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焼肉食べ放題に配膳ロボットを導入 34歳新社長は「人の力」をどう考えるのか

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
2020年9月に物語コーポレーションの社長に就任した加藤央之氏(千葉太一撮影)。

コロナ禍で飲食業界は客数が減り一様に売上を落としているが、対前年同月比で二桁増を遂げているところがある。それは「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」「お好み焼本舗」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」など十数のブランドを展開する株式会社物語コーポレーション(本社/愛知県豊橋市)だ。店舗のほとんどはロードサイドにあるので都心に住む人にはなじみはないかもしれないが、食事時となるとどの店も駐車場は満車状態になっている。

同社は東証一部上場。2020年6月期は、国内総店舗数529(直営+FC)、売上高579億6000万円だった。世の中がコロナ「第三波」の渦中、11月度の直営店の既存店売上高は対前年同月比114.0%だった。中でも直営156店舗の焼肉部門は123.3%である。なぜ、これほど強いのか。

好調な同社の中でも強さが際立つテーブルバイキングの「焼肉きんぐ」(物語コーポレーション提供)。
好調な同社の中でも強さが際立つテーブルバイキングの「焼肉きんぐ」(物語コーポレーション提供)。

ロードサイドで地域一番店になる方法

筆者は12月1日、代表取締役社長の加藤央之(ひさゆき)氏にインタビューをする機会を得た。加藤氏は9月24日、34歳という若さで社長に就任し話題となった。創業家ではなく同社のプロパーであり、異例の抜擢という印象を受ける。しかし加藤氏は早くから営業、開発部門の重責を担ってきた。その日ごろの存在感から、社長就任は当然のことと社内では納得感をもって受け止められたようだ。

加藤氏は「外食マーケットはシュリンクしている」という状況を真摯に受け止めながら、その中で勝ち続けていくために「地域一番店」を推進していると語る。この地域とは、人々が居住している場所であり、ターゲットはファミリーだ。

「月に3回外食をしていた人が、月2回になっているとしたら、減らしている部分の筆頭は会社の仲間と飲みに行くことでしょうか。こんなことで最後に残るのは、日曜日に家族で外食をすることです」

「外食がシュリンクしていくと、飲食店は業種の戦いになっていきます。『何を食べに行こうか』とお客様が考えた時に、マーケットの大きい強い業種に気が向きます。それが『焼肉』や『すし』ということになるでしょう」

「その中で、さらに選ばれる回数が少なくなるわけですから、選ばれるためには『地域一番店』になる必要があるということです」

「地域一番店」となるためのポイントは、まず地域の「一番立地」にあること。「大胆な看板」によって店の存在が目立つこと。さらに「フォーマットの力」と「人の力」があり、それが融合していること。その店に行って「笑顔」になり「元気」になれること。ここで述べた「フォーマットの力」の事例として、同社の強いブランド「焼肉きんぐ」の「100分2980円(税抜)食べ放題」を挙げてくれた。これは今日の焼肉食べ放題のモデルとなっている。

「焼肉きんぐ」はテーブルバイキングの業態で2007年に誕生した。それまでの焼肉食べ放題は、お客は生肉が陳列されたコーナーに取りに行って、それを自前で焼いて食べるというスタイルだった。率直に述べて、お客はその生肉のクオリティに欲求不満を抱いていたようだ。そのような状況の中で生まれた「焼肉きんぐ」は、出店した近隣のお客はから大いに歓迎された。同じ食べ放題であっても、テーブルバイキングはお客が注文したものを従業員がテーブルまで持って来てくれる。

テーブルバイキングの満足度は皿数

また、「焼肉きんぐ」をブラッシュアップするためのポイントを尋ねたところ、加藤氏はこのように語った。

「テーブルバイキングの満足度とは基本的に皿数にあります。いかにいろいろな種類のメニューをたくさん食べることができたか、ということですね。そこで提供効率といったオペレーションを考えると一品当たりのポーションを大きくしがちになるのですが、それではお客様の満足度が著しく下がる。いかにポーションを小さくするかが重要なのです」

同社では、テーブルバイキングの「焼肉きんぐ」と「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」の計310店舗で配膳・運搬ロボットを2021年1月から順次導入する。導入台数は443台になるという。導入先の業態をこの2ブランドとしたのは、テーブルバイキングとの親和性が高いからだという。

この1月からテーブルバイキング業態で順次導入していく配膳・運搬ロボット(物語コーポレーション提供)。
この1月からテーブルバイキング業態で順次導入していく配膳・運搬ロボット(物語コーポレーション提供)。

導入に向けては、2020年1月から配膳業務などの実証実験を重ねて、十分な効果が見込めると判断したという。加藤氏はこう語る。

「店の中の作業でロボットに任せることができる部分はたくさんあると思いながらも、そんなことは難しいのではないかと考え、担当者にさまざまな要望を伝えました。実際にやってみたところ、人件費の削減につながり、かつ削減して得たものを人材の有効活用とさらに能力を引き上げる投資に使うことができる。そして人にしかできない感情労働の部分に人を配置することができるということがよく分かりました」

付加価値は人でなければできない仕事

同社には「おせっかい」という文化が存在している。「焼肉きんぐ」では「焼肉ポリス」という役割の従業員、「ゆず庵」には「しゃぶ奉行」の従業員がいて、彼らがお客様のテーブルに伺って、最も良い状態でお肉を食べていただくために調理法の案内を積極的に行うというものだ。

「焼肉きんぐ」でお客様がおいしく焼肉を食べるための「おせっかい」をはたらく「焼肉きんぐ」(物語コーポレーション提供)。
「焼肉きんぐ」でお客様がおいしく焼肉を食べるための「おせっかい」をはたらく「焼肉きんぐ」(物語コーポレーション提供)。

配膳・運搬ロボットの実験によって次のことが分かった。このロボットは1日300回配膳する。距離にすると8kmとなり、休みなく働く。そのぶん従業員は「おせっかい」に時間がとれるようになり、例えばこれまで2時間とるのがやっとだったところ、4時間余りに増やせる計算だ。

「ロボットを使用することによって人件費を減らすことができるが、それによって得られたコストを、より人でなければできない部分に掛けていこうと考えました」(加藤氏)

営業中の最も煩雑な作業は配膳・運搬である。テーブルバイキングの満足度は皿数と前述したが、これまでは店が忙しくなることによって、ここに時間が取られて「おせっかい」ができない場面もあった。そこで、配膳・運搬をロボットが担うことによって、「おせっかい」をより活発に行うことができる。こうして店の付加価値を高めていこうという狙いが込められている。この姿勢こそが、地域一番店をより強くしていくと考えている。

「これからは、人でなくてもいいという部分は、ロボットやAIに置き換わっていくことでしょう。一方で、人にしかできないという部分はますます重要視されていきます。ロボットを活用することで付加価値に変えていくことが、店の永続性をつくり上げる上で重要になります」(加藤氏)

このようにフードサービス業界の中には若いリーダーが指揮をとって斬新な改革を進めている企業がある。業界の未来を切り拓く存在として、加藤氏と同社の動向が注目される。

威風堂々とした加藤社長の姿勢が周囲からの信頼感を厚くしている(千葉太一撮影)。
威風堂々とした加藤社長の姿勢が周囲からの信頼感を厚くしている(千葉太一撮影)。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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