刑法犯認知件数ってなに?
刑法犯認知件数に基づく全国犯罪発生率マップが作成されています。「どのような地域で、どれくらいの犯罪が起こっているのか」というのは、非常にデリケートな問題ですので、このような数字を扱う場合には、押さえておきたい基本的な議論があります。
そもそも「犯罪数」というのは、警察が〈ある事実〉を〈犯罪〉として認めた結果です(そこには、えん罪のように〈事実〉がそもそも存在しない場合もあります)。だから、「刑法犯認知件数」とは、警察がある事実を〈刑法に違反する行為として認めた数〉のことです。
一般には、「犯罪発生」という言葉が使われますが、犯罪がどれくらい〈発生〉しているのかということは、誰にも分かりません。たとえば、山手線で1日にどれくらいのスリが発生しているのかということは誰にも分かりません。分かるのは、スリの被害届が1日にどれくらいあるのか、また、1日に何人のスリが逮捕されているのかという数字です。スピード違反の件数などもそうですね。
そして、警察がある事実を〈犯罪〉として認める場合、次の2つの場合があり、それに応じて犯罪統計の数字は異なる意味を帯びてくるということに注意を払うべきなのです。
- 110番通報や被害届けや告発を受理する場合のように、警察が受動的に〈犯罪〉を認知する場合(受動的認知)
- 児童ポルノや贈収賄、賭博や薬物事犯などのように、積極的に捜査を進めて行って〈犯罪〉を認知する場合(能動的認知)
とくに能動的認知の場合は、内偵を進め、現場に踏み込んで、犯罪の認知即逮捕というのが典型的なケースだと思います。その場合は、検挙率(認知件数に占める検挙件数の割合)は100%に近いものとなります。つまり、その場合、犯罪統計の数字というものは、そのまま警察の活動記録そのものとなります。
犯罪統計を読む場合には、とくにこの点を注意して読むべきです。
たとえば、今、長野県で青少年健全育成条例の制定が議論になっています。
ここでの論点の一つに、そもそも「脅かしたりだましたりして行う性行為やわいせつ行為」(淫[いん]行)を処罰することが必要な被害事実(立法事実)があるのかという議論があります。
県や県警は、これについて最近、長野県内における児童福祉犯の検挙件数が伸びてきているという統計資料を提出しているそうですが、この児童福祉犯(児童福祉法違反や児童買春処罰法違反など)は警察が積極的に摘発に乗り出して認知されていく典型的な能動的認知による犯罪類型です。
つまり、長野県で児童福祉犯の数が〈増加している〉というのは、この種の事案の摘発に長野県警が積極的に乗り出しているという、その警察の力の入れ具合が出てきているのです。実態として、この種の事案が増えているとは単純には言えません。
端的に言えば、犯罪統計とは、警察が、誰の、どんな行為を、〈犯罪〉として認めているのかという、警察の活動記録としてとらえるべきです。「刑法犯認知件数に基づく全国犯罪発生率マップ」も、基本的にこのような数字を可視化したものとして読むべきだと思います。(了)