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フランスに引き分けたジャパンは、あと1年でオールブラックスを倒せるか?

永田洋光スポーツライター
フランス戦前半24分に堀江翔太が先制トライを挙げる!(写真:アフロ)

 フランス戦は勝たなくてはならない試合だった。

 誰よりも強くそう思っているのは、実際に体を当てた日本代表の選手たちだろう。

 前半24分に先制トライを挙げた堀江翔太も、「勝たなくてはならない試合だった」と総括した上で、「ティア1という強いプレッシャーをかけてくるチームに対してもっと成長していかないといけない」と、これからの課題を挙げた。

 この試合のフランスは、この国らしいひらめきもなければセットプレーでの嫌らしさもさほどなく、これまで9連敗していた日本にとって、まさに金星を獲得する千載一遇のチャンスだった。

フランス戦を昨年のウェールズ戦のように無駄にするな!

 しかし、結果は23―23の引き分け。

 それでも、6月のぶざまなアイルランド戦を思えば、18日のトンガ戦快勝(39―6)といい、ホームでフランスに勝ちかけたこの試合といい、ジャパンはようやくチームとしてのまとまりを取り戻しつつある。どういうラグビーを貫いて世界で戦うかが少しずつ明確になってきたからだ。

 ジョン・プラムツリー ディフェンスコーチが導入した新しい防御システムは、「前に出て低くタックル」という日本の強みを上手くアップデートして、世界のレベルをキャッチアップしつつある。まだところどころにほころびが出るが、それでも決定的な破綻は減った。

 アタックの際にボールを保持し、パス回数を増やしたことも、攻撃にいいリズムを生んでいる。パスで攻めるジャパンを止めるために相手防御は前に上がってスペースを埋めざるを得ず、おかげで背後にスペースが生まれて、キックが有効に使える状況が生まれた。この欄で再三指摘した、6月までの意図のないキックが大幅に減った結果、キック本来の威力が発揮される環境が整ったのだ。

 では、ジャパンは本当に強くなったのか。

 思い出して欲しい、1年前のことを。

 16年11月、ジャパンはアルゼンチンに大敗(20―54)した直後にヨーロッパに旅立ち、ジョージアに快勝(28―22)して、ウェールズに敵地カーディフで30―33と迫った。

 今年も同じだ。

 オーストラリアに大敗し、トンガに快勝して、フランスと引き分けた。

 昨年11月に、ジャパンが強くなる予感に大きな希望を抱いた私たちは、その後強化の停滞に憤りを覚え、長くじらされた末に、ようやく昨年11月の地点に戻って胸をなで下ろした。冷静に事実を見れば、試合結果が伝えるメッセージは「やっと振り出しに戻った」なのである。

 だからこそ、フランス戦の内容をどう来年度につなげるかが大切になる。

 秋の収穫を減じることなく、18年秋に控えるニュージーランド代表オールブラックス戦、イングランド代表戦へと、いかにチームを鍛え上げるか。そして、確固たる手応えを持って19年9月20日のW杯日本大会開幕戦に臨めるか。

 デッドラインまで残された時間はわずかなのだ。

バックスリーの充実など収穫あった秋シーズン

 収穫は、いくつもあった。

 誰もが認める収穫は、両WTBとFBのバックスリーが固まったことだろう。

 フランス戦では福岡堅樹が左肩を痛めて前半の早い段階で退いたが、この遠征で大活躍したレメキ・ロマノ・ラヴァ、負傷で遠征に参加できなかった山田章仁の3人は、どんなレベルの相手にも通用することろまで力をつけた。

 福岡の負傷で途中出場した藤田慶和も、トンガ戦の終盤にゴール前のピンチで不用意に飛び出すなどまだ防御に課題は残すが、フランス戦では鋭角的に切れ込んで堀江のトライをお膳立てする活躍も見せた。上記の3人が痛んだときの控えにもある程度メドが立ったのだ。

 何より両翼に決定力のあるランナーがいることで、キックを含めてさまざまなオプションが可能になり、アタックの幅が広がった。

 そして、FBの松島幸太朗だ。

 松島は攻守に「スーパー」としか形容しようがないほど、コンスタントに高いパフォーマンスを発揮し続けた。

 松島を真ん中にして、左右に福岡、レメキ。あるいは、福岡、山田。

 この布陣は、トライを奪う嗅覚と能力に優れているだけではなく、ピンチになった場面での防御にも多大な威力を発揮する。しかも、相手に高く蹴り上げられたボールに対してのフィールディングが良く、またキックされたボールのチェイスも上手い。

 攻守に秀でたバックスリーという強みを、来秋のオールブラックス戦やイングランド戦に向けてさらにパワーアップさせ、いかに有効に機能させるか――これが、スタッフの腕の見せ所だ。

 もう1つ、PR具智元、LO姫野和樹、ヴィンピー・ファンデルヴァルト、SH流大といった、19年に向けて主力となるであろう若手が出てきたことも大きな収穫だった。

 “スクラムの鬼”マルク・ダルマゾが惚れ込んだ逸材、具は、フィジカルの強さと強力なスクラムワークで“恩師”の期待を裏切らず、その母国の舞台で強烈にアピールした。

 姫野とファンデルヴァルトは、ラインアウトの高さを除けばテストマッチ・レベルで十分に働けることが証明された。どちらも痛くてキツいプレーを厭わず、体を張れるところが頼もしい。ヨーロッパ遠征では、真壁伸弥が先発に復帰したことで姫野がブラインドサイドFLを務めたが、これも悪くなかった。

 ただ、19年に向けては、ジャンプができる身長190センチ台後半の選手が絶対に欲しい。それがラインアウトからのモールというオプションを、さらに研ぎ澄ますことにつながるからだ。

 流のテンポの速いさばきは、アイルランド戦のときも特徴的だったが、先発出場したフランス戦でもその良さが発揮された。インパクト・プレーヤーとしてこれまでは勝敗が決まった後半途中から入ることが多かったが、それよりも先発してジャパンペースでゲームを作り、締めくくりをベテランの田中史朗に委ねるというパターンの方が有効に思えた。

15年W杯代表組の覚醒を来年以降の強化に活かせ!

 そして最大の収穫は、15年W杯代表組がようやく調子を取り戻してチームの中核として存在感を発揮できるようになったことだ。

 フランス戦では、前半17分にターンオーバーから一気に攻められたピンチでリーチ・マイケルが驚異的なバッキングアップで戻ってトライを防ぎ、27分にはトライの態勢に入ったフランスWTBガブリエル・ラクロワを立川理道が強烈なタックルでタッチラインに吹っ飛ばした。

 W杯の勝利を知る男たちが、勝負の分かれ目で迷わず体を張ったのだ。

 リーチが今絶好調なのはこの2試合を見れば一目瞭然だし、立川も、ディフェンスラインでときどき飛び出してギャップを作るミスもあったが、「絶対に相手にトライを与えない」という気迫で、チームの大黒柱であることを示して見せた。

 田村優もSOとして安定したゲーム・コントロールを見せ、チームに欠くことのできない存在であることをアピールした。田村が外した2回のコンバージョンの内1つが入っていればフランスを破っていたわけだが、むしろチャンスにトライを取りきれなかったアタックの詰めの甘さが引き分けた原因だった。

 FWでも稲垣啓太、堀江が具を上手くリードして力を引き出したように、ようやく金星を知る男たちが覚醒し、勝利へとどん欲に動き出した。そんな感触が得られたのが何よりの収穫だった。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、実は歴代の日本代表監督/HCのなかでもっとも財産に恵まれている。

 お金の話ではない。チームにW杯で南アフリカ戦をはじめ3勝したメンバーが残っていることが最大の財産なのだ。

 この秋、リーチをキャプテンに戻した結果、財産がようやく有効に活用されるようになった。あとは、小野晃征とブロードハースト・マイケルが戻ればチームから穴がなくなるが、これは果たしてどうなるか。

 いずれにしても、来年のサンウルブズから始まるジャパンの強化が、選手たちが体感した勝利への道を踏み誤ることなく進めば、何とか19年に間に合うかもしれない。

 繰り返すが、秋の遠征の収穫は確かにあった。しかし、秋シーズンが1 勝2 敗1 引き分けで終わったのも事実。このバランスシートをいかに黒字へと導くか――ジョセフHCの“財産運用術”が依然として問われ続けている。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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