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「汚れ」を制するには「水」を制すべき?防水・撥水スプレーの上手な活用法

藤原千秋ライター、住生活ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

住宅設備にしろ衣類や靴など身につけるものにしろ、多くの「汚れ」というものは「水濡れ」と切り離せないものです。

水濡れにより汚れの微粒子がものに付着しやすくなることもありますし、濡れた状態が長時間維持されてしまうことで細菌やカビの繁殖、代謝によるニオイやシミが発生してしまうことがあります。腐って朽ちてしまうこともあります。

また汚れがなくても水そのものに含まれるミネラル分が石化したり、水との化学反応で素材自体が分解、または錆びてしまうなど、さまざまな影響を受けてしまいます。

もともと液体状だった汚れの場合はもとより、乾いた汚れであってもそこに水の力が加わることで汚れの微粒子が繊維や構造の奥深くまで届きやすくなり、より落としにくくなります。つまるところ「汚れを制するには水を制す」と言っても過言ではないと言えるでしょう。

およそこのような背景もあってか、近年身の回りに「防水(ぼうすい)」「撥水(はっすい)」グッズが増加しています。店頭等でお気付きの方も多いのではないでしょうか。

元からその機能をもたせているものだけでなく、後付けで「防水・撥水」といった性能を加えられる「防水剤」「撥水剤」(主にスプレー)が靴用や衣類用、アウトドア用、自動車用で売られているほか、住宅設備用のものなど、市場に増えてきています。

今回は、改めてこの「防水・撥水剤」の基礎知識をおさらい、特に住まいの家事・掃除用途での活用方法についてご説明したいと思います。

防水と撥水の違い

写真:イメージマート

「防水・撥水剤(スプレー)」といった商品があるうち、もっとも身近かつ、すでに使用した経験のある方の多いジャンルは「靴」に対してのものではないでしょうか。店舗によっては靴の購入時にその場でスプレーしてくれるサービスもあるなど、知らぬ間にその恩恵に与っていることもあるかも知れません。

基本的に「防水(ぼうすい)」とは、水を(そのものの内部に)通さない、ということを意味し、「撥水(はっすい)」は水を(そのものの表面で)弾く、ということを意味します。

対「水」という点では同じですが、意図するところは似て非なる目的といえます。そのため、使用される主原料(主剤)も「防水」スプレーや加工の際には「シリコーン樹脂(ポリシロキサン)」が、「撥水」スプレーや加工には「フッ素樹脂(パーフルオロアルキルアクリレートコポリマーなど)」が使用される傾向がありますが双方を併用している商品もあり、厳密に区分けされているわけではないのが現状です。

また目的が「防水」「撥水」に加え「撥油」「防汚」なども意図する住まいの設備を対象にした商品は、撥水剤などではなく「コート剤」と呼ばれることが多い点も覚えておくと良いでしょう。

市販の「防水・撥水剤(スプレー)」

提供:イメージマート

巷で市販されている「防水・撥水剤(スプレー)」は現状とても種類が多く見えますが、大まかには以下のように分別できます。

・靴一般用

革靴、スエード靴、スニーカー等靴一般に使える。主剤はフッ素樹脂。撥水のみならず撥油機能もあり。

・布用ハイブリッド

靴一般用に似ているが靴以外の布、繊維(レインコートなど)にも使える。主剤はシリコンとフッ素のハイブリッドタイプで静的撥水のみならず動的撥水にも効果が有る。

・布用オールマイティ

主剤はフッ素樹脂で、革靴や布靴のほか帽子、傘、衣類、アウトドア用品などにも使用可能。防汚効果も。

・布、繊維プロテクター

住まいの布、繊維製品の水濡れ汚れ予防のメンテナンス用、プロテクターとして使用。主剤はフッ素樹脂など、製品によってまちまち。

・住宅設備用

主剤はシリコン系(オイル)やフッ素樹脂など。住宅内のキッチンシンクや洗面ボウル、トイレ便器内などの撥水効果を高めて汚れを付きにくくする。

・クルマ用

主にフロントガラス等のコート剤。主剤はシリコン系。

商品のサイズなどにもより価格には、かなり幅があります。また天然皮革には使えても合成皮革には使えなかったり、布には使えてもゴム部には使えなかったりと、製品によって使ってはいけないものが異なることがあります。主に防水・撥水させたい目的の素材だけでなく、付帯している素材にこの「使ってはいけないもの」が当てはまらないかなども購入時にはチェックする必要があります。

「防水・撥水剤」、住まいの中での活用シーン

写真:イメージマート

・窓ガラス(外側)の汚れ防止にスプレー、塗布

雨戸がなく泥砂や煤煙を含んだ雨水が直接当たり、うろこ状の汚れが付きやすい窓ガラスの外側の水滴を弾いて付着しにくくします。また窓掃除自体を簡便にする効果もあります。ただし「防水・撥水剤」の使用前に念入りに窓掃除をする必要があります。窓掃除自体は湿度の高い日、弱い雨の日などが適していますが、「防水・撥水剤」を塗布するなら天気のいい風のない日がマストです。

・窓ガラスの結露対策に塗布

冬場に付着しやすい、窓ガラス内側の結露を、水滴にして落としやすくします。窓枠の下部に水滴を吸い取るタオルやスポンジを仕込んでおき、溜まった水滴を適宜絞り捨てて濡れた状態を保持しないようにしましょう。

・カーテンの結露濡れ対策に塗布

結露で濡れたカーテンはシミになり、またカビやダニの温床になりやすいので、「防水・撥水剤(スプレー)」で撥水することで濡れにくくします。

・布ソファの水濡れ汚れ対策に塗布

ソファ上で飲み物をうっかりこぼしたり、ペットや子どもが粗相した時など、布地に汚れを染み込みにくくします。万一汚れた際にも拭き取りやすくなります。

・水回りの水垢付着予防に塗布

キッチン、洗面、トイレなど、水に触れている時間の長い箇所の、水垢汚れの付着を防止し、水垢汚れからのヌメリやカビ、サビの発生を抑え、普段の掃除をしやすくします。

防水・撥水「スプレー」の要注意点

提供:イメージマート

とりわけスプレー状になっている「防水・撥水剤」は取り扱いが簡単なこともあり、また、だいたいが天気の悪い時に突発的にかけたくなるもの。

しかしこの防水・撥水「スプレー」を玄関内などで使用したことによる急性肺障害が報告されています(※1)。スプレーに含まれる微細なシリコンやフッ素樹脂を吸い込んでしまい、肺をコーティング。呼吸困難や肺炎、高熱を起こしてしまったというものです。

玄関内は、土足にはなりますが屋外ではありません。スプレー状の「防水・撥水剤」を使用するのは基本的に屋外で、またその屋外で使用する際にもスプレーの霧を吸い込む風下に居ないように注意してください。

ちなみに防水・撥水スプレーではない衣類用スプレーなどでも同様の健康被害が生じています(※2)。微細なスプレー関係を家庭で使用する際にはくれぐれも吸入しないよう十分な注意が必要です。またできるだけお年寄りや子どもに取り扱わせることは避けたほうがいいでしょう。

とはいえ、こと子ども用の上履き(ズック靴)などに使用すると靴洗いが断然楽になるという効用などもあり、「防水・撥水スプレー」というものは、うまく使えば家事掃除の手間を省き、ひいてはQOLを押し上げる効果の大きな道具の一つであることは確かです。

気温の低さも相まって水濡れ全般が辛い季節になりました。ぜひ安全な方法で注意して使用し、「防水・撥水・撥油・防汚」 の恩恵に浴してください。

※1 防水スプレー吸入による急性肺障害の 1 例

https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/75/2/75_92/_pdf/-char/ja

※2 家庭用防水スプレーによる中毒事故に注意!!~使用方法を誤ると呼吸困難や肺炎等の重篤な事故につながります~

https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/sodan/kinkyu/160822.html

ライター、住生活ジャーナリスト

「家のなか」の事をテーマにウェブ、雑誌、新聞等で執筆。大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。主な著・監修書に『人生が整う 家事の習慣』(西東社)、『ズボラ主婦・フニワラさんの家事力アップでゆるゆるハッピー!!』(オレンジページ)、『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)等。2020年1月より東京中日新聞にてコラム『住箱のスミ』連載中。

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