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ポスト・コロナ、財源なきベーシックインカムなどポピュリズムを排して冷静な議論を

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:ロイター/アフロ)

いまだ終息を見せぬ新型コロナウイルス問題だが、ポスト・コロナの世界では社会思想も大きく変わっていくだろう。人々の国家に対する期待のあり方は、ここ20年わが国を席巻した新自由主義からくる「小さな政府」への反省、より親切な「大きな政府」に向けて議論が変化してくるだろう。

しかしその議論が単なるポピュリズムに終われば、わが国の国家破たんにつながる。そうなれば医療も介護も、われわれの生活も新型コロナの比ではない深刻な事態に陥る。

議論のきっかけとなるのは、国民全員に所得条件を付けず10万円を給付する特定定額給付金だ。これをどのように位置付け、今後の政策として発展させていくべきだろうか。

政府はこの給付金を、「緊急事態宣言の下で人々が連帯して一致団結し、見えざる敵との闘いという国難を克服するための簡素な仕組みで迅速かつ的確な家計への支援策」と、経済対策ではなく「連帯への支援」と位置づけている。

これは、番号の活用が遅れ、欧米のように所得制限を設けることができないわが国のセーフティーネットの弱点を覆い隠す言い訳のようにも聞こえる。この点は3月16日の本欄に書いたとおりである。

問題は、すでに、これまで新自由主義を掲げて現実に政治を動かしてきたタレントや学者が、この給付金をベーシックインカムにつなげるべき、とポピュリズム的言論を吹聴し始めていることだ。

ベーシックインカムとは、無条件に(働いているかどうか、資産を持っているかどうかにかかわらず)国民全員に、最低限の生活ができる水準の(例えば毎月10万円程度)現金を給付する制度だが、国民全員の生活が保障されれば、コロナウイルスに感染されるリスクの高い運搬やごみ処理の仕事は誰がするのだろうかという素朴な疑問に答えられない。

導入のためには120兆を越える財源が必要となるが、「人の命を救うのに財源の問題などするのはおかしい、国債発行と日銀ファイナンスでやればいい」とヘリコプターマネーという極論に発展しつつある。

ポスト・コロナに予想されるのは、相当のインフレ経済の到来だ。インフレで金利が上がればわが国のように国債発行残高の大きい国家財政は、日銀ファイナンスが限界に達し破たんに向かう。そうなれば、医療の介護も崩壊する。どこまで行っても、財源の問題から逃れることはできないのである。

ポスト・コロナのまっとうな議論としては、コロナ禍が浮き彫りにした貧困・格差問題への対応があげられる。米国ではコロナ感染率が所得水準により大きく異なることが問題となったが、わが国でも感染予防のためのホームワークの可能な勤労者は大企業のホワイトカラーが中心で、サービス業や製造業の勤労者は難しいという状況があぶり出された。NHKの最近の世論調査では、所得格差が大きすぎると思っている人が70%近くに上ると報道された。

ポルトコロナで国家の役割、責任に議論が発展するが、最終的には財源(税金)の問題に行きつく。安易なポピュリズムに流されることなく、負担と受益の問題を逃げることなく正面から議論する。同時に所得再分配機能を強化する税制の見直しも行っていくということではないか。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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