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地上波に復帰するチュートリアル・徳井義実がそれでも下ネタにこだわる理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

2019年10月に税金の申告漏れと所得隠しが発覚して、芸能活動を自粛していたチュートリアルの徳井義実が、8月26日深夜放送の『東野・岡村の旅猿17』(日本テレビ系)で地上波に復帰することが明らかになった。

数ある笑いの手法の中でも、下ネタは特に取り扱いが難しい。プロの芸人の中でも好き嫌いや向き不向きがはっきり分かれる。例えば、かの萩本欽一が「下ネタ禁止」を標榜しているのは有名な話だ。かつての演芸界では「下ネタはプロのやることではない」という不文律があったのだという。

だが、テレビバラエティの世界では、1980年代以降、芸人やタレントが素に近い感じでやりとりをするのが好まれるようになり、下ネタもなし崩し的に広まっていった。

現在のお笑い界で、下ネタを得意とする芸人として真っ先に思い浮かぶのがチュートリアルの徳井義実である。彼はエロ系の妄想トークで笑いを取ることが多い。徳井がMCを務めたお色気番組『徳井義実のチャックおろさせて~や』(BSスカパー!)は、地上波では実現不可能な過激でバカバカしい笑いを追求しており、一部のお笑いマニアから熱狂的な支持を集めた。

ただ、自他共に認めるエロ芸人であるはずの徳井には、不思議と汚れたイメージがなかった。自分から下ネタという沼地に足を突っ込んでいるのに、泥にまみれている感じがしない。いわば、徳井には「下ネタを言う人」というイメージはあっても、「下品な人」というイメージはなかった。これはなぜだろうか?

2016年3月20日放送の『ボクらの時代』(フジテレビ系)で、徳井は「あ、俺いまめっちゃ気持ち悪い、っていうときある」と語っていたことがある。

彼は40歳を超えて、エロい話をするときに今まで以上に気を付けるようになった。40代の男性が嬉々として猥談をしている姿は、若い女性には単に気持ち悪いものに見えてしまう可能性がある。だからこそ、下ネタの出力調整には敏感になる必要があるというのだ。

下ネタ、特にエロネタの場合、その後味を極力爽やかなものにしなければ、テレビで見せられる商品にはならない。「あっさり仕上げ」であることが重要なのだ。そのためには、一線級の投手のような繊細なコントロールが要求される。

例えば、どちらかと言うと「ブサイクキャラ」寄りの男性芸人がえげつない下ネタを言うと女性に引かれてしまうことが多いのは、気味が悪いと受け取られてしまいやすいからだ。

一方、イケメン系の芸人が下ネタを言うと、それはそれで本物の性行為を連想させるような生々しさがあって、そのことがマイナスに働くこともある。あくまでも、その中間にあるストライクゾーンだけを狙わなくてはいけない。

イケメン芸人として知られる徳井の場合、少しでもバランスを間違えると、生々しくなってしまうことはありうる。40代を迎えて、「おにいさん」から「おじさん」に変わった彼のストライクゾーンはどんどん狭くなっている。それでも、徳井はそこに挑み続ける。

なぜ徳井はそこまで頑なに下ネタをやり続けるのか? 端的に言えば「好きだから」ということになるのだろうが、もう一歩踏み込んで推測するなら、それが徳井にとって「自分が芸人であることの証」だからではないか。

徳井は、自分の見た目がいいことを褒められたり指摘されたりすると、そこに素直に乗っからずに、戸惑いを見せることが多い。自分がイケメンであることに酔っている素振りがない。

それどころか、外見が整っていることを芸人としての弱みだと思っている節もある。「外見は親からの授かり物だからそれを褒められても嬉しくない。中身が優れている人の方がすごい」などと徳井はしばしば語っている。

あくまでも芸人でありたいという意識が強い彼にとって、「イケメン」という外見は強みでも何でもなく、むしろ足枷になっているとすら本人は思っている。

芸人としての武器を探し続けた結果、自分の中の変態性を押し広げていくことで、彼は「下ネタ」という武器を見つけた。それは、徳井の生来の妄想癖のようなものを、笑いと結びつけるときにちょうどいい媒介となった。

そして、イケメンでスマートなキャラだと思われがちな徳井が、芸人らしくあるためにも好都合なものだった。

「俺はただのイケメンじゃない。こんな外見なんて俺にとってはどうでもいいんだ。もっと俺の中身を見てくれ」

そんな彼の心の叫びが、ギリギリを攻める下ネタの原動力になっている。エロが得意な徳井のエロ。それは、イケメン芸人の徳井がお笑い界で認められるためのパスポートのようなものなのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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