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アジアカップで屈辱のベスト8敗退、森保一監督は本当に続投でいいのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 本当のところ、森保一監督の解任はあり得るのか?

 アジアカップ、ベストメンバーを揃えながらベスト8敗退という失態で、「名将」の幻想は消え失せ、その采配が疑問視されている。

「中東特有の環境やモチベーション(欧州組はシーズン中)で負けた」

 森保監督に近い人たちは擁護するが、そんなことは戦前から分かりきっていた。Jリーグ勢中心で戦う選択肢もあった。その場合、采配の比重が高くなって、指揮官の腕の見せ所だったが、彼はその勝負を避けた。

 弁解の余地はない。

 森保監督は大会を通じ、不可解な采配が目立った。例えば、GK鈴木彩艶の起用にこだわって、いたずらに守備を不安定にしていた。また、開幕のベトナム戦でゴール近くでのプレーで異彩を放った南野拓実を次のイラク戦で左サイドで起用し、ブレーキを引いた。主体的な戦い方を掲げながら、浅野拓磨、伊藤洋輝のような選手の起用で矛盾を引き起こしていた。準々決勝イラン戦では、攻撃の可能性を広げていた久保建英を下げ、不調をきたしていた板倉滉を下げられず(あるいはフォーメーションを変えても守りを再整備すべきだった)、悉く打つ手が裏目に出た。

 しかし、解任はあり得ない。

解任には後任が必要

 そもそも、解任するには後任が必要だ。

「海外の名将を招聘すべき」という意見をよく見かけるが、採用は現実的に難しい。日本で知られるような名将たちは、軒並み年俸10億円前後を稼いでいる。今や極端な円安もあって、獲得競争で太刀打ちできないだろう。余談だが、こうした為替事情で、Jリーグの外国人選手も一部チームしか、有力な選手を獲得できなくなっている。

「リバプールのユルゲン・クロップ監督は今年6月末でフリーになるから、交渉するべき!」

 夢物語である。たとえフリーでも、年俸25億円のクロップが交渉の席に着くとは思えない。過去の外国人日本代表監督の年俸は2〜3億円と言われ、10倍以上もの差だ。

 世界的名将と契約するには、よほどのプラスアルファが必要になるわけだが…。

 たとえ親日家の指導者でも、日本代表監督就任には尻込みする理由がある。

欧州マーケットからの撤退

 徐々にアジアと欧州のマーケットは繋がってきているとはいえ、そこにはボーダーラインがある。その行き来は決して盛んではない。実際、日本を率いた外国人監督のフィリップ・トルシエ、アルベルト・ザッケローニ、ヴァイド・ハリルホジッチは今もアジア、アフリカが主戦場で、欧州に戻っても早々に弾き出されている。

 日本代表監督就任は、欧州のマーケットからの撤退を意味する。

 そこで、最近のJリーグのクラブは実績のないスペイン人監督を“安価”で多く招聘しているが、誤解を恐れずに言えば、ほとんどが監督としては2流にすら届かないだろう。アルベル・プッチ、ダニエル・ポヤトス、ベニャト・ラバイン、リカルド・ロドリゲス、フェルナンド・フベロなどスペイン国内では無名の監督を招聘。監督活動の期間はゼロに等しく、リカは一番マシだが、それでも1シーズン、トップの監督を務めていない。

 彼らは、Jリーグで監督経験を積む奇妙な現象が起きている。

 かつてのイビチャ・オシムのような人材は望めないのだ。

消去法の結果

 外国人監督の招聘は、現状では難航するだろう。欧州市場に切り込める交渉役がいない。今の強化の中心はコーチ、もしくは監督が本業だった人たちで、現場が違うのだ。

 そうなると、自然に日本人監督の名前が候補に挙がる。

 例えば長谷川健太監督はガンバ大阪時代に三冠を成し遂げ、有力クラブを数々率い、岡田武史、西野朗、森保監督に匹敵する経歴の持ち主と言える。ただ、三冠はすでに10年前の話。近年も大都市クラブで指導を続けるも、サッカー自体は旧式でディフェンシブ、欧州トップと比べるとかなり見劣りする様式だ。

 鬼木達監督は、川崎フロンターレで4度のJリーグ優勝を経験している。攻撃的なサッカーの信奉者で、今の代表メンバーにも麾下選手が少なくない。ただ、有力選手がクラブに残る傾向が強かった時代は良かったが、天才、風間八宏のコンセプトを継承した調整役の印象で…。

 そもそも、二人はクラブとの契約があることを忘れてはならない。

「暫定的にS級ライセンスを持つ山本昌邦、反町康治、名波浩が率い、次へ移行するのは?」

 そうした折衷案もある。しかし率直に言って、欧州のトップレベルで戦う選手が満足する人物ではない。たとえ臨時でも指揮をとるべきではないだろう。なぜなら、監督歴と言ってもユース年代と20年近く前のことだったり、地域クラブを昇格させるのが得意芸だったり、下部リーグへ落とし続けた監督だからだ(さらに言えば、なぜダイレクター職よりもコーチが本業だった人物がダイレクターをやり、監督しかやったことのなかった人がコーチに就任しているのか)。

 スクランブル状態だったら、西野朗監督の再登板が現実的だが、今年で69歳になる人をまた担ぎ出すのか。

 結局、実績も含めた現役性などの観点から、「それ以上の人材はいない」という消去法で、森保監督に落ち着くのだろう。

 しかし、日本代表選手たちの多くはルベン・アモリム、ミケル・アルテタ、イマノル・アルグアシル、ロベルト・デ・ゼルビ、ユルゲン・クロップなど歴戦の名将たちの下で日々を過ごす。彼らは違う世界を見てしまっている。そこからは引き返せない。

 森保号は矛盾を抱えながらも、荒波に漕ぎ出すしかないのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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