県の事故は以下のようなものでした。

サーフボードにつながれ… 水難事故か男性死亡 千葉・長生の一松海岸

6日午前8時50分ごろ、千葉県長生村一松戊の一松海岸で、ライフセーバーらが意識と呼吸のない男性を発見し119番通報した。(千葉日報オンライン 最終更新:8/7(月) 11:31)

 このほか、7月26日には福島県いわき市で40歳の男性が、7月1日には福岡県糸島市で64歳の男性がそれぞれサーフィン中に死亡しています。8月中の2件の事故をピックアップし、その時の日本沿岸の波の高さ(有義波高)を確認してみましょう。

図1 8月11日の日本近海の波高分布。茨城県沿岸など東日本の太平洋側には2 mを超える波が押し寄せていた(気象庁・日々の沿岸波浪図)
図1 8月11日の日本近海の波高分布。茨城県沿岸など東日本の太平洋側には2 mを超える波が押し寄せていた(気象庁・日々の沿岸波浪図)

図2 8月6日の日本近海の波高分布。千葉県沿岸など東日本の太平洋側に高い波が押し寄せていたわけではない(気象庁・日々の沿岸波浪図)
図2 8月6日の日本近海の波高分布。千葉県沿岸など東日本の太平洋側に高い波が押し寄せていたわけではない(気象庁・日々の沿岸波浪図)

 必ずしも、「波が高いからサーファーが水難事故に遭う」というわけではなさそうです。

サーフィン中の水難事故は毎年必ず起きている

サーフィン中の水難事故というのは、あまりニュースにならないかもしれませんが毎年数多く発生しています。一例を挙げますと、平成28年では全国で62人のサーファーが水難事故に遭っており、その中で死亡者・行方不明者は9人。さらに平成29年も52人が水難事故に遭い8人が死亡しています。(Slow SurfStyle、2020年11月7日

平成30年以降の正確な数字はこちら

行為別死者・行方不明者数

図3 令和4年中の警察庁水難の概況より筆者抜粋
図3 令和4年中の警察庁水難の概況より筆者抜粋

サーフィン中の死亡原因1位は溺死です

サーフィンは安全なのか?と聞かれたら「いいえ」と答えると思います。なぜなら海という大自然の中で遊ぶ以上、危険は常に隣り合わせだからです。波に飲まれて溺れてしまうかもしれませんし、岩場で切り傷を負ってしまうかもしれませんのでそれなりの予備知識と覚悟が必要です。なめてると本気で命を落とします。それがサーフィンです。ニュースなどにはなかなか取り上げられないのでピンとこないかも知れませんが、実際にサーフィンで命を落とす人は毎年数名います。その大半は溺死ですが、理由無く溺れるひとはほとんどいません。大抵の場合は心臓発作などの急性疾患が原因で溺れてしまいます(40代以上に多い)。サーフィン前に飲酒をしないとか、寝起き間もなくサーフィンしないなど、自己防衛が充分可能でもあります。(サーフィン@マガジン

事故防止のために銚子海上保安部

・風や波、流れの強い日の無理なサーフィンは止めましょう。

・単独行動はさけ、自分や仲間の位置を常に確認しましょう

・サーフボードの流れ止めコードは必ずつけましょう。

・流されていると思ったら、早めに周囲の人に助けを求めましょう。

・流されたらサーフボードを離さず、救助を待ちましょう。

・身体保護や流されたときの防寒のため、ウェットスーツは必ず着用しましょう。

・防波堤や離岸堤付近では、沖合いに流される漂流事故が多発しているので近づかないようにしましょう。

 現場の声として「なめてると本気で命を落とす」と自覚していることがわかります。その割には、毎年15人前後が命を落とすのに、その死亡事故の原因が科学的に追究されているのか、筆者の調査ではわかりませんでした。重大事故防止対策として、サーフボードを自分の浮力体として使い、漂流したら「ういてまて」はまさにその通りでしょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサー編集部とオーサーが共同で企画したキュレーション記事です。キュレーション記事は、ひとつのテーマに関連する複数の記事をオーサーが選び、まとめたものです】

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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