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アンバー・ハード「ハリウッドを捨てた」の報道に「捨てたのはどちら?」の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ちょうど1年前、裁判で証言するアンバー・ハード(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ちょうど1年前のこの日、アンバー・ハードは、ヴァージニア州フェアファックスの裁判所で証言台に座っていた。

 髪をアップにし、クリーム色のブラウスの上に黒のカーディガンを羽織ったハードは、ジョニー・デップから無理矢理ナイトガウンを脱がされ、裸になったまま暴力を受けた屈辱を、陪審員に向かってドラマチックに訴えた。しかし、その泣き顔から涙は一滴も出ていない。そのお粗末な演技はソーシャルメディアで揶揄され、CNNのニュースレポーターにも「真実味が感じられない」とコメントされている。

 陪審員も同感だったようで、最終的にハードは敗訴。1,035万ドルの支払いを言い渡された彼女は控訴するも、昨年末、示談により、ハードがデップに100万ドルを払うということで収まった。その100万ドルは、ハードの保険会社のひとつが払う。

 ハードはもうひとつの保険会社から訴訟されており、彼女にとってこの件はまだ完全に終わってはいない。しかし、メディアで話題に取り上げられることはすっかりなくなり、彼女が最近どうしているのかについては、あまりわからなかった。わかっていたのは、判決後、カリフォルニア州ヤッカ・バレーの家を売り、娘を連れてイスラエルやスペインで時間を過ごしていたということぐらいだ。

 そんなところへ、「Daily Mail」が彼女の近況を報じた。昨年秋、ハードは当時のガールフレンド、イヴ・バーロウ(彼女は裁判の間もずっとハードを支えていた)とスペインのマヨルカ島にいるところを目撃されていたが、その後ふたりは別れ、ハードはマドリッド郊外に住居を移したらしい。ハードの友人を名乗る人のコメントによると、ハードはそこに定住するつもりのようである。

 裁判以来、仕事をまったくしていないハードは、“ハリウッドを捨てた”とのこと。だが、その友人は「彼女はハリウッドに戻ることを焦ってはいない。でも、今がその時だと思ったら、あるいは正しいプロジェクトを見つけたら、きっと戻るでしょう」とも語っている。ハードが代理母を雇って生んだ娘は、現在2歳。友人によれば、ハードはスペイン語を喋れるし、静かなところで子供を育てたいのだそうだ(ハードがスペイン語を話せるのは、テキサス州オースティン郊外に育った子供時代、建築業の父が国境を越えてメキシコから労働者を雇いにいくのによく同行したせいである)。

「スペインがお気の毒」「何のビザで?」

 だが、この記事を読んだ人たちの多くは、額面通りに受け取っていないようだ。ソーシャルメディアには、「捨てたのはハリウッドのほうでしょ」「持っていないものを捨てることはできないよね」「求められていないから出て行っただけのこと」など、揶揄するコメントが多数寄せられている。「スペインがお気の毒」「アメリカ人は国旗を掲げて祝福しよう」「嘘つきでヘイトに満ちたナルシストの顔をもう見なくて良いと思うとホッとする」などという辛辣な声もあるし、「そもそも何のビザで?」「収入はどうするのか」という素朴な疑問も聞かれた。

 そこはたしかに大きな謎だ。収入に関していえば、ハードはデップとの離婚で700万ドルをもらっている。3回の分割払いで、最後の支払いがなされたのは、2018年2月と、5年前。デップから訴訟されることなど思いもしなかった頃だし(訴訟の原因となったハードの意見記事が掲載されたのは2018年12月)、彼女にとって初のメジャースタジオ超大作「アクアマン」の公開も控えていたハードが、そのお金を何の不安もなしに好きに使ってしまったのか、あるいはきっちり貯金したのか、わからない。

 ヤッカ・バレーの家を売ったことで得た収益もある。ハードが2019年に57万ドルで買ったその家は、昨年夏、およそ倍の105万ドルで売れた。とは言え、そこから税金も取られるし、仕事をせずに子育てしながら暮らしていく資金としては限界があるだろう。裁判が終わった頃には、回顧録を書くというオファーが来ているとの報道もあった。しかし、言うことのほぼすべてが嘘だとバレてしまい、統計で最も嫌われているセレブの4位にもなった人の本を出そうという会社が本当にあるのだろうか。仮に出したとしても、どれだけ売れるものか。

ハリウッドを「捨てた」彼女の今後は

 とりあえず彼女には、この冬、「アクアマン」の続編「Aquaman and the Lost Kingdom」の公開が控える。この映画でもらったギャラは、200万ドル。しかし、そこからタレントエージェントのコミッションが引かれるし、当然、税金もかかる。

 さらに、先にも述べたように、ひとつの保険会社との訴訟はまだ続いていて、その弁護士代もかかり続けている。ハードは名誉毀損で訴訟された場合にその弁護士代をカバーするホームオーナーズ保険にふたつ入っており、デップとの裁判の弁護士代はそこから出たが、ハードが意図的にデップの名誉を毀損していたとわかったため、この保険会社は支払い義務がないとしてハードを訴訟しているもの。つまり、この裁判は名誉毀損についてのものではなく、弁護士代を保険から出してもらうことはできない。

 裁判で負けてからも、DV被害者だという主張を死ぬまで貫くと息巻いていたハード。ハリウッドを捨てた、いや、ハリウッドから捨てられた彼女は、そこに何か次の活路がないか、模索しているのだろうか。スペインで静かな生活を送りつつ、いろいろと考えをめぐらせているのかもしれない。幼い娘のためにも、その作り話こそ捨てて、前向きに人生を歩いてほしいものだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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